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12話

 



「はい、依頼された鎧は完成しています。こちらです、どうぞご覧ください」


「見た目は中々に良い。だが、肝心の中身はどうかな?」


 王のようなゴブリンは少し不機嫌そうに鼻を鳴らすと、台座に据えられた二領の鎧に歩み寄った。それは見たこともない作りをした鎧だった。


 堂々とした態度で、鎧の表面をあちこち指で弾き、継ぎ目を確認し始める。


「ふむ……なかなかいい出来ではないか」


「あ、ありがとうございます……! 半年かけて打ち上げた、私の最高傑作ですから」


(……嘘だろ?)


 壁に張り付いたまま、準之介は戦慄した。


 あの偏屈で傲慢なギャレンが、自分のことを「私」なんて呼び、揉み手でもせんばかりに恐縮している。いつもなら、偉そうな客には「俺の工房から出て行け!」と金槌を投げつけるような男だ。


 思わず吹き出しそうになったが、なんとか堪えた。


 つまり、それほどまでにこの小柄なゴブリンが放つ威圧感は異常だということだ。後ろに控える巨体のホブゴブリンたちよりも、その場にいるだけで空気を重く、鋭く変質させている。


(このゴブリン、何者なんだ……? まるで、触れただけで斬り殺されそうな——)


「ところで……虫けらのように壁に張り付いている貴様。何者だ」


 氷のような声が、正確に準之介を射抜いた。シヴァは鎧を検分する手を止めず、視線だけを準之介へと向けた。


「ふぇ!?」


 突然すぎて変な声が出た。


「さっきからこっちをジロジロと盗み見て、不愉快だ」


 王のようなゴブリンの言葉に、準之介の心臓が跳ね上がった。


「す、すいません……」

「何者だと聞いている! 同じことを二度言わせるな」


 声を荒げたのは一瞬だった。だが、その圧力はサウナで出会った強面どころの話ではない。準之介は反射的に背筋をピンと伸ばし、軍隊の入営式のような直立不動になった。


「ジュンです! 鎧を買いに来た、ジュンという……何者でもない、ただのゴブリンです!」


 必死に振り絞ったその答えに、眉がピクリと動いた。


「何者でもない、だと?」

「……そうです」


 準之介は本気でそう思っていた。


 どこの軍勢に所属しているという意識も薄い。たまたまあの洞窟に寝泊まりし、生きるために戦場で魔石を稼いでいるだけだ。肩書きも、守るべき一族の誇りもない。ただ「生きている」だけの存在。


「ふん!」


 王のようなゴブリンが短く鼻を鳴らした。殺されるか、と準之介が身をすくめた次の瞬間、王の顔からふっと険しさが消えた。


「くはは……。そんな物言いをするゴブリンには初めて出会った。そうか、貴様は『何者でもない』か……!」


 準之介にとっては、自分の現状を正直に伝えただけのつもりだった。だが、彼にとっては、それがひどく面白く、新鮮に映ったようだ。


 張り詰めていた工房の空気が、わずかに和らぐ。


(……助かった、のか?)


 準之介は、肺に溜まっていた熱い空気をそっと吐き出し、ようやく胸をなでおろした。






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