26:接触
ベルのお茶会を終えてから数日の事だ。お茶会で知り合ったアウアー伯爵家のフレーデグンデからお茶会の招待状が届いた。
さて参加するかどうするか……
まずは執事さんにお伺いしてシリルの意見を聞いて貰う。
しかしベルのお茶会に来ていた子なので、シリルに聞くまでもなく執事さんが、「問題ございません」と答えてくれたよ。
じゃあ次はっと、
「ブルツェンスカ侯爵家のベルティルデにこのお茶会に出席するか聞けるかしら?」
「ブルツェンスカ侯爵家ご令嬢でしたら親しい間柄ですので可能でございます。
お手紙は添えられますか?」
「そうね、書いてくるわ」
最近は安い紙を使って字の練習しているので、今回は一枚の書き損じで完成したよ!
ちなみに、使いやった伝令がそのまま持ち帰ったほど即答だったベルの手紙には、〝出席します〟と書いてあった。
「でしたらわたしもこのお茶会に出席しますわ。
シリル様に予定をお伝えして下さる?」
「畏まりました」
そしてお茶会の日。
伯爵位であるフレーデグンデの家は王都の中にもあるそうだが、人を招くには少々狭いそうだ。
流石は王都土地がお高いね!
そんな訳でお茶会の会場となったのは、一刻ほど離れた郊外にある別宅だ。
王都の門を抜けて街道に沿って進むと、狭い屋敷を嫌う貴族や、はては王都に屋敷が買えない下級貴族らがより集まってできた町にたどり着く。
その中の一軒が彼女の家なのだが……
まぁわたしが場所を知らなくとも、御者さんが連れて行ってくれるので問題は無い。
フレーデグンデはベルのお茶会に出ていた全員を誘ったそうだが、残念ながらリースベトは王都から離れていたそうで欠席だそうだ。
かく言うわたしもベルが不参加なら参加しないつもりだったのだけど~と思った所でピンと来た。皆を束ねる立場であるベルが欠席すれば、きっと誘ったフレーデグンデの面子は丸潰れだったはず。だからベルはすぐに返事を返せたのだ。
流石は生粋の上級貴族のベルだ。これは間違いなく未来の公爵夫人が覚えておくべきことだわ。
なお四人だけのお茶会かと思いきや、この付近に住む子爵や男爵の令嬢が他に二人参加していた。ベルはその自己紹介を聞き、「家の名前だけは知っているわ」と言ったから、同派閥から急きょ適当に誘っただけの完全に人数合わせだろう。
二時間のお茶会が終わって、わたしはアウアー伯爵邸を出た。
馬車は来た道を逆に、今度は王都に向けて街道をひた走っていた。半刻ほどの頃、馬車の走りが緩やかになりついにはピタリと止まった。
どうしたのかと聞く前に、護衛隊長のベリンダが馬車のドアにある小窓から顔を覗かせてきて事情を説明してくれる。
「クリスタ様、いまの状況をご説明させていただきます。
前方に不用意に停車している馬車がおりますので警戒態勢に入っております。確認を終えるまでしばらくお待ちください」
言われてドアのところの小窓から外の様子をじっと見つめる。車軸が折れて車輪を失っている馬車が一台が傾いて停車していた。車輪がないから馬車は大きく傾いていてとても人が乗れる様な状態には見えなかった。
「ねえ警戒態勢というのはどういう事なの。
前方の馬車は壊れて止まっているのではなくて?」
「申し訳ございません。
そう言うフリと言う線もございます」
「なるほどそう言うのもあるのね。
ごめんなさい素人のわたしが口を挟むことではなかったわね」
指摘を貰うまで全く気付かなかったわ。
「いいえ私の説明が不足していました。申し訳ございませんでした」
逆に謝罪されちゃったよ……
ここで何か言うと堂々巡りになるのは目に見えているので、わたしは謝罪を受け取って話をたたんだ。
一〇分ほど停車した後、
「クリスタ様失礼します」
「なにかしら」
「前方の馬車ですが、確かな身分をお持ちの貴族様でございました。
安全のようですからこれから馬車を進めますがよろしいでしょうか?」
「ねえあちらの馬車の方は大丈夫なの?」
「応急処置が出来ないほどに故障しているそうですが、すでに王都の方に使いを出されたそうなので大丈夫でしょう」
「そう……」
こんな時平民ならきっと助け合うだろう。しかし貴族は違う、か。
釈然としないわね。
ベリンダの指示で馬車がゆっくりと進み始めた。
貴族……、いやドレス姿の若い令嬢が馬車を降りて、簡易の椅子に腰かけていた。
壊れて傾いた馬車に乗っていられる訳がないから無理もない。
「馬車を停めて」
わたしの合図で馬車が停まる。
「お待ちくださいクリスタ様、なにをなさるおつもりですか?」
慌てて制止してきたのは一緒に馬車の中に乗っていたマルティナだ。
「普通は困っている人が居たら手を貸すものでしょう」
「いいえ止めた方がいいと思います」
マルティナが珍しくキツい口調でそう言った。
「どうして?」
「あの家紋はボンヘッファー侯爵家の物です」
「ボンヘッファー侯爵……」
その名を聞けばこれほど強く止めた訳にも合点がいった。
「いいえ、やっぱり放ってはおけないわ」
「クリスタ様!?」
結局わたしはマルティナの制止を無視して馬車を降りた。
馬車からわたしが降りてくると、椅子に座っていた令嬢はスクッと立ち上がった。頭一つ違う令嬢らしからぬ長身にちょっと気圧される。
うちの家紋はまったく無名だから知らないだろうけど、わたしが知っていれば問題なし。つまり、あちらの方が爵位が上なので、
「初めまして、わたしはバウムガルテン子爵家のクリスタです。
馬車が壊れてお困りでしょう。よろしければこちらの馬車にご一緒しませんか?」
「バウムガルテン子爵……
私はボンヘッファー侯爵家のアンドリアナだが、いいのか?」
まずはハスキーボイスに驚き、しかし彼女のぶっきらぼうな口調に合っているなと納得した。
「存じ上げております。しかしわたしは困った時はお互い様だと母から教えられました。
それにドレス姿では、ほら、いろいろとご不便でしょう」
その意味が理解できたのかアンドリアナ少しだけ頬を赤く染めた。
あの町からでも王都からでも、ここまでは半刻掛かる。従者が何もせずに待っていることから馬車が壊れたのはきっともっと前の事だろう。
だとすると、たぶん限界じゃないかなーと……
使いが戻ってからゆっくりなんて言ってたら大変なことになるかもしれないじゃん?
「助かる」
「ではこちらへどうぞ、王都のお屋敷までお送りします」
信頼のためか侍女は置いていく様で、アンドリアナは一人でこちらの馬車に乗った。
こちらはこちらで話は終わり。そしてベリンダとあちらの護衛が擦り合わせし、どうやら二騎だけこちらについてくるようだね。
もちろん隊列は二人が前とベリンダに抜かりはない。
馬車が走りだし、改めてアンドリアナがお礼を言って来た。
「本当に助かった、ありがとう」
「きっと我慢の限界ですよね……」
「ふふふっ貴女は随分と不躾だな。まあ無理をしないに越したことがないとだけ言っておくよ」
「無理は、ダメですね……」
「おや貴女は悩みがあるようだな。
いやすまない今度は私が不躾だった。悪かったね」
わたしはその謝罪を受け取らず、気になった事をズバリ聞いてみることにした。
「ところでアンドリアナ様、不躾ついでに聞きますが、随分と男勝りな口調ですね」
「あーこれな。うちは武門の家系でね。四人いる兄の影響でこの通りさ」
アンドリアナは女らしくないだろうと悲しげに笑みを見せた。
「どこに惹かれるかはその男性の好み次第ですから、気になさらなくても良いのではないでしょうか?」
ほんとシリルなんてわたしのどこが気に入ったのやら~だしね。
「さすが突然現れて、バイルシュミット公爵閣下のハートを射止めたご令嬢は台詞にも余裕があるね」
「ええっその話を出しますか。
だったらわたしはドレスを汚された件を追求しますよ?」
「あれは済まなかったとしか言いようがないが……
ふふふっ貴女は面白い人だな」
「えーと、実はシリル様にもそう言われますが、具体的にわたしのどのあたりを見てそう思われるのか、今後の為にもぜひ教えてくださいませんか?」
「それを敵である私に聞いてしまう所じゃないだろうか?」
「敵だった、ではなく?」
「過去形か……うん確かにそうかもしれない。
直接話してみて解った。どうやら私では貴女には勝てそうもないよ」
「腕っぷしのお話ではないですよね?」
「剣を振っていいならそこらの令嬢の一〇や二〇は相手にしてみせるよ」
その瞬間、彼女の眼が猛禽類の様にギラリと光った気がした。
こわっ!




