27話
パチッ。
住処である洞窟の暗闇の中で、準之介は軽やかに目を覚ました。
体を起こし、腕を軽く伸ばしてみる。昨日までの死闘が嘘だったかのように、身体の怠さや疲労感が一切残っていない。
周囲を見渡せば、他のゴブリンたちは泥のように眠りこけているか、あるいは重い体を擦り寄せてこれから横になろうとしているところだった。
《種族名:スリープゴブリン 特性:ホブゴブリンの亜種。二時間睡眠で八時間睡眠と同等の回復力を持つ》
準之介はその効果の凄まじさを身体で実感していた。ほんの短時間横になっただけなのに、激戦の疲れは綺麗さっぱり消え去り、なんなら進化前よりもはるかに調子がいい。
「……やっぱり、正解だったな」
薄暗い洞窟の隅で、準之介は満足げに口元を綻ばせた。
あの時提示された三つの選択肢の中から、彼が「スリープゴブリン」を選んだ最大の理由。それは以前、数々の惨禍を生き延びてきた老ゴブリンから聞かされた、戦場の凄惨な現実が脳裏に焼き付いていたからだ。
『今はただの小競り合いだからいいがな。魔王同士の本格的な戦争が始まってみろ。おちおち寝るヒマなんてなくなるぞ。ゴブリンは夜目が利くってんで、夜間は休む間もなく敵の火矢を警戒させられるか、陣地構築の土木作業で一日中働かされる。そこを狙って敵が石を投げて邪魔してくるんだ。しかも、命令中に居眠りしたやつは上官に叩き斬られる。見せしめってやつだろうな、どうだ、最悪だろ?』
老ゴブリンは、自身のしわがれた顔を歪めながら、言葉を続けた。
『俺は知ってるんだ。どんなに腕の立つ強いゴブリンでも、寝ないとだんだん頭がおかしくなっていく。ぼーっとしてまともに返事もできなくなったり、普段なら絶対にしないような初歩的なミスで呆気なく死んでいったりな。……だから俺の自慢は、どんな戦場の泥の上でも、いつでもどこでもすぐ寝られることだ。俺はそれ一つで、あの地獄を生き抜いてきたようなもんよ』
そう言って、老ゴブリンは黄ばんだ牙を見せて笑っていた。
他の進化先に比べて地味かもしれないが、毎日が命懸けのこの世界において、一番効果が高いのは睡眠だと思った。戦わない日があっても、寝ない日は無いのだから。
「さて、困ったな……」
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