5話 ~刀剣乱舞~
大きくゆったりとした川が、低く唸るような音を立てて流れている。その広大な河原こそが、この一帯に住まうゴブリンたちの活気の中心地だった。
そこには、いくつもの「店屋」が並んでいる。
店と言っても、立派な建物があるわけではない。ただ、思い思いの場所に腰を下ろしたゴブリンの前に、不揃いな商品が並べられているだけだ。しかし、ここには魔界の各地から流れ着いた商人や、職人たちが集まってくる。
ゴブリンが踏みしめるたびに、河原に敷き詰められた石同士が「カラカラ」と乾いた音を鳴らし、それが無数に重なって市場の喧騒を形作っていく。
準之介はその音を楽しみながら、石の上を滑るように歩き、なじみの場所へと向かった。
「おいっす」
準之介の軽い声に、丸太のテーブルの前で胡坐をかいていた老ゴブリンがゆっくりと顔を上げた。
「……また来たのか」
「今日も頼むぞ」
準之介は愛用の剣を丸太の上にコト、と置いた。
「また剣の手入れか。お前さんも物好きな奴だ」
「剣を使ったら手入れを怠るなって、あんたが言ったんじゃないか、ドウジマ」
老ゴブリン――ドウジマは、呆れたように鼻を鳴らした。
「そりゃあそうだがな。まさか一日置きに来るとは思いもしなかった。普通のゴブリンなら、そもそも手入れなんて概念すら持っちゃいねえ」
「俺だって死にたくないんでね。やれることはやるよ」
「……魔石はあるんだろうな?」
「もちろんだ。俺が払わなかったことが一度でもあったか?」
「今までなかったとしても、それがいつ裏切られるかは分からんからな」
準之介は思わず苦笑した。
「やっぱりドウジマって変な奴だな。普通のゴブリンなら、そんなに頭を使う言葉を返してきたりはしない」
「変な奴に変な奴扱いされるとはな。……まあいい、手入れしてやるから少し待ってろ」
「ああ。俺の『錆丸』をよろしく頼むよ」
ドウジマはおもむろに取り出した平らな石に、器用に水を垂らし、研ぎの作業を始めた。
準之介の腰にあるその剣は、かつての凄惨な戦場で拾い上げたものだ。
一番最初に戦場に出た際、力を入れすぎたのか、支給品の安物の剣がポッキリと折れてしまった。死を覚悟した彼が、咄嗟に近くに転がっていた死体の傍らから奪い取ったのが、この剣だった。
(最初は、すぐに捨てるつもりだったんだ)
なにせ、刀身の至る所が赤茶けて錆びついていたからだ。どうせ一度きりの使い捨てだろう。そう思っていた。
だが、初めて振るった時の驚きは今でも忘れない。
錆びているはずの刃は、襲いかかる敵の剣を紙のように両断し、そのまま勢いを落とすことなく敵の首を刎ね飛ばしたのだ。
さらに驚くべきはその耐久性だった。
それ以来、何度も激戦を潜り抜けてきたが、刃こぼれ一つ起こしていない。今ではもう、命を預ける唯一無二の相棒として、準之介はこの剣に『錆丸』という名まで付けて大切にしていた。
シュッ、シュッ、と規則正しく石が刃を滑る音が洞窟に響く。
この音を聞きながら、次の戦場へ向けて感覚を研ぎ澄ませていく時間もまた、準之介にとっては心地よいルーティーンの一つとなっていた。
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