15話
「……本気ですか? この鎧を、俺に?」
「気に入ったのだろう? 遠慮はいらん。気まぐれで二つ作らせたが、もとより片方は誰かにやるつもりだったのだ。貴様のような面白い男にやるなら、この鎧も本望だろう」
準之介は刺すような視線を感じていた。王のようなゴブリンの試すような眼差しと、背後に控えるホブゴブリンたちの、王の傑作をどこの馬の骨ともわからないやつに渡すなど……」という殺気立った視線だ。
目の前には、漆塗りのような光沢を放つ、赤と青の『当世具足』。
「……じゃあ、赤に。……いや、やっぱり青にします!」
「今、俺の顔色を見て決めたな?」
「そ、そんなことはありませんよ。青は俺のラッキーカラーなんです」
「ラッキーカラー? なんだそれは」
(しまった……)
準之介は内心で顔をしかめた。人間だった頃の癖で、この世界にはない言葉を口走ってしまった。
「ラッキーカラーというのは、その……自分に幸運をもたらしてくれる色のことです」
「ほう、色が幸運を呼ぶとは初耳だ。面白い。……まあいい、そっちが欲しいなら持って行くがいい」
「ありがとうございます……!」
準之介は、深く艶やかな青色の鎧を手に取った。滑らかな表面に、自分の顔が映る。
見慣れたゴブリンの顔だ。お世辞にも整っているとは言えないが、この世界でしぶとく生き抜いてきた自負と、少しの愛嬌は宿っている。
「では、俺は帰るとしよう。縁があれば、また会うこともあるだろう」
王のようなゴブリンが背を向け、悠然と歩き出す。その背中が遠ざかる前に、準之介は意を決して声をかけた。
「あ、あの……!」
「なんだ?」
「お名前を……。お名前を教えていただいても、いいですか?」
すると彼は足を止め、肩越しに振り返った。
「貴様……俺の名も知らずに、今の今まで話していたのか?」
「すいません……世情には疎いもんで」
「シヴァ。俺の名はシヴァだ」
「シヴァ、ですね。覚えました」
シヴァはニヤリと不敵に笑い、逆に背後のホブゴブリンたちは一斉に目を吊り上げた。「王の名を呼び捨てにするか!」と言いたげな殺気。だが、シヴァはそれを手で制し、満足げに鼻を鳴らした。
「それじゃあな、ジュン。お前は、俺がこれまで出会った中で一番の変わり者だ」
嵐のような一団が去り、工房には再びギャレンと準之介だけが残された。
「運の良い奴だ、それは俺の最高傑作だぞ」
「ありがとう、大事に使わせてもらうよ」
「感謝の気持ちとして、その魔石をおいていってもいいんだぞ?」
「それはちょっと………」
「ふん!」
だったらもうお前に用はないとばかりにギャレンが去っていった。
漆塗りのような艶を持って青く光る鎧を見ながら、準之介は笑った。
「生きてるだけで丸儲け………」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。
評価を頂ければさらに喜びます。
☆5なら踊ります。




