2話 ~ラッキーマン~
「ひいいっ! 来るぞ! 敵の投石隊だ!」
隣のゴブリンが悲鳴を上げる。
上空を見上げれば、魔力で禍々しく発光する巨岩の礫が、放物線を描いてこちらへ迫っていた。
魔力強化された投石は、掠めるだけでゴブリンの細い手足を消し飛ばし、直撃すれば文字通り肉の塊へと変える。
だが、準之介は慌てない。彼はこれまでの実戦経験から、この地獄における「安地」を熟知していた。
(……狙われるのは、いつだって密度の高い中央だ。端っこにいれば、そうそう当たりはしない)
彼は周囲の混乱に紛れ、ごく自然な足取りで自軍の端へと位置をずらしていく。
あまりに離れすぎれば、後方の督戦隊(味方の逃走阻止部隊)から「敵前逃亡」とみなされて射殺されるが、端っこで「戦っているフリ」を続けている分にはお咎めなしだ。
直後、ズゴォォォン! と凄まじい衝撃音が響き、軍の中央部で土煙と悲鳴が舞い上がった。同時に、パニックで後退しようとした兵たちが、身内の弓兵によって容赦なく射抜かれていく。
その阿鼻叫喚の最中、準之介の目の前で一匹の敵軍ゴブリンが、腹を裂かれ、うめき声を上げながら崩れ落ちた。
「チャンスだ……『吸引』!」
準之介が短く唱える。
すると、絶命したゴブリンの死体から、濁った赤色の光――魔力の結晶である魔石が染み出し、吸い込まれるように彼の掌へと収まった。
(……重いな。こいつ、ただの雑兵じゃなかったのか。結構な手練れだったに違いない)
手に入れた魔石は、先ほど配られた低品質なものより一回りは大きく、放つ光も力強い。
戦場は確かに死の危険と隣り合わせだ。だが、そのリスクに見合うだけの「収穫」が、そこら中に転がっている。
準之介の口角が自然と吊り上がった。
前世、営業先やオフィスで浮かべていたあの薄っぺらな「作り笑い」ではない。
泥と返り血にまみれ、死を横目にしながら、己の利を確信した者だけが浮かべる――剥き出しで、本物の笑みだった。
準之介は獲物を狙う獣のような目で、次の「お宝」を探して戦火の中を突き進んだ。
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