どうやら、船旅も終わりを迎えるらしい
大漁!
「……俺、もう船に乗りたくないぃぃ……! 早く地面に降りたいよぉぉ……!」
「……正直やり過ぎた。心から反省している」
「「「…………」」」
びゃぁびゃぁと子供返りして泣き喚くブサを前に、気まずそうに目を逸らすのはロランだ。それを見守るリュシアン達はカオスな一人と一匹から目を逸らして知らん顔……というか、関わりたくないでござるという雰囲気を隠しもしない。
そして、その周囲には毒魚の山……と、端っこで大事そうに宝物のように台座に載せられた小魚一匹。
流石に二メートル越えこそ出なかったものの、一メートル超えが数匹と通常サイズ~巨大毒魚と呼ばれる五十センチ程の大きさが合計数十匹。そして最後にやっと釣れてくれたイワシのような五センチ程の大きさの小魚が一匹。
最後の小魚だけが、唯一ロランの釣った毒魚以外の戦利品である。
毒魚では無い小魚を釣った瞬間のロランの喜びようは並大抵のものでは無かった。
やっと釣れた初の毒魚以外の魚である。たとえそれが五センチ位しか無い小魚であろうとも、初の毒魚以外の魚である。ロランのあまりの喜びように周囲がドン引きしていたとしても、初の毒魚以外の魚である。
……もう、ロランは釣りしない方が良いんじゃないかな。
余談だが、ロランを『毒魚マスター』と称した老人は、ロランが毒魚を釣り上げる度に目を輝かせて密かに大喜びしていたのだが、最後の最後で毒魚以外の小魚を釣り上げた時には一転して顔を悲壮そのもの一色に染め上げ、悲しげに首を左右に振りながら船内へと立ち去って行った。
結局何がしたかったんだ。毒魚マスターというのは、あなたにとってそんなに大事なモノなの?
相も変わらずびゃんびゃん泣き喚くブサだが、流石にこの状況で「カッとなってやった。反省も後悔もしていない(キリッ)」などと言う空気の読めなさをロランは持っていない。普通に謝罪し、反省する事しきりだ。
後になってから自分でも思う。何であそこまで毒魚以外の魚を釣る事にムキになっていたのか。やっぱり何かが憑いてたんじゃないだろうか……?
小魚を釣り上げてからはパタリと謎の執着心も落ち着いたので、今となっては何であそこまでムキになっていたのか、本当に分からない。恐らく、後で黒歴史に昇格するのだろう……という覚悟は既に決めてある。だから大丈夫だ、多分。
ひょっとすると、アンリのブサへの異常な執着心もあんな感じだったんだろうか……いや、自分の方が軽症だ。あそこまで酷くは無かった筈だ、間違い無い。うん。
自分で『軽症』と言っちゃう程には異常だと自覚してたみたいですね、分かりますん。
そして、半ば自業自得ではあるものの、ロランの暴走に巻き込まれたブサの被害は一メートルを超える魚に飲み込まれる事数回、五十センチ近い魚に手足や尻尾に食らい付かれる事数十回、最後の小魚は水中で口を開けたブサの口中に飛び込んで来たものである。そしてブサが引き上げられた時にポトリと船上に落ちたという訳だ。
ちょっと待って、最後のソレってロランが『釣った』と言わない気がするのは気のせい? と言う事は、ロランの『毒魚マスター』は健在なのではないでせうか。もう一度釣りをすれば、すぐに分かります。
「んで、コレの始末どうすんだぁ?」
「……どうしような」
サミュエルが屈み込んで指差す先には、大小入り混じった合計数十匹の毒魚。誰かに食べる? と尋ねても「食べない」と答えられるのは間違い無い。
唯一、毒魚では無い小魚だけなら食べる事を構わないが。この場合、食べ応えなんてものを求めてはいけない。むしろ、小魚一匹だけならジョゼにくれてやれ。
釣り上げられた毒魚は既に生命活動を止めている。ぴくりとも動く事無く、その体を硬い床に横たえるのみ。このまま放置すれば、遠からず腐って悪臭を放つ物体と化すだろう。……既にちょっと臭い気がする。生臭いのは最初からなのだが。
「ほんと、どうしような……」
「俺を見るナ」
残念な事に、目を逸らしたまま合わせようとしないアンリも含めて味方は皆無である。ひたすらブサの泣き声だけが虚しく響く。
* * * * * * * * * *
「お、でっけぇ港」
「陸? もう陸に着く? 船から降りれる??」
「もうすぐ着くから。だから、船から降りる前にいい加減に俺から下りロ」
「ずっとこうだったら良かったんですけどね……」
「ヴニャ(可愛い)」
「俺、釣りの才能は無かったんだな……」
船が出港してから十数日。空には空を飛び交う海鳥、行く手には航行する漁船、その奥に数多くの船を停泊させた港が見えていた。
段々と近付く新たな大地に目を輝かせるサミュエルと、リュシアンの頭にへばりついたまま上陸を心待ちにするブサ。そんなブサに張り付かれて迷惑そうにするリュシアンに、珍しく可愛げを見せるブサに溜め息を吐くアンリ。うっとりと小動物のように震えるブサを見つめるジョゼは通常運転だが……。そして最後に、自分に釣りの才能は無いと知って分かりやすく落ち込むロランの姿があった。
海では毒魚祭り。内陸だと何が釣れるのか、とても気になりますね。
やはりあのままでは消化しきれないものがあるのか、航海中の十数日間ロランは毎日釣り糸を海に垂らしていたのだが、やはり釣れるのは毒魚ばかりであった。
おかげで、乗客や船員達からは『毒魚マスター』の名が完全に定着する事となった。
副次効果で乗客や船員達からのロラン達への忌避感は無くなった。通りすがりに「今日も毒魚釣りですか?」と悪気無く言われて、ロランが落ち込む一幕もあったり。その程度にはロラン達に慣れたらしい。
そうなるとブサが人前で話せなくなるのでは? と言う懸念も沸くのだが、そこは問題無い。『ロランが釣りをしている最中は近付かなくなった』ので。
流石にアレ以降、ブサを釣り餌に使う事は無くなった。というか、使えなくなった。ブサにガッツリとトラウマが植え付けられたので。そもそも、ブサを餌に使おうと思ったのも報復的な意味合いが強かったので、何もしていないのであればそうする必要は無い。つい先日、その必要が無いのにも関わらず、トラウマを植え付けるまで追い込んだ事は否定しないが。
今ではロラン+釣竿の組み合わせを見るとガクガクと高速で震え始めます。マナーモードかな?
海そのものにはトラウマが植え付けられなくて何よりだ。元の大陸に帰れなくなっちゃうからね。
ちなみに、ロランが釣った毒魚の処理方法だが、釣り餌に使ってみる、という手を思い付いてやってみた結果、釣れたのはやはり毒魚だった。しかも、餌に使った個体よりもサイズアップ。嫌がらせか。
ほんの手のひらサイズの一切れ分を減らして、六十センチ超えの毒魚になって返って来たのだ。どう見ても増えてる。ロランが二度と毒魚を釣り餌には使わない、と決心するのは早かった。
最終的にはヤケになって全部海に投げ捨てたが。ロランが大量の毒魚を海に投げ捨てた瞬間、何処からともなく大量の毒魚が集まって来てビチビチと投げ捨てられた毒魚に群がる光景はそうそう忘れられるものでは無いだろう。
大量にいる池の鯉に餌を撒いた時の光景、あれをスケールアップしたものと考えて貰いたい。怖い。
見ているロラン達にもトラウマが植え付けられそうな光景だった。唯一、ジョゼだけは「美味しそう」と呟いていたが。毒あるよ?
そんな経験をしたにも関わらず、翌日以降も釣り糸を海に垂れていたロランは猛者と言って間違い無い。
その度に釣れる毒魚の姿に、物陰から窺う老人がやはりロランを拝んでいた。とても良い笑顔で。爺様、ほんと何者。
だが、そんな日々もこれで終わる。
後数時間もすれば船は港に到着し、長かった船旅も終わりを迎えるだろう。そうすればついに新大陸である。
大漁()。ただし犠牲は大きかった……。
最終話まで書き終わりましたー!
31日に最終話+閑話を追加して完結とさせて頂きます。最後までよろしくお願い致します。
なお、明日は猫又公開日となりますのでこちらはお休みとなります。次話は29日となりますのでよろしくお願い致します。




