最終話 Nobodyが聴いてない!
「那音くん! しーっ。ちゃんと隠れて!」
「余梁の方がうるさいし、頭見えてるよ」
桜吹雪が舞う公園で、二人の男女が何かを企んでいる。
「……あっ来たっ。ほら、あの人!」
「よし、じゃあ、せーのっで飛び出すぞ」
息を合わせて、タイミングを合わせ、茂みの陰から飛び出す。
「「せーのっ」」
「わっ、びっくりした!」
散歩の途中、目の前に急に男女が飛び出してきて、その男性は真っ直ぐ驚いた。
「応援メッセージありがとうございました! 高橋さん!」
高橋は、「おぉ、君は……」と那音の方を向いて、
「毎朝ここで、練習してた子だね! 必死そうだったから、なかなか声が掛けれなかったよ」
と口の端を上げて話す。
那音はオーディションの悔しい結果と、それでも掴みとった嬉しい結果を報告し、ボイスメッセージが励みになったと、深々とお礼をした。
次に高橋は、「えっと、君は……」と余梁の方を向いて、
「その……声は……」
と言い淀む。
声について言及され、余梁は食い気味に、
「これ! お父さんにもらいましたっ!」
自分の喉をソッと触りながら、ニンマリと笑顔を作り、誇らしげに言った。
結果の報告と、お礼、そしてこれから頑張ることの宣言を済ませ、笑顔で別れた。
去る背中を見送り、その姿が見えなくなる頃、
「ね、ちょっとお話したいことあるから、ベンチ座ろ」
と余梁が提案した。
那音はその言葉の響きに、内心ではドキドキしながらも平静を装って提案を受け入れる。
同じ歩幅で歩いて、並んでベンチに腰をかけた。
「——あのね」とたっぷり時間を使って話し始める。
「実は……お父さん。——また曲創り始めたの! とは言っても作詞だけ、なんだけどね」
余梁はポケットを探り、折り畳まれた紙を出して、広げながら続ける。
「見てみて」
那音に手渡した。
那音のドキドキとした希望的観測は、見事に外れた。しかし充分過ぎる程の嬉しい報告だ。
唾を飲み込み、その紙に目を通していく。
一番上には太字でタイトルが書かれていた。
『Nobodyが聴いてない!』
思わず口に出して意味を考えていると、真横から
「どういう意味か分かる?」
と問いかけられる。
「……う、うーん。誰も聴いてない? あっ、違うか。Nobody is not listening.だから……二重否定で……聴いてない人がいない……だ! みんなが聴いてるって事か!」
「ぷっ、すごい! よく分かったね」
眉間に皺を寄せ、絞り出した那音の答えに、吹き出すような笑いと感心が返ってきた。
「今笑ったでしょ?」
「ごめんごめん! バカにしたわけじゃないよ。ただ、お父さんの狙い通りだなって。あと、私と全くおんなじ考えだった!」
余梁は舌を出してイタズラ顔を作ると、恒一が込めた意味と狙いを補足する。
「一目見た時は『誰も聞いてない』って思わせて、よく考えたら『みんな聴いてくれてる』って思うようにしてるんだって!」
それを聞いて那音は歌詞にゆっくりと目を通していく。
じっくりと、噛み締め、時には頷きながら読み終えた。
「確かにさ……俺は夢をバカにされたことがあったし、自分の歌にも自信が無かったから……。だから俺の歌なんて誰も聴いてくれないと思ってた。だけど——余梁が聴いてくれた。そして親父も、高橋さんも、コーチも、審査員さんも、蹴人も、我歌も。みんな俺の歌を聴いてくれてて、てか中には俺の歌に影響受けたやつもいるんだ!」
那音はどんどんテンションを上げて興奮を表す。
「——俺の歌聴いてくれてる人、こんなにいるじゃないか」
歯茎を見せて笑った。
「私も……」と余梁が発言のバトンを受け取る。
「歌手になること、お父さんに反対されてると思ってた。私が歌うの嫌がってると……嫌われてるんじゃないか……とも思ってた。……でも……でも。実際は一番愛してくれてたし、応援して、支えてくれてた」
余梁は徐々に声を震わせる。
大きく息を吸い込み、震えを落ち着かせて、
「——お父さん、不器用過ぎるんだーー! よし。私、大学行くよ」
恒一の想いを汲み取り、進む道を叫んだ。
その道は、恒一の歌を世間に、全国に、世界に認めさせる道へと繋がっている。
那音と余梁、二人にとってのまさに『Nobodyが聴いてない!』出来事を共有した。
そして目を合わせ、微笑み合う。
少しの沈黙を経て、「俺からも話がある」
と今度は那音が切り出し、余梁が胸をドキドキさせた。
真っ直ぐに、まばたきを忘れる程ジッと余梁を見つめ、
「あのさ、俺たち——」
躊躇って言葉を切る。
余梁はそわそわとして、ベンチを指でトントン叩いて、続きを待つ。
「——ユニット組まないか?」
「へ?」
「俺……余梁とユニット組みたい。一緒に歌いたい。……だめ……かな?」
「え?」
予想外の提案に、状況が掴めず、聞き返す事しかできない。
「ユニット名も考えたんだけど……。『より道』なんてどうかな……?」
「え……うーん」
余梁は唸るように考え始め、那音も静かにその答えを待つことにした。
そして、余梁は小さく「よしっ」と言って、跳ねるようにベンチから立ち上がり、数歩進んだ。
両手をおしりの辺りで組んで、背中を見せたまま、那音のいない方向に頭を下げる。
「ごめんなさいっ!」
那音は嘆息をつきながら、肩をすくめる。
その後ろから、強い追い風が吹き、桜吹雪が舞った。
余梁は頭を上げて、首だけ振り返る。
「——そのユニット名は、ちょっとダサいかも」
桜を置き去る満開の笑顔を咲かせて言った。
グサッ
那音は胸を押さえた。
笑顔アレルギーが悪化している。
【Nobodyが聴いてない!】
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
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私は物語が大好きです。
その中でも、この瞬間、全てに決着をつけた後の余韻が大好き。
物語はもう終わっているのに、いつまでもこの世界から離してくれないような余韻を味わうのが大好き。
那音と余梁の物語は、まだ続くでしょう、私も書きたい!
ここまで読んでくれた方は是非、続編の方も愛してやってください。
その前に別の作品も二作、連載する予定です。
今後ともよろしくお願いします。
貴重な時間を使って読んでくれて、本当にありがとうございました。




