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どうやら、錬金術師とニアミスらしい

 新大陸到着!

「地面……っ! 愛しの地面……っ!! あぁ、もう離れない!!」

「元の大陸に戻る時ぁ、また船に乗るしか無ぇんだがなぁ?」

「せめて今だけは浸らせろよっ!!」

「そりゃ、すまねぇなぁ」

「あー、あー……土塗れになってんゾ。程々にしておけヨ」


 船を降りるや否や、地面にダイブして五体投地。そのままスリスリと地面に顔と言わず全身を擦り付けて地面を堪能するブサは何とも幸せそうだった。サミュエルに混ぜっ返されてすぐに反論しちえたが。リュシアンの忠告も虚しく、既に体は土埃に塗れて茶色く変色している。


「ほらほら、そこにいると他の方の邪魔になりますよ」

「へいへい……」


 スリスリからのズリズリ。芋虫のように移動するブサの体がさらに汚くなって行く。

 何故、わざわざ汚くして行くのか。汚れた体を洗うのは誰だと思っている、いっそアンリに任せてやろうか。リュシアンの思考が若干攻撃的になるのも無理は無い。十数日に渡る航海は、娯楽の少なさも相まってそれなりのストレスを溜め込んでいたのだ。


「ほれ、行くゾ」

「あぁ……っ! 地面ちゃん!!」

「茶番は良いから、さっさと進め」

「「へぇい(イ)」」

「ヴニュ(私になら存分にスリスリして良いのに)」

「ブサは女心を分かっていませんね」


 ならばアンリは何を理解していると言うのか。そしてもはやジョゼと会話が成り立っている事に突っ込む気も起きない。突っ込んでるって? 気のせいです。 


 流石に船旅で疲れた体で無理をしたくもない。今日、明日はゆっくりと体を休めてから件の錬金術師を訪ねる予定だ。

 今日の所はパーッと騒いで、飲んで。寝るのみである。


「つー訳で、飲みに行く野郎は手を上げろー」


 ロランの号令にハーイ! と上がる手が三つ。

 普段ならば此処でブサの手も挙がる筈と思ってそちらを向くと、双方後ろ足で立ち上がって両前足をがっつり組み合わせてぐぎぎぎぎ……! と力比べの真っ最中。手を挙げたいブサと、引き止めたいジョゼの力比べだ。乙女心(物理)である。ブサの方が押され気味なのが何とも情けない。

 ふぬぬ! と全力のブサと、余裕の表情のジョゼ。普通逆じゃない? 否。野生に生きるジョゼと、怠惰に生きているブサの力の差は当然なのである。


「ジョゼもご一緒に如何ですか?」

「ヴニャンッ(そうするわ)」

「のわっ!?」


 アンリがジョゼも誘った事で、あっさりと二匹の力比べは終了した。そもそも、ジョゼからしたらお遊びでしか無かったのだが。少しでも触れ合って居たいじゃない? とはジョゼの心情。

 力比べが終わったその際、スルリとジョゼの力が抜けたせいでブサが転がる事になったのはお約束である。綺麗に一回転してベチャリと潰れる。

 ジョゼはどうやら、ロランの『野郎』の言葉で遠慮しようとしていたらしい。もっとも、誘われればアッサリと同行する程度の遠慮だったのだが。だってブサと一緒にいたいもん。乙女心(ノーマル)です。



 * * * * * * * * * * *



「……んで、本当に此処がその錬金術師の家? なんだよナ?」

「……その筈だが」

「……家、ですか?」


 どう見ても木です、本当にありがとうございました。

 件の錬金術師は町中に住んでいるものと思いきや、以前に町中でやらかしてしまったせいで町から離れた所に引き篭もってしまったらしい。一体何をやらかしたのか。ソレを知ったロランは頭を抱えていた。件の錬金術師は一応知り合いなので。だが、素行を聞くにあまり大っぴらに知り合いだと話したくないようだが。

 町中で錬金術師の現在の住所を聞き回ったところ、教えてもらったのが此処(・・)だったと言う訳だ。町中で聞いた通りに来てみたのだが、ロラン達の前にそびえているのはどう見ても木である。さては木の上か? と思ったが、ツリーハウスのような物は無く、枝と葉が風に揺れるのみだ。そもそも、ツリーハウスが作れるような太さでも無い。


「場所は間違って無ぇよなぁ?」

「何人かに聞いたから間違い無い、筈だ」

「騙されたんじゃねぇの?」


 ブサの言葉に、ムゥと考え込む。町人達が嘘を吐いている気配は無かったと思う。だが、実際に目の前にあるのはただの木。自分達が騙されたとは考えたくは無いが、騙したとして町人達に何の利があるというのか?

 それとも、自分達が接触しようとしていた錬金術師が危険人物の為、接触しないように嘘を教えたのだろうか? だが、それにしては自分達が訪ねた全員が同じ場所を示すというのが不可解である。

 あるいは、町人達の言葉に嘘は無く、以前はこの辺りに住んでいたのだが引っ越してしまったとか……町人達はそれを知らなかったのでは無いか?

 色々と考えるも正解が分かる筈も無く、ただ時間だけが過ぎていく。


「う――ん……」

「どうしますか? 一度、町に戻りましょうか?」

「……このままなら、それもやむを得ないかもな」

「ならさ、ならさ! また一昨日の酒場行きたい!!」

「また太るから却下」

「そんな……っ!?」


 さり気無くブサはダイエットに成功していた。もちろん正規の手段では無く。ではどうやったのか?

 やり方はとっても簡単、その名も『トラウマダイエット』です。毎日全身をガクガク震わせていれば、かなりの運動になるよね。でも危ないからみんなは真似はしないでね! 出来んわ。


 そして話を戻して。ロラン達の前に佇む木は、どう見ても何の変哲も無い木である。

 グルリと一周回ってみたが、何処にも入り口は無い。これが巨木であれば内側をくり抜いて住んでいるんじゃないか? という予想も出来るのだが、目の前にある木は直径一メートルも無いだろう。とてもじゃないが、中に人が住める空間は無いだろう。周囲も同じ位の太さの木しか無い。

 とりあえずコツコツと木を叩いてみても、中から返事が返って来る筈も無く。どうしたものかと悩むロラン達の願いが通じたのか、その瞬間事態は動いた。


 異変が起こったのはロラン達の横に転がる巨石。暇潰しに巨石に登っていたブサが無意味にドヤ顔をかましていた時、鈍い低音が辺りに響く。


「ひょぉぉぉぉぉ……!」

「伸びタ」


 そうとしか言いようが無い。岩が、伸びた。しかも、上にブサを乗せたまま。


「降ろしてぇぇぇぇ!!」

「無理」


 今のブサは見上げる高さに居る。それだけ岩が伸びたという事だ。

 岩が伸びるなんて、普通ならば有り得ない。普通じゃなくても有り得ない。警戒しながら岩から距離を取るロラン達の前で、ゴゴン! と再び鈍い音を響かせて巨石に穴が開いた。否、巨石の一部がスライドしたのだ。どうやら、自動ドアのようなものらしい。

 ゴクリ、と息を呑む面々。ブサもゴクリ、と息を呑んだ。ここ高い。じっとしてろ。


「「「「「…………」」」」」


 カツカツと岩の奥から足音が聞こえる。

 しばらくしてからヒョコリと顔を出したのは、メイド服を着た金髪の美少女。良い趣味をしていらっしゃる。


「美少女ひゃっは――――!!」


 美少女と見るや否や、高低差なんて何のその。メイド服の美少女の、胸元目掛けて飛び降りるブサは紛れも無い変態だった。ロラン達が止める隙も無い。

 あわやブサの毒牙に掛かってしまうのか? と慄いた瞬間、美少女がスッと無表情で横に移動した事で事無きを得た。そしてブサの着地点には準備万端なジョゼの姿。


「ヴニャーン(ばっち来ーい)」

「いやぁぁぁぁぁぁ!?」


 変態はお断りなのです。


「ようこそ、お客様方。ただいまご主人様は不在ですが、何か御用でしょうか?」

「ご主人様来た――――!!」

「お前は黙ってろ! あー、すまん。ロランと言う者だが、ダミアンはいつ戻る? 後ろのこいつらは俺の連れだ」

「……ご主人様のお知り合いの方でしょうか? ご主人様でしたら、明日お戻りの予定です。もしよろしければ客室にご案内しますので、今日はお泊りになられては如何でしょうか?」


 メイドの言葉はロラン達にとっては非常にありがたい。だが、ここで問題が一つ。チラリと視線を足元にやれば、ジョゼに羽交い絞めにされながらもジリジリと美少女メイドに近付こうとするブサの姿。

 ロラン達が気にしている理由を知ってか知らずか、メイドは一つ頷くと「問題ありません」とロラン達に告げる。


「ご主人様の研究所には重要なモノや危険なモノが多くありますので、警備は万全を期すようにしています。ですので、ロラン様方が無理に研究所に侵入しようとしない限りは問題ありません」

「いや……俺らが心配なのはそっちじゃなくて……ん、まぁ、なんだ。泊めて貰えるなら、ありがたく世話になる。よろしく頼む」

「はい、それではご案内致しますね」


 そしてロラン達は岩の中へ消えて行った。鼻息を荒くするブサを連れて。ブサが何を考えているかなど、ロラン達にはお見通しである。何をするにしても、自分達に迷惑が掛からなければそれで良い。どうせ、後悔するのは自分なのだから……。

 最後。この後何が起こるかはお分かりですよね?

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