39話 ~硝子の美女~
「え……」
準之介は目の前の光景が信じられなかった。
そこは光に照らされた真っ白い部屋だった。今までいた洞窟とは明らかに異なり、あまりにも人工的で、実験室か宇宙船の内部のようにも見える。白いテーブル、白い椅子、白い本棚に白い本などが整然と並べられていた。
準之介はそれらには目もくれず、ある場所へ一直線に歩いていく。
「なんだ、これ……」
巨大な円柱形のガラス瓶の中に、青く発光する液体と、それに漬かっている美女の姿があった。まるで美女のホルマリン漬けだ。
「痛っ……!」
しばらく眺めていたが、背中の激痛で我に返る。準之介は鞄から魔石を取り出し、次々と口へ放り込んだ。
ゴブリンにとって魔石は命の次に大切なものだ。傷を癒やし、力を取り込むことができる。一度に大量摂取すると身体を苛み、最悪死に至るため注意が必要だが、これまでの経験から目分量で呑み込んでいく。
すぐに背中が熱くなり、猛烈なかゆみに襲われた。掻きむしりたいのを必死に我慢しながら白い椅子に腰掛け、手の中の『ネフェルティティの部屋の鍵』を見つめて思考を巡らせる。
あの騎士は一体どこから、なぜ現れたのか。
今までのダンジョン探索では一度も出くわさなかった。ベテランのカツジにとっても予想外だったはずだ。だからこそ、不意を突かれるまで気付けなかった。
(もしかして……)
虹色の宝箱が出現すると、同時にあの騎士がスポーンする仕組みなのだろうか。ゲームならありそうな仕様だが……。
そして、この部屋だ。『ネフェルティティの部屋の鍵』という名である以上、ここがその部屋なのだろう。ならば、あのガラス瓶の中の美女が「ネフェルティティ」なのだろうか。どうして部屋の主がホルマリン漬けにされているのか。
さっぱり分からない。
だが確かなことは、今ここにいるのは自分だけで、あの騎士は入ってこられなかったという事実だ。つまりここはゲームで言う所の安全地帯なのだ。
「とりあえず……寝るか」
傷を癒やし、体力を完全回復させるため、スリープゴブリン最大の強みである睡眠をとる。これからどうするかは、起きてから考えればいい。
準之介は白い床に寝転がると、瞬く間に深い眠りについた。
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