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16話

 


 絶好調、その一言に尽きる。


 夏天丸と名付けた青い鎧を手に入れてからというもの、戦場での稼ぎは以前とは比較にならないほど跳ね上がっていた。


 理由は明白、「自信」がついたのだ。


 ギャレンが打ち、シヴァが認めたこの素晴らしい鎧が、自分を確実に守ってくれる。その絶対的な信頼があるからこそ、死線のさなかでもう一歩前へ踏み出せる。迷わず、最短の最適解を選んで動ける。


 コンマ一秒の躊躇が命取りになる戦場において、この「精神的な余裕」は、どんな魔法よりも強力な武器だった。


 その結果、懐の魔石は過去最高額を更新し続けている。


 金がなかった頃は、ただ腹を膨らませるためだけに、腐りかけた肉でも何でも胃袋に流し込んできた。ゴブリンの体は人間より遥かに頑丈で、そんなものを食っても腹を壊しはしない。だが、やはり「旨い」と感じる新鮮な肉への欲求は、抑えられるものではなかった。


 ゴブリンは野菜を好まない。その分、肉に対する執着は人間時代の数倍だ。


 特に、かつての自分なら敬遠していたはずの内臓系――あの滴るような脂と独特の食感が、今ではたまらなく愛おしい。


 魔石さえあれば、最高級の獲物の肉をいくらでも買える。そんな贅沢な食生活を続けているせいか、ふと気づくと腹のあたりに「蓄え」がついてきたような気がした。


 鏡などないが、鎧の胴を締める紐の感触が、以前より少しだけきつい。


(おかしいな……。これだけ戦場で動き回っているのに、どうして肉がつくんだ?)


 ゴブリンの体形を気にするような美意識の高い同族は一人もいない。少々太ったところで戦闘に支障がなければ問題はないのだが、それでも「不思議だ」と思わずにはいられない。


「ゴブリンって思ったよりも悪くないな………」


 これほどまでに「やりがい」を感じる日々が、かつて人間だった頃にあっただろうか。


 戦場で汗を流し、敵を倒せば、その成果はすべて「魔石」として自分の手元に返ってくる。理不尽な中抜きもなければ、給与明細を凍りつかせる「税金」もない。家賃すら不要の洞窟暮らしだ。


 働けば働くほど、ダイレクトに豊かになれる。このシンプルな実力主義が、今の準之介には心地よかった。


 しかし、この世界特有の「資産管理」という新たな問題が、彼の頭を悩ませ始めていた。


 魔界において、魔石は通貨であると同時に、傷を癒やし、肉体を強化する「超高性能なサプリメント」でもある。貯めれば貯めるほど安心だが、問題はその「保管方法」だ。


(銀行もなければ、金庫もない。信じられるのは自分の腕だけか……)


 盗難を防ぐには、肌身離さず持ち歩くしかない。だが、戦場にパンパンに膨らんだ魔石の袋をぶら下げていくのは、どう考えても邪魔だ。動きが鈍れば、それこそ本末転倒、命取りになる。


 そして一番心配なのは盗人だ。大量の魔石をじゃらじゃらさせていれば、襲ってくださいと言っているようなものだ。自分で稼ぐよりも、稼いだやつから奪うほうが楽でいい。そう考えるやつはこの世界にはたくさんいる。


「けどまあ、頑張るしかないよな」


 奪いに来るやつは倒せばいい。


 気合を入れ直し、滝へと足を進めていた時だった。ほとんど人が来ないはずの森に、見慣れない「影」が落ちていることに気づいた。


(……誰かいる? )


 一瞬、足が止まった。


 なんだか嫌な予感がした。






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