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Nobodyが聴いてない!  作者: 大貴古川
幕間

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31/43

決意の後

 四時にセットしたアラームの音で那音(なおと)は目を覚ます。

 季節とともに、日の出の時間は遅くなり、外はまだ真っ暗だ。


「よし」と自分の頬(ほお)を張り、気合いを入れて、部屋の外に出る。

 余梁(より)が寝ている部屋の前に立ち、コンコンと小さめのノックをすると

「あ、ちょっと待って。すぐ出る」

 五秒ほどで余梁が出てきた。


 あの日、余梁が手術を決心してから、一時的に那音の家に身を寄せて暮らす事になった。

 体調面や生活面、防犯の面など様々な面で那音の傍(そば)に居る方が安心だろうと、二人で出した結論だった。

 とはいえ、二人ともお互いの傍に居たいのが一番の理由である。


「余梁、おはよう」

「おはよ、那音くん」

「今日もついてくる?」

「もちろん!」

「体調大丈夫?」

「早寝早起きして、適度な運動が一番だよ! だから那音くんの朝練のおかげでバッチリ!」


 朝の準備を済ませ、いつもの公園に向かう。そしていつものルーティンをこなす。

 いつしか、余梁が横で応援することもルーティンのようになっていた。


 朝練を終えて家に帰る途中

「今日って、余梁なんか用事あったっけ?」

「私はスマホの画面の修理行くよ。那音くんは?」

「俺はオーディションの申し込み。今日からだから」

 

 那音はまた頬を張り、気合いを入れながら言った。


「あ、そうだね。いよいよだね」

 那音の方を向き、微笑みながら言った後、少し俯(うつむ)いて自分の喉を撫でた。


 

「「ただいま」」

 あの日から余梁は『おじゃまします』を『ただいま』に変えていた。


「じゃあ俺、申し込み用に歌ってる動画撮らなきゃいけないから」

「うん」といって余梁は拳をつき出す。

 それに応えて、拳を合わせた。


 そのまま背中を向け、那音は地下のカラオケルームへ向かう。


 何度か撮り直し、一番満足のいくデータを残した。

 そして、必要事項を入力し、歌唱データを添付して、那音にとって最後のオーディションに申し込んだ。


『申し込む』ボタンを操作した後、目を瞑(つむ)り深く息を吸い込む。

 そして開けた目には、揺るぎない決意が宿っていた。


 その後、食堂へ行き壁にかけられたカレンダーの前に足を運ぶ。

 オーディションの日、一月十日の日曜日。

 その欄(らん)には既に、別の予定が書き込まれていた。 

『余梁 手術』と黒いマジックペンで力強い文字で。

 

 そして、その下に同じように力強く

『那音 オーディション』と書いた。



 * * * * * * * * * * * * *



「修理の時間ってどれくらいかかりますか?」

 スマートフォンの画面を修理してもらいに来た、メーカーの直営店で、余梁は尋(たず)ねた。


「一時間程でできると思います」

「わかりました。でしたらまたその頃、戻ってきます。よろしくお願いします」

 といって、店を後にした。


 そのままの足で、道路を挟んで向かい側にある、五階建ての大型家電量販店に入る。


 フロアマップを確認し、目当ての売り場まで真っ直ぐ向かった。

「すみません。これの一番安いモデルってどれですか?」

 近くの店員に、陳列(ちんれつ)されている商品を一つ示しながら尋ねる。


「それでしたら、こちらでございます」

「ありがとうございます! でしたらそれ、四つ買います」

 

 目当ての物を手に入れ、口の端を片方だけ上げてニヤリと微笑んだ。



          『決意の後』

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