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17話

 


(今日のところは稽古を切り上げて、帰って寝るか……?)


 誰かに稽古を見られるのは好きではない。だが、一度決めたルーティーンを崩すのは、どうにも座りが悪い。前世から続く「変な生真面目さ」が、準之介の背中を押した。


 その影に近づいていくと、月光に照らされたその影の正体が判明した。途端、準之介の背筋に嫌な汗が伝う。


「よおジュン! 遅かったな」


 岩の上に腰を下ろし、獲物を待つ肉食獣のような目をして俺を待っていたのは、ガリクだった。


 戦場では、俺たち雑兵を駒のように扱い、いつも傲慢な態度で怒鳴り散らしている分隊長。いつもは戦場にいるはずの男が、今日は何故かここにいる。


「ガリク……。どうしてここに」


 俺の問いに、ガリクは岩の上で肩を揺らして笑った。だが、その目は全く笑っていない。


「どうしてってお前、ここに俺がいちゃ駄目なのかよ。ここは誰の持ち物でもねえだろうが」


「そういうわけじゃないが……」


「だったらそんなに嫌そうな顔するなよ。俺が来ちゃ、そんなに不都合でもあるのか?」


 絶対におかしい。そう直感が警鐘を鳴らしていた。


「お前、最近やけに頑張ってるじゃねえか。前まではやってるフリだけして、他の奴が倒した魔物の魔石を掠め取るだけのカスだったのによ。それが今じゃ、いっぱしの戦士みたいな面しやがって」


「……ずいぶんと癇に障る言い方だな」


 思わず声が低くなる。


 事実、以前の俺はハイエナのような立ち回りだった。だが、今の俺は違う。夏天丸を纏い、錆丸を研ぎ、自分の腕一本で稼いでいる。その自負がある。


「おいおいおい、怒んなって! 別にお前を悪く言うつもりはねえんだからさ」


 ガリクは両手をひらひらと振って見せたが、その言葉とは裏腹に、奴の放つ空気はどんどん刺々しくなっていく。


「お前がさ、どうしてそんなに急に強くなったのか、俺ぁ気になって仕方がねえんだよ。で、他の奴に聞いたら、戦場に来ない日は滝のところで稽古してるって言うじゃねえか。だから俺も一度試してみようと思って、わざわざ来てやったわけよ」


 ガリクが立ち上がる。その手には、使い込まれた無骨な槍が握られていた。


「俺もちょっとばかり偉くなって、小隊長なんて役職についちまったせいで、前線で戦う機会が減ってな。自慢の槍さばきも少しは衰えちまったみてえだからよ。ここらでいっちょ、磨き直そうと思ったわけだ」


 ガリクは、ぎらついた目で俺を射抜くと、手にした槍の石突をドォン!と地面に叩きつけた。

 激しい音とともに土が舞い、滝の飛沫が夜風に冷たく混ざる。


「……なあ、ジュン。お前のその『稽古』、俺にも混ぜてくれよ。な……?」


 それはあまりにも不可思議な誘いだった。





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