32話
「ダンジョンで一番やっちゃダメなのは、慌てることだ……」
準之介の失敗談をひと通り聞き終えたカツジは、顎ひげを撫でながら静かに言葉を紡ぎ出した。
「探索に行く時、俺はいつも果物や木の実を持っていく。ちょっとでも腹が減ったなと思ったら、その場ですぐに口に放り込むんだ。まあ肉でもいいんだが、俺はダンジョンの中だと果物の方が美味く感じるからな」
その言葉を聞いた瞬間、準之介の脳裏に前世の記憶が閃いた。
登山家が山に入る際、移動しながらでも手軽にエネルギーを補給できるよう携帯する『行動食』という知識だ。
「もちろん、水も多めに持っていくぞ。喉が渇くのはもちろんだが、下層へ潜れば潜るほど毒を持った魔物が増えてくるからな。もし目や傷口に毒液を浴びたら、即座に水で洗い流さなきゃいかんからな」
準之介にとって目から鱗が落ちる思いだった。
戦場へ向かうのと全く同じ感覚で、剣と防具だけを身に纏いダンジョンへ乗り込んだ自分の甘さを痛感する。思い付きだけの無計画な挑戦など、自殺行為でしかなかったのだ。
戻ってこなくなったゴブリンたちの噂なら、それこそ耳にタコができるほど聞いていたというのに。
どうやら、進化したことで調子に乗っていたようだ。
「……あの、もし良かったら、一緒にダンジョンへ行ってもらえないか?」
思わず頭を下げて頼み込んでいた。
「俺と……? ハハッ、いいぞ!」
拍子抜けするほどあっさりと、カツジは愉快そうに頷いてくれた。
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