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11話

 

 ギャレンの工房の最奥。そこには、煤けた作業場には不釣り合いなほど、鈍く、かつ美しく光る防具が鎮座していた。


「……なんだ、これ」


 準之介は思わず息を呑んだ。


 それは、今の自分が装備している「革と鎖の防具」の、完全なる上位互換。分厚い鉄を極限まで薄く叩き出し、体の線に合わせて滑らかな曲線を描いている。前方からの衝撃をすべて左右へ逃がす、合理的すぎるその形状。


 漆塗りのような光沢を持つ赤色と青色、二色の同じ形状の鎧がマネキンに装着されていた。


「ギャレン、これだよ。俺がイメージしてたのは、まさにこういう……」


「おい触るな。そいつは売りもんじゃねえ」


 ギャレンが珍しく緊張した声で制した。


「売り物じゃない?ってことは趣味でこんな立派なのを作ったわけ?」


「そうじゃない。変わり者の『大物』から、一族の伝統など知ったことかと依頼されてな。半年かけて打ち上げた、俺の最高傑作だ。もうすぐ引き取りに来るはずだが――」


 その時、工房の入り口を塞ぐように、数人の大柄なゴブリンが姿を現した。


 中心に立つのは、漆黒の毛皮を肩にかけ、鋭い眼光を放つ小柄なゴブリン。その佇まいは、周囲を威圧する圧倒的な「王」のオーラを纏っていた。


「俺の鎧は出来たか?」


 その言葉が工房の熱気に混じった瞬間、準之介の生存本能が警報を鳴らした。彼は反射的に壁の影へ身を寄せ、岩肌にぴたりと張り付いた。


(このゴブリン、絶対にやばい奴だ……!)


 喉の奥がカラリと乾く。この感覚には覚えがあった。


 人間だった頃、日曜日のことだ。連日の激務で体調は最悪。「逆にサウナでリセットしよう」などというトチ狂った思いつきに従い、フラフラとサウナ室に飛び込んだ時のこと。


 ぐったりと熱気に耐えていた準之介の前に現れたのは、背中に立派な「彫り物」を背負った、この世の道理が通じそうにない強面こわもての男たちだった。あの時の、心臓が胃袋まで落ちるような絶望。


 今、目の前にある光景は、あのサウナ室の再来だった。


 王のような風格を纏う小柄なゴブリン。それを取り囲むのは、ゴブリンが進化を遂げた上位種、『ホブゴブリン』の精鋭たちだ。


 今まで見てきた野良のホブゴブリンとは次元が違う。鍛え上げられた筋肉、無駄のない所作。その一匹一匹が、準之介の所属する軍勢なら一隊を壊滅させかねない実力者であることは明白だった。


(俺ってば、どうしてこうなんだ……。何かと言えばすぐに厄介ごとに巻き込まれる……)


 嘆いてみても状況は変わらなそうだった。






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