10話
パンパンに膨らんだ革袋を持ち上げると、ズシリとした重みが準之介の掌を喜ばせた。中には戦場で剥ぎ取った魔石が、こぼれんばかりに詰まっている。
「さて、と……」
特殊魔法『疾風波動』を手に入れてからというもの、準之介の戦果は自軍の中でも突出していた。五回連続で軍内トップ。もはや、ただの「名もなき雑兵」と呼ぶには稼ぎすぎていた。
洞窟の外は夕暮れ。魔物たちの活動時間が始まる。
ガボの死が教えてくれたのは、「いつ死んでも後悔しないように生きる」ということだ。そして、そのためには「死の原因」を解明しなければならない。
準之介は、ずっと気になっていたあの事件の調査を進めていた。戦場を一瞬で静寂に変えた、馬上の勇者による虐殺。生き残った者たちの証言を繋ぎ合わせ、準之介は推論を固めた。
証言によれば、丘の上から突進してきた勇者は、その直後に夜の闇を裂く光が爆発し、百体以上のゴブリンの体に「無数の矢」が突き刺さっていたという。そして勇者はその手に何も持っていなかった。
準之介の推論によればそれは「特殊魔法」。その正体は範囲攻撃だ。
あの日、戦場にいたのは両軍合わせて約200体のゴブリン。
準之介はこれまでの経験から、戦場における群れの密度を冷静に逆算した。
通常、軍勢がぶつかり合う際の密度は、横幅20メートル、奥行き5メートル程度の範囲に凝縮される。……そして、その八割が死んだ。全滅ではなく八割。つまり、長方形の陣形をほぼ飲み込む形で、巨大な円が描かれたということ。
以上の考えから導き出された結論は、【直径約15メートルの円形攻撃】。
他にも重要な事実がある。それは攻撃範囲の中にいても「重厚な防具を着ていた者は、矢が貫通せず生き残った」ということだ。
瞬時に発生する範囲攻撃は厄介だが、防ぐ術が無いわけでは無いということだ。ならば、取るべき選択は一つ。防具を整えることだ。
今の防具は、当時の全財産を注ぎ込んだ特注品だが、機動力重視で防御力は心もとない。勇者の理不尽な特殊魔法に対抗するには、もう一段上の「硬さ」が必要だった。
準之介の足は、とある場所へ向いていた。
腕はいいが偏屈で知られるゴブリンの防具師、ギャレン。彼が店を構える岩山へ、準之介は脚を加速させた。
「おっさん、いるか。新しい防具の相談だ」
岩山の隙間に作られた工房は、金属を叩く高い音と熱気に包まれていた。奥から現れたのは、煤で汚れた顔をした老ゴブリン、ギャレンだ。
「また来たかジュン。言っておくが、俺は『ただ硬いだけのゴミ』は作らんぞ」
「分かってるよ。古い常識にとらわれず、革新的な鎧が欲しい。それでいて……勇者の魔法を弾き返せるくらいの頑丈なやつをな」
準之介がカウンターに革袋を置くと、魔石同士が触れ合う澄んだ音が響いた。
「ほう……勇者対策か。面白い」
ギャレンの目が、職人の熱を帯びて細められた。それが、準之介の運命を大きく変える「出会い」への序曲であることを、この時の彼はまだ知る由もなかった。
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