26話 ~強く強く抱きしめたい~
「撤退だーーー!!!」
地平線から太陽が顔を出し始めたころ、後方から響き渡った大声に促され、両軍の軍勢はじりじりと自陣へと引き揚げていく。今日の小競り合いはこれで終わりというわけだ。
「ふぅ……」
十分に敵から距離が離れたと確認し、準之介は深く息を吐き出した。腰に結わえた革袋の中は、今回の戦いで手に入えた魔石でパンパンに膨れ上がっている。
(進化の恩恵は、すさまじい……)
ホブゴブリンとなったことで、体格はゴブリン時代より頭一つ分以上大きくなった。単に体がデカくなっただけではない。増大したパワーが桁違いの戦闘力を生み出すことを、今回の実戦で痛いほど実感した。
一騎当千――大げさではなく、それほどの活躍ができたという自負がある。
もちろん、調子に乗れば死ぬ。敵軍の後方からは弓矢や投石が雨のように飛んできたし、あれが頭に直撃すれば、いくらホブゴブリンといえど無事では済まないだろう。
だが、その死の危険を圧倒的なパワーでねじ伏せ、敵をなぎ倒していく快感は麻薬のように痺れるものだった。
満足げな表情で汗を拭いながら自軍の陣地深くへと戻っていくと、待ち構えていたかのように一匹の巨体が近づいてきた。
「いやー、すばらしい戦いぶりでした! これは今回の報酬です!」
この部隊を指揮する大柄なゴブリン――バッファだった。奴はあからさまに媚びへつらい、以前の胡散臭い笑みを張り付けながら報酬の魔石を差し出してくる。
通常の雑兵であれば、低品質な魔石を地面にばらまかれ、拾えた分だけが給金となるのだが、ホブゴブリンという上位種にまで上り詰めれば、指揮官自らがこうして上等な報酬を持ってご機嫌取りにやって来るらしい。
バッファと適当に世間話を交わした後、準之介は自分の住処へ向けて歩き出した。
「ん……?」
ふと、背後から視線を感じて足を止める。辺りを見回すと、少し離れた場所からこちらをじっと見つめている三匹のゴブリンの姿があった。
「あっ!」
目が合った瞬間、そのゴブリンたちは慌ててひそひそと何かを相談し、意を決したようにこちらへと駆け寄ってきた。
一体なんだろうと身構える準之介に、先頭のゴブリンが熱を帯びた声をぶつけてくる。
「ジュンさんですよね!? さっきの戦い、めちゃくちゃ……めちゃくちゃカッコ良かったです!」
後ろに控える他のゴブリンたちも、一斉に激しく頷いている。その瞳には、憧れの色が濁りなく浮かんでいた。
ホブゴブリンともなると、群れの底辺である他のゴブリンたちから、こうして真っ直ぐな尊敬を向けられるらしい。
悪い気は、しなかった。
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