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Nobodyが聴いてない!  作者: 大貴古川


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第17話 ドラマチックなわがまま①

 バスの到着がちょうど良い時間で、開園時間の5分前に門の前に張り付いた。

 周囲から()れる笑い声や弾んだ会話が、幸せを伝播(でんぱ)してくる。

 

 特に、園内から聞こえる、軽快(けいかい)な音楽、間近で見るアトラクションの迫力は那音(なおと)のテンションを最高潮に引き上げていた。


余梁(より)ー! 連れてきてくれてありがとう!」

「それ、言うの早過ぎだから」 

 足踏みしながら目をキラキラさせる那音に、余梁も(ほお)を上げっぱなしで応じる。

 

「もうめっちゃ楽しいもん」

「へへへー、楽しいね。那音くん」

「そういえば……チケットって……?」

「当然、事前に買っておきました。私のわがままだからねっ」

 と握った反対の手でグッドサインを作りウインクで決めた。


 那音は遠慮するのは無粋(ぶすい)だと思い、同じポーズで応じた。――がウインクは決まらなかった。

 

 そして、(つな)いだ手の熱に、ハッとして 

「ねぇ……手、握った……まま……」

「ん?」

「手握ったままだと……その……カップルみたいじゃない?」

「えー。嫌なのー?」

 と余梁が上目遣いで顔を(のぞ)き込むと、那音は無言で紅潮(こうちょう)する顔を背け、手にギュッと力を込めた。


 やがて門が開き、人が雪崩(なだ)れ込む。

 二人は興奮した感情とは裏腹に

「焦らず、ゆっくり楽しもうね」と歩き始める。

 会えなかった期間を埋めるように。二人だけのペースで。

 歩いているだけの時間さえも楽しみながら。


 すっかり周りに遅れを取りながらも、会話に花を咲かせていると

「さて」といって右手の人差し指を、ピンと立てて余梁先生が登場した。

 

「何から乗りたい?」

「俺、あのでけー観覧車乗りたいっ!」

「ふっふっふ。観覧車は夜のお楽しみなのです」

 得意気に顔をニヤリとさせ、

  

「夜、なんと、花火があります! 20時23分に観覧車に乗り込むと……なんと、なんと! ちょうどてっぺんで、花火のクライマックスが見れるのだ!」

 那音は説明の途中から余梁の方を向き

「それ、やべー!」

「へへへー。そーだろー。ドラマチックなシチュエーション!」

 と本日何度目かの、おどけたように舌を出した。

 

 『ドラマチック』という単語に『ロマンティック』なシーンを期待してしまい、那音は心拍数が上がるのを感じる。

 左手で胸を抑えながら視線を前に移すと、大きな船があった。


「あれが食べ放題か!」

「バイキングね。乗ろっか!」

 どちらが先導(せんどう)するでもなく、同じテンションと、同じペースで向かう。


 座席に座り、やがて船がゆっくり前後に動きだした。

「うぉー動いた」「わー楽しい」「やべー風が気持ちいい」

 前後の動きに合わせて那音は一人でリアクションを都度取る。

 横で余梁は「わぁー」と(ひか)え目に微笑んでいた。

 

「っっっっうおぉぉぉ!?」

 揺れが最大に達すると、那音のリアクションは、もはや言葉では無くなっていた。


 バイキングが完全に停車した後、那音は前のバーをギュッと握ったまま口を開く。

「……な、内臓が浮いた……」

「あはは、大袈裟(おおげさ)だよ! どうだった?」

「めっちゃ楽しかった! 俺これ食べ放題より好きかも」

「私は食べ放題の方が好きだけどね」

 と笑いかけながら、那音の手をバーから奪い引っ張る。


「さっ、次行くよっ!」

「どんどん行こー!」


 並びが少ないものから乗り、午前で()べ8つ乗った。

 那音が余程気に入ったみたいで、この内の4つはバイキングだ。


 4回目のバイキングが終わり、立ち上がる時

「ねぇ、那音くん……私、バイキング飽きた」

「安心して。俺も」

 申し訳無さそうに伝える余梁に、那音はニカっと歯を出して答える。


「よかったー。バイキング20回とか乗せられるかと思った」

 本気でホッとした表情の余梁は、お腹に手を当てながら

「お腹空いちゃった。なんか食べよ」と言い

 

 那音も「オッケー! ご飯は俺に払わせて」

 と(こころよ)く返事をして、手を引いた。


 売店の前で、余梁はこめかみに指を当て難しい顔をする。

「どうしよー。焼そばもカレーもたこ焼きも食べたいなぁ」

「全部買いなよ」

「そんなに食べれないもーん」

 と言い終えた後、「あっ」と(ひらめ)き、目を見開いて


「はんぶんこしよっ」

 と首を(かたむ)けて提案した。


 注文したものを手分けして運び、

「「いただきます」」

 と手を合わせて、声も合わせる。


 余梁は焼そばから、那音はカレーから手を付ける。

「美味しー。このシンプルな味付けがちょうど良いね」

 と(うなず)きながら、よく噛んで水で流し込んで

「次はカレー食べさせて」と交換を(うなが)す。


 那音は「はい」とカレーの容器を渡すが、スプーンが1個――那音が使った物しかない事に気付き、

「スプーンもらって来るわ」と立ち上がろうとすると

「それでいいよ」

 と那音の手からスプーンを取り、カレーを口に運ぶ。

 

 (はし)も1膳――余梁が使った物しかなく、焼そばと箸を受け取った那音は固まってしまう。

 飲み物の共有はもはや定番だが、それよりも刺激が強かったようだ。


「わぁー。カレーもシンプルだけど意外とコクがあって美味しい」

 と頬に手を当てながら言葉を()らし

「あれ? 那音くん食べないの?」

 と聞くと


「よ、余梁はさ……か、間接……キスとか、あんま気にしないの?」

「え? 気にするよ」

「え?」

 

「――あ、これね」と持っているスプーンに目を向け

「確かに、那音くんとは嫌な感じしなくて自然にしちゃってたな。あ、もしかして嫌だった?」

 と口に手を当てながら、探るように聞く。


 那音は強く首を振り

「全然嫌じゃないよ! むしろ嬉し……あ」

 勢いで本音を滑らせてしまい慌てて止めるが、もちろん伝わってしまう。


「嬉しいはちょっとキモいぞー」

 とニヤニヤした顔で指摘され

「ご、ごめん。嬉しくない」

「え、嬉しくないの?」

「……う……」

 言葉に()まった那音に、さらに追い討ちをかける。


「――ドキドキしちゃった?」


 屈託(くったく)のない笑顔で言われ、観念(かんねん)して

「……ちょっとだけ」

 と()ねたように言い、焼そばを口に運んだ。


 残るたこ焼きには、串が2本付いていたので、アツアツの中身とは裏腹に、心のクールダウンに寄与(きよ)した。


 タイミングを見計らい、余梁が気になっていた事を(たず)ねる。

「ねぇ、練習の調子はどう?」


 那音はニヤリとポケットを探り

「よくぞ聞いてくれた! ちょっと待ってね」

 と取り出したスマートフォンを操作して

「じゃーん」と余梁に見せる。


「わぁー! 那音くん! すご!」

 両手を口の前で合わせて感嘆(かんたん)(こぼ)す。


 スマートフォンの画面には、カラオケの採点画面の写真が表示されていて、90.0点が写っていた。


「ついに90点出せるようになったんだね」

「実は秘密のコーチお願いして、特訓してもらったんだ」

「すごいよ。すごいよ。ねぇ、聞きたいなぁ」

「またウチでいつでも聞かせてあげるよ」

 

 自慢したくて、うずうずしていた那音は、絵に描いたようなドヤ顔で、胸を張っている。

 

 それに対して、余梁は身を乗りだし、

「お願い、今日聞かせて欲しい」

 顔の前で手を合わせて

「観覧車の中でさ、登りの時に一番だけでいいから」

 と必死に頼み込んだ。


「いいよ! 観覧車がさらにロマンティックになるね」

 那音も聞かせたかったし、何より余梁のお願いは全て叶えてあげたい。


「やったー」と拳を上げながら

「ロマンティックじゃなくてドラマチックね」

 と細かい訂正をした。

 

「「ご馳走さまでした」」

 再び手を合わせて、声も合わせる。


 息も合わせて同時に立ち上がり

「先生っ!」と呼び掛けると

 人差し指をピンっと、お馴染(なじ)みのポーズで余梁先生が登場する。


「さて、次は何乗る?」

「たくさん種類あるジェットコースターを、軽めのやつから全部乗りたい」

「いいねー! 私ジェットコースター大好きなんだー」

 同じように目をキラキラさせて、意見も一致する。


「そういえば、余梁ってここ来たことあるの?」

「うん! 小さい時に一回だけね。でも身長制限であれは乗れなかった」

 とバスで説明した、観覧車よりも高いジェットコースターを指し示す。


「じゃあ今日は絶対あれ乗ろうね」

「もちろん! あれこそ20回乗りたい」


 那音の手をさっきよりも強く握り、軽めのジェットコースターの方へ()け出した。



       『ドラマチックなわがまま➀』

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