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Nobodyが聴いてない!  作者: 大貴古川


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第24話 漢字とカタカナで返礼

 情報の整理が終わる頃には、高速道路から降りて、間もなく病院に着く頃だった。


 那音(なおと)の肩に頭を預けたままの余梁(より)(つぐや)く。

「――怖い……」

 

 余梁にとって、検査を受けることは自分に残された可能性を確かめること。

 それはまさに自分を()るした数少ない命綱を、1本1本確かめて。――ダメなら切れてしまう。

 1本確かめる度に死が近づくような気がする。


 那音はその頭に、自分の頭の体重もソッと預けて

「今日余梁が俺に伝えてくれたおかげでさ、最悪のバッドエンドは変わったでしょ? だからきっとまだまだ未来は変えれる。俺がついてる」


 あの夜、那音を支えてくれたみたいに。今度は那音が余梁を支える決して折れない『梁』となる。


「それに」と那音が続ける

「怖いのは当たり前だからね。……だから、少しでも(やわ)らぐなら。どんどん甘えていいよ」

 と右手で余梁の頭を()でて、照れ隠しに視線は窓の外に向ける。

 余梁は満足げな顔で、那音に預ける頭を重くした。


 22時10分頃、病院に着いた。

 そしてタクシー料金を支払う。

「……ありがと。私、このお金今度返すから……いてっ」

 後ろめたさを口にする余梁の(ひたい)に、軽くデコピンだけして、何も言わない。余梁もそれ以上は言及しない。


 タクシーから降りて手を繋ぎ直し、余梁が再び口を開く。

「私、那音くんのお父さんに嫌われてないかな? この前、歯向かっちゃったから」

「大丈夫だよ」と那音が言うと同時に、すごい勢いで白衣が()けてくる。


 正人(まさと)だった。

 すぐに表情が見える距離になる。

 電話でアポイントメントを取り、メッセージで詳細を伝えた。

 その返事が『わかった』一言だけだったとは到底思えない。競走馬のような激しさで、向かってくる。

 

 余梁の心配は杞憂(きゆう)だったと、二人で胸を撫で下ろした。


「はぁ、はぁ。余梁、さん。……はぁ、はぁ」

「親父、ちょっと落ち着いてくれ」

「はぁ、はぁ。……すぅーー。はぁーー」

 深呼吸をして息を整える正人に那音が問いかける。


「急にごめん。セカンド・オピニオンって紹介状とか、前の診断結果いるんだっけ?」

「俺が全部やる」

 感情が(ともな)った正人は頼もしい。


 息が整った正人が二人の繋いだ手を一瞥(いちべつ)し、余梁を見ながら

「余梁さん。この前はごめんな。那音の事よろしくお願いします」

 と深く頭を下げる。


 余梁は繋いでいない腕の手の平を向けて

「いえ、そんな! 頭上げてください」

 と言って正人の頭が上がるのを確認してから

 

「でも那音くんの事は任せて下さいっ」

 力こぶを作るジェスチャーをして舌を出した。


 それを聞いた正人は、目を(つむ)り、何かを抑え込むように唇を強く噛み、ただ(うなず)いた。

 そして那音の方に目線を移し

「――離すなよ」

 とだけ言って、振り返り背中を向ける。

 那音は繋いだ手にギュっと力を込めた。


「着いてこい」と早歩きで院内へ先導(せんどう)した。


 廊下(ろうか)を歩く3人の(くつ)音だけが響く。

 否、後ろの2人の音は重なっている。


 診察室の前に着き、正人が振り返り

「じゃあ余梁さん、中へ」と(うなが)す。

 

「待ってくれ。メッセージでも伝えたけど」

 と繋いだ手を離して、那音が口を(はさ)む。

「――余梁は……声帯の摘出はしない。人工声帯も使わない。……余梁の声のまま治してくれ」

 真っ直ぐに正人の目をみて懇願(こんがん)した。


「那音……か、……。いや、なんでもない。それは検査結果が出てから話そう」

 正人も真っ直ぐ見つめ返し、少し(にご)した言葉も返す。


 それを聞いていた余梁は一度だけ深呼吸をして、 

「……じゃあ那音くん。――んっ」

 と言って上目遣いで頭を那音に差し出した。


 何を求められているかわかった那音は、正人の視線を(うかが)いながら、優しく余梁の頭を()でる。


「先に中入ってるぞ」

 気を効かせた正人のおかげで2人っきりになれた。


 スライドドアが静かに閉まる音と同時に、余梁は那音の胸に顔を(うず)める。

 その身体は震えていた。落ち着かせるように、頭を撫で続け、背中をトントンと叩いた。


 しばらくして、埋めた顔が上がる。

「那音くん。……お腹空いた」

「確かに、昼からなんも食べてないな」

「ね、検査頑張ったらさ。焼き肉行こ」

「いいね。深夜やってるとこ探しとくわ」

 微笑みに、微笑みで返してご褒美の約束をする。


「やったー! 牛の喉仏(のどぼとけ)食ってやるっ」

「美味しいの?」

「知らなーい」

 ししし、と笑いながら余梁が半歩離れた。


「ねぇ、私の喉。触ってあげて」

「え?」

 那音の右手を掴み、自分の喉に当てて、自分の手も重ねる。


 目を瞑って、深い呼吸を繰り返す。

「――大丈夫だよ。那音くんがついてる。大丈夫。大丈夫」

 自分と喉に言い聞かせるように呟いた。


 そして

 「じゃあ」と言いながら、診察室の方へ振り返り、まだ震えが残った身体を動かす。


「待って」と那音が引き止めて、余梁の背中に人差し指をつける。

 それを背中に()わせ始める。


 ――左下、下、右、右


 余梁はすぐに何をしているのか理解した。

「ねぇ、カタカナ? 英語?」

「漢字とカタカナだよ。集中して」

「えー、むずっ」


 ――左下、右、左下、チョン


 ――チョン、右上


「はい」

「うー、全然わかんない」

「じゃあ、検査頑張って来てね」

 そのまま立ち去る仕草をする那音に対して、その場で地団駄(じだんだ)を踏み。


「ねぇ、なんて書いたか教えてよー」

 仏頂面を作って抗議した。


 那音は、ニヤリと笑いながら余梁の耳元に近づき


「牛タン」

 と言った。


「ぷーーっ。あはははっ、意味わかんない。あはははっ」


 噴き出して笑う余梁をみて、那音も得意気に(ほお)を上げた。


 そして、笑いが落ち着いた頃、余梁の震えも落ち着いた。



        『漢字とカタカナで返礼』

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― 新着の感想 ―
最新話まで駆け抜けさせていただきました。 まず作者様は読者の感情のコントロールをよくわかってるなという印象でした。 遊園地に行くシーンなど、絶対に悪いことあるなと思いながらも二人の庶民と富豪の違いで…
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