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Nobodyが聴いてない!  作者: 大貴古川
幕間

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15/27

それぞれの決意

 テーブルに置かれた、バナナ一房をジッと見つめる。

 昨日の朝にもらった時より、黒いところが増えていた。


 正直なところ昨日までの那音は、逃げ道を残していた。

 自分の(のど)で歌手になりたい。

 でも、もし届かなかったら。

 その時は上手な喉に変えてもらえる。

 心のどこかでほんの少しだけ、そう思ってしまっていた自覚がある。


 しかし、昨夜ぶつけられた想い。泣いている余梁(より)に何もしてあげられない無力感。

 ――俺の歌で、余梁を笑顔にしたい。

 那音から迷いは消えた。


 今まで届かなかった結果を(つか)み取るためには、今までと同じ努力じゃいけない。


 バナナに視線を合わせたまま熟考(じゅっこう)し、アイデアが浮かんだ。

 スマートフォンを取り出し、検索を始める。


「――よし!見つけた……」


 大きく深呼吸をし、意を決して電話をかける。

 

 スマートフォンの画面には

 【SUGAR(シュガー) SPOT(スポット) RECORDS(レコーズ) 育成担当 山口(やまぐち) (あつし)

 と表示されている。

 


 * * * * * * * * * * * * *


 恒一(こういち)の自転車がないことを確認しながら、アパートの外階段を昇る。

 いつも通り慎重に家に入り、(たぬき)寝入りを始めようと、布団に腰を降ろすと階段を昇る音が聞こえてきた。

 寝たフリをしようか迷ったすえ、出迎えることにする。


「お父さん、おかえりなさい」

「なんだ、起きてたのか?」

「……うん、寝てたんだけど、暑くてさっき起きちゃった」

 昨夜泣いたせいで、より一層(かす)れた余梁(より)の声を聞き、淡々(たんたん)とした態度で恒一が口を開く。


(のど)、全然よくならないな」

「……うん」

「やっぱり歌を仕事にするのは厳しいよな」

「……」

 余梁は何かを(こら)えるように、無言で眉間(みけん)にシワを寄せている。


 目を合わせずにタバコに火を付け、コップにお茶を注ぎ居間に座って

「大学行けよ。学費はなんとかしてやる。歌うのは大学通いながらでもできるだろ」

「……ねぇ、お父さんって……私に歌手になって欲しくないの?」

「そんなことはない」

「じゃあどうしてっ!」

 

 布団から腰を上げ、身を乗り出して言葉を続ける。

「……どうして……。昔は応援してくれてたのに。私が上達したら、変わった」

「……それは、関係ない」

「『それは』ってなに!?」

 恒一は火を付けたタバコに口を付けず、言葉も(つむ)げなくなる。


 余梁は勢いよく立ち上がり、吐き出す。

「私……本当に、こんなこと考えたくないけど……お父さん、自分が歌えなくなったから、私が歌手になるの嫌なんじゃないの!?」

「ち、違う。……そんなことはない」

 

 思わず振り返り弁明(べんめい)を図ろうとするが、決意を宿した余梁の言葉に(さえぎ)られる。


 

「――私の喉に何かした?」



 長くなったタバコの灰は、コップの中にポッと音を立てて落ちた。



          『それぞれの決意』

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― 新着の感想 ―
一気に最新話まで読まさせて頂きました……というよりも、惹き込まれて気がついたら最新話でした。 オーディションの悔しさ……めちゃくちゃ刺さりました……天才はポッと現れてサクッと超えていく……自分のいろい…
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