31話
「ダンジョンのことを知りたければ、『カツジ』に聞くといいぞい」
知恵者ゴブリンのアドバイスに従い、準之介はゴブリンたちがアジトにしている近くの山へとやってきた。
(やっぱり、ホブゴブリンの体格は何かと都合がいいな)
山に入り、行き交う下級ゴブリンたちに「カツジはどこにいる?」と尋ねると、誰もが恐縮した様子で手厚く親切に場所を教えてくれた。
ゴブリンは一匹一匹が脆弱な分、本能的に群れをなし、上位種に対して絶対服従の姿勢をとる種族なのだ。この強固な階級意識が、今は心地よく役に立っていた。
教えられた洞窟へ足を踏み入れる。だが――。
「……いないな」
生活の形跡ははっきりと残っているものの、人の気配がない。もしかすると、一足先にダンジョンへ向かってしまったのだろうか。ここで帰りを待つべきか、それとも出直すべきか。思案しながら洞窟の奥へと歩を進めた準之介の足が、ふと止まった。
「……あれは、なんだ?」
洞窟の奥、一段高くなった岩場に雑多な品々が山積みにされていた。そのガラクタの山の中に、強烈な違和感を放つ「見覚えのある物体」が紛れ込んでいたのだ。
「これって……」
吸い寄せられるように手を伸ばし、それを拾い上げる。手に残るプラスチックの質感、細かく植え込まれたブラシの毛。間違いなかった。
(……『歯ブラシ』だ)
なぜ、こんなものがこの場所に転がっているのか。
衛生概念の存在しないこの魔界に工業製品など存在するはずがない。そもそもゴブリンという種族は、風呂に入るどころか水浴びすら嫌がる衛生観念の持ち主ばかりだ。歯を磨く文化など、天地がひっくり返っても存在するわけがなかった。
混乱し、思わず固まる準之介の背後から、ひょうきんな声が響いた。
「なんだあ……珍しいな。ホブゴブリンの泥棒か?」
振り返ると、洞窟の入り口に、立派な髭を蓄えた一匹のゴブリンが立っていた。その顔には警戒の色などなく、珍品を見つけたかのように愉快そうな笑みが浮かべられていた。
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