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Nobodyが聴いてない!  作者: 大貴古川


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第四話 余熱が消えない魔法の歌

 近くのグラウンドから野球の練習の音が聞こえてくる。

 余梁(より)が二人分の昼食の準備をしていると、恒一(こういち)が起きてきた。

「お父さん、おはよ。夜勤お疲れさま。」

「おはよ。」

 恒一は余梁を視界に入れず、スマートフォンを見ながら椅子に座り、昼食ができるのを待つ。


「お待たせ、おかわりあるからね。」

 余梁はカレーライスとサラダ、味噌汁を食卓に並べ、エプロンを外しながら恒一の正面に座る。

「「いただきます。」」

 と同時に食べ始める。


 どう切り出そうか迷っていると、恒一の方から口を開いた。

「それで、大学はどうするんだ?」

「大学は……この前お父さんに、言われたから少し考えてみたよ。……それでさ……ボーカルの専門学校なんてどうかな……?」

 余梁は父の(かん)(さわ)らないように慎重に、用意していた言葉を返す。

 

「ダメだ、普通の四年制の大学に行け。」

「……どうして?歌手になるのに時間を無駄にしたくないよ。お父さんみたいな歌手になりたいの!」

「まだそれ言ってるのか。俺みたいなって、たった一回裏切られただけで歌えなくなって、借金を作り、妻に出ていかれ、夜勤バイトしかしてない歌手か?」

 声量を上げ喋りながら、恒一はサッと食べ終わり、席を立つ。


「あいつは私も許せない。でも、だからこそお父さんの歌はあんなやつに負けるわけないって証明したい。悔しいよ。」

 恒一は黙って聞きながら、食器を洗い場に置き、居間に向かう。

 余梁も立ち上がり、父の背中を向きながら気持ちを伝える。


「お父さんの歌は他人(ひと)の人生を変えちゃうんだよ。ちっちゃい頃、初めてお父さんのライブに行ったとき、私の横の人、震えてたんだよ、泣き崩れてたんだよ?」

「……昔の話しは辞めろ。」

 恒一は居間に入り、座布団に腰を下ろしながら拒否を示す。


「さっき公園で……あっ…………いや、えっと……お父さんの曲が親子で大好きっていう子に出会ったよ。」

 墓穴(ぼけつ)を掘る発言だと気付いたが、伝えたいことをそのまま伝える。

「もう何年も歌ってないのに、お父さんの歌は誰かの心に余韻が残ってるんだよ。お父さんの歌の力はすごいんだよ。」

 恒一は背中を向けながら返事をせず、タバコに火をつける。


「――もういい、私、お父さんに憧れるの辞める。目標にするんじゃなくて、お父さんにもらった、この声と心を歌にして、世間に認めさせてやる。」

 恒一は黙って聞きながら、タバコの灰を灰皿に落とすのを忘れている。そして心なしか震えを含んだ声を発する。

「――余梁……喉の調子はどうだ……?」


 今朝のことが頭によぎり、眉をひそめる。

 動揺に気付かれないように、慎重に息を深く吸い込み、言葉を返す。

「もうバッチリ良くなったよ。だから早く歌いたい。……友達と……カラオケ行ってもいい?」

 まだ少し(かす)れを残した声で(たず)ねる。


 二本目のタバコに手を伸ばしながら

「……無理して歌うなよ。あとカフェオレだいぶ残してたが、水分はちゃんと摂れ。乾燥は良くない。」

「うん、わかった!」


 自分の分の昼食を食べ終わっていないが、自室に向かい、スマートフォンを手にする。

 

 『那音くん!

 お父さんに気持ち言えた!

 伝わったかは、わからないけど(笑)

 許可もらえたから、練習試合しよ!』

 

 送信ボタンを押し、さっきの父とのやり取りを振り返っていると、初めて父のライブに行った、あの日の事を思い出す。

 歌の美しさも(みにく)さも知る前に、憧れだけを(いだ)いたあの日。


 ◇ ◇ ◇

「パパって、魔法使いさんなの!?」

 初めて恒一のライブを聞いたあと、楽屋に入ってきた余梁が純粋な眼で聞く。

 

「魔法使い!?どうして?」

「だって、パパの歌聞いて、余梁の、横の人、泣いて、立てなかったもん。コーゲキしたんでしょ。」


 可愛い疑問をぶつけられた恒一は、余梁の頭を撫でるように手を置き

「あははは……余梁ちゃんの横に居た人は、苦しんで立てなかったんじゃなくて、感動してたんだよ。」

「カンドー?」

「感動って言うのは……うーん、心があったかくなること、かな、余梁ちゃんはとっても嬉しかったことあるかな?」

「んー、余梁は、パパとママと、ギュッてすると、すごく嬉しい」

 と両腕を恒一の方に伸ばしハグを求める。それに応え余梁を大切に抱きかかえ、

「それが感動だよ。余梁ちゃんの横の人は、さっきお手紙をくれて、お医者さん辞めて、パパみたいな歌手になりたくなったって。」


 余梁は抱き抱えられたまま、(ほお)()()せ、満面の笑みで知らない言葉を聞く。

「カシュ?」

「歌手っていうのは、パパみたいに歌で人を感動させちゃう、魔法の歌が歌える人だよ。」

「歌手!歌手!カンドー!かっこいい!余梁も、パパみたいな、歌手になりたい!」


 恒一は目を見開き、抑えきれない笑顔が(あふ)れる。

「ちょっと、待って。」

 とスマートフォンを手にして、余梁に近づけながら言葉を続ける。

「余梁ちゃん、今のもう一回言ってみて」

「余梁も、パパみたいな、歌手に、なりたい!」


 消えない熱が灯った。

 ◇ ◇ ◇



       『余熱が消えない魔法の歌』

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