24話 ~どこまでも行こう~
「世界が変わった」なんて大げさな表現は使わないでおこう。だが、進化したことで肌で感じる周囲の温度は、確実に劇的な変貌を遂げていた。
いつものように、戦場へとやって来た準之介は二つの眼で突きを見上げる。潰されてしまった眼球は進化の際にみごとに回復した。
「いい感じだ………」
右手には、しなやかに光を反射する愛刀『錆丸』。そして身に纏うのは、鮮やかな群青の輝きを放つお気に入りの鎧『夏天丸』。
頭上に広がる夜空には、この世界の歪みを映し出すかのような双月が浮かんでいる。毒々しく脈打つ赤き月と、すべてを冷徹に見下ろす蒼白の月。その双月の冷たい光を一身に受け、彼は荒野をただ堂々と歩いていた。
「ふっ……」
漏れたのは、抑えきれない満足の吐息だった。
ゴブリンの上位種――ホブゴブリン。かつて底辺の雑兵だった頃、群れの圧倒的な強者に対して抱いていたあの得体の知れない恐怖と威圧感。今、自分がまさにその「恐怖の対象」の側へと回っていることが、肌の感覚ではっきりと分かる。
歩く先々で、周囲の雑兵たちがびくりと肩を震わせる。
あからさまに目を逸らし、慌てて道を空ける。恐怖と畏怖がぐちゃぐちゃに混ざった熱っぽい視線が、心地よい波となって準之介の全身をなでつけていった。
――気分がいい。
前世の記憶を辿れば、学校でも職場でも、他人の視線にさらされることを嫌っていた。目立たないように、いかに世界の輪郭に溶け込んで生きるかばかりを考えていたはずだ。
それがどうだ。今や、群れの視線を一身に集め、その畏敬を浴びることに、脳の髄まで痺れるような快感を覚えていた。
外車に乗っている、ブランド品を身に着けている………実にくだらない。金の力で己に価値を付けるとは実に愚かだ。俺は今生物として明確に優れている。
もともと自分の中にこんな顕示欲が眠っていたのか、それともゴブリンという弱肉強食の肉体に魂が染まったせいなのか。
――どちらでもいい。今、この瞬間、この世界で圧倒的な「強者」として君臨しているという事実だけが、最高に心地よかった。
戦場の喧騒が、少しずつ近づいてくる。
いつもの、くだらない小競り合いの場だ。だが、今の自分はもう、怯えながら隅っこで生きる消耗品ではない。
堂々たる巨体を揺らし、準之介は刺激と興奮に満ちた戦場へと足を踏み入れた。
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