第16話 嘘のような夢のような現実
余梁は興奮を抑えられず、バスよりも揺れながら、大きなジェスチャーで、遊園地の説明をする。
頬を上げ、目を輝かせて懸命に楽しさを伝えていた。
しかし、次第に輝きを失い不安げな顔になる。
横で聞いていた那音が、徐々に膨れっ面を作り、とうとう反対を向いて頬杖をついてしまったからだ。
「ねぇ、那音くん。どうしたの?」
「別に、なんでもないよ」
「せっかくなんだから楽しもうよー。ねぇ」
那音の肩をポンポンと、叩きながら窺う。
那音はピクリとも体勢を変えず答える
「俺だって、楽しみたいよ」
「遊園地……気に入らなかった?」
肩を落とし、うつむきながら余梁が聞く。
「あのさ、俺の事……バカにしてるでしょ」
「……え?」
「――だって、そんな楽しそうな夢みたいな場所、あるわけないじゃん」
余梁は目が点になり、開いた口が塞がらない。
そしてやれやれと、微笑みつつ嘆息をもらし那音の言葉を待つことにする。
また体勢を変えないまま
「だいたい、そのコーヒーカップに入って回るってやつ、意味わかんないし。観覧車は知ってるけどさ、100メートルのなんてあるわけないでしょ」
「はいはい、そうですねー」
若干の呆れが込められた言葉を聞いて、身体の向きを変え、勢いを増す。
「てかそのバカデカイ観覧車より高くから落ちる、ジェットコースター?ってやつ、さすがにあり得ないでしょ。危なくて誰も乗らないよ」
「うん、うん、そうだね。危ないよねー」
余梁は笑いを堪えるのに必死。
徐々に頬が上がってしまう。
那音はさらに勢いを増し「それに」と、腕を組みふんぞり返って
「――バイキングは食べ放題だろ!」
「ぷっ」
余梁はついに堪えられなかった。
「あははー、笑っちゃった」
「やっぱりバカにしてるじゃん」
「じゃあもう信じてくれなくていいよー。もうすぐ着くし」
余梁は反対を向き、頬杖をつくが、その頬は上がりっぱなしだ。
那音は拗ねたように唇を尖らせ、反対を向く。
しばらくもしないうちに、また肩を叩いて那音に呼び掛ける。
「ねぇ、那音くん」
「なに?」
膨れっ面のまま振り返ると、その膨れた頬を余梁は、人差し指でつついて迎える。
「へへー、那音くん! あれなーんだ?」
と得意気な顔で、窓の外へ視線を促す。
「な、なんだあれ!? か、観覧……車?」
「そーです。さっき言った通り100メートルの観覧車ですっ」
まだ遠くにあるにも関わらず、明らかに自分の知っているそれと、違う大きさな事を目の当たりにして、目を白黒させる。
余梁は再び人差し指をピンと立てて、先生モードに突入する。
「さぁ、どんどん見えてくるよー! ほら、あれがジェットコースターだっ」
「……ほんとに観覧車より高くにレールがある……」
近づくに連れ、遊園地の全貌が徐々に明らかになる。
余梁先生が最初に教えてくれていた、嘘のような夢の話。それが次々と目に飛び込んでくる。
いつの間にかシートベルトを引っ張り、余梁の方へ身を乗り出して、窓に張り付いていた。
目をキラキラさせた那音を見て、ボソッと呟く。
「――思いきってわがまま言ってみてよかった」
「余梁! 余梁! やばい!」
那音には聞こえてないようだ。
バスが到着すると、今度は那音から手を掴み、外へ先導する。
「ほら! 余梁、早く! 早く!」
「わかった、わかった、慌てないでー」
握った手に、双方がギュッと、力を込めて遊園地の入り口前に降り立った。
「「わぁー!」」
同時に感嘆し跳び跳ねる。
そんな那音を見て、握った手を離し、先の膨れっ面を真似て余梁が
「ねぇ、なんか言うことないの?」
と追及する。
「……う、すみませんでした。余梁先生の言う通りでした」
頭の上で手を合わせ、謝意を示す。
それを見て得意気な顔で、腰に手を当てながら
「ふっふっふ。分かればよろしい。ではお詫びに、お願いを一つ聞いてもらおう」
と言った。
「はい、なんでしょうか……?」
「今日は、那音くん、暗い話するの禁止ね。楽しもうぜっ」
「それは余裕だ。だってもうこんなに楽しいもん」
頭の上の手をおろし「あっ」と思い浮かんだ事を尋ねる。
「一つだけ聞かせて。……この前悩んでた事って……解決……した?」
余梁は、前へ歩き背中を向けて、
「んー……。まぁそんな感じかな」
と言うと、笑顔で振り返り
「さっ行くよっ!」
那音の手を握って、入り口へ引っ張った。
『嘘のような夢のような現実』




