111話 お兄ちゃんと私の武器
「どの武器も使いこなせるから、どれにも反応しないんじゃないか」
ふいに聞こえた低く渋い声に目を向けると、さっき視線が合った傷のある冒険者がこちらに近づいてきた。
「そうですね。その可能性がありますね」
フォガスさんが冒険者の言葉に頷くと、私を見て微笑んだ。
「リーナさんは、ご自身が『これだ』と思う武器を選びましょう」
「はい」
武器が並んでいる棚を順番に見ていく。でも、武器についてまったく知らないので、何を選べばいいのかわからない。
「その棚じゃなくて、子供用の武器がそろっている棚から選んだらどうだ?」
冒険者の言葉に視線を向けると、彼は店の真ん中あたりを指す。
「子供用の武器を、まとめて置いてあるんですね。行ってみましょうか」
「はい」
フォガスさんの言葉に頷くと、子供用の武器が置いてある場所を見る。そこには、両親に武器を選んでもらっている子供たちの姿が見えた。
「アグス殿も、使う弓を選びましょう」
「はい」
フォガスさんが冒険者にお礼を言うと、彼はお兄ちゃんと私の頭に、ポンと手を置いた。
「武器は、自分を守ってくれる大切なパートナーだ。妥協せずに慎重に選べよ」
「「はい。ありがとうございます」」
お兄ちゃんと一緒に冒険者に頭を下げると、彼は少し照れたように笑った。
子供用の武器が並ぶ棚に行くと、さまざまなサイズの武器が並んでいた。
「アグス殿。弓は弦を引いた感触が大事です。いろいろ試して、相性がよさそうなものを選んでくださいね」
「相性ですか?」
「はい。いろいろ試していると、わかってくると思います」
フォガスさんの説明に、お兄ちゃんは不思議そうな表情で棚から弓を取り、弦を引く。そして次の弓を手に取り、同じように弦を引く。それを数回繰り返すと、お兄ちゃんはちょっと驚いた表情を浮かべた。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「これ、今までの弓と同じように見えるのに、弦を引いた時の感触がぜんぜん違う。すごく引きやすいんだ」
「そうなんだ」
フォガスさんが言っていた相性なのかな?
「他の弓も引いてみたら? 他にも引きやすい弓が見つかるかもよ」
「そうだな。リーナはどうだった? 気になる武器は見つかった?」
お兄ちゃんの問いに、私は首を横に振る。
お兄ちゃんが弓を選んでいる隣で、武器が並んでいる棚を順番に見ているけど、「これだ」と思える武器は見つからない。
「そっか。時間はあるからゆっくり選べばいいよ。それに、この店で決めないと駄目って事もないから」
「うん。そうだね」
お兄ちゃんの言葉に少し気が楽になり、もう一度武器が並んでいる棚を見ていく。
「あっ、これ……」
お兄ちゃんと一緒に弓を見たけど、気になる物はなかったので隣の棚に並んでいる剣を見る。大きな刃を持つ剣や、両刃の剣などを順番に見る。そして、ある剣の前で足を止めた。
ほかの剣は子供用なのか、少しかわいらしいデザインが施されていたけど、私が目を留めたのは装飾のない細身の刃を持つ剣だった。私は手を伸ばし、気になった剣を右手に持つ。ほんの少し感じた剣の重さ。でもその時は特に気にならなかった。
「リーナ殿。それは、刺突向きの片手剣ですよ。女性にはおすすめの武器ですね」
お兄ちゃんと私を見守ってくれていたフォガスさんが、私が選んだ剣を見て頷いた。
「刺突?」
フォガスさんの説明に、なんとなく剣を持って前に差し出してみる。
「そうです。そうやって、目の前に来た魔獣を刺すんです」
「あっ……」
そうか。これは武器だ。だから、魔獣を刺して殺す道具なんだ。
魔獣と戦う想像もできなければ、私が生き物を殺す想像もできない。いや、殺せると思えない。
それまで感じていなかったのに、剣を少し重いと感じた。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。大丈夫です」
お兄ちゃんと相談して冒険者になると決めた時、ちゃんと考えたはずなのに……。
手の中にある武器に視線を向ける。
「魔獣を殺すのは、彼らを救う事にもなるんですよ」
「えっ?」
「魔獣はもともと普通の動物です。それが負の魔力に侵される事で、強制的に変化させられ、魔獣となります。」
負の魔力? 本には、魔力としか書かれていなかったけど、どうしてだろう?
「そして魔獣は死ぬまで、負の魔力に苦しむと言われています。だから、殺してその苦しみから解放してあげるんです」
殺す事で、苦しみから解放する。そう思えば、殺す事も怖くないかもしれないな。
「リーナ。その武器にしたの?」
お兄ちゃんが二つの弓を持って、私たちのところへ来る。
「まだわからないけど、この剣が気になったの」
「そう」
「お兄ちゃんは……二つとも?」
私の問いに、お兄ちゃんが困った表情を浮かべ、フォガスさんを見た。
「この二つの弓、どっちも同じくらい引きやすいです。どっちを選んだらいいんでしょうか」
お兄ちゃんの言葉を聞いたフォガスさんが、少し考えてから、お兄ちゃんを見る。
「弦はどうやって引きましたか?」
「えっ? こうですけど」
フォガスさんを不思議そうに見たあと、お兄ちゃんは胸の前に弓を持ってきて、左手で弓を持ち、弦を右手で持って引く。
「わかりました。では、弓を構えて弦を引いてみましょうか」
「はい」
お兄ちゃんは最初に白い弓を構えると、弦を右手で持ち引く。そして、二つ目の青い弓も同じように、弓を構えてから弦を引いた。
「どうですか?」
お兄ちゃんは二つの弓を持ち、フォガスさんを見た。
「こっちの青い弓のほうが、構えた時にちょうどいい感じがしました」
「では、青い弓のほうがいいかもしれませんね」
お兄ちゃんは、青い弓を持って嬉しそうに頷く。
「はい。こっちにします」
お兄ちゃんが嬉しそうに、青い弓を抱える。そして私を見て笑顔になった。
「決まったよ」
「そうだね、おめでとう」
私の言葉に、お兄ちゃんが笑って頷く。
「リーナはそれに決めるの?」
「どうかな? まだ見ていない棚があるから、すべて見てから決めようかな」
私の言葉にお兄ちゃんは頷く。
「そうだね。それがいいね」
お兄ちゃんと一緒に、残りの棚を見て回る。途中でお兄ちゃんが見つけた鞭に、私は思わず固まってしまった。鞭といえば……いや、この世界では立派な武器なんだろう。
「どうだった?」
子供用の武器をすべて見終わると、お兄ちゃんが私を見る。
「さっき見た剣にする」
私の武器は、装飾が全くないシンプルな片手剣に決まった。
「決まりましたね。では、それぞれの武器に必要な物も一緒に買っていきましょう」
フォガスさんがお兄ちゃんと私に声をかける。それに頷くと、フォガスさんに聞きながら必要な物をそろえた。
会計に行くと、フォガスさんが払おうとするので、お兄ちゃんが慌ててフォガスさんの手をつかむ。
「フォガスさん。自分たちで払いますから、大丈夫です」
「そうですか?」
フォガスさんの言葉に、お兄ちゃんと私は、彼を見てしっかりと頷く。
「わかりました」
少し残念そうな表情をするフォガスさんに首を傾げつつ会計をすませ、三人で店を出る。
「ちょうどよかった」
キーフェさんの声に視線を向けると、彼の傍に二人の冒険者がいた。
「よっ、久しぶりだな~」
冒険者の一人が、フォガスさんに向かって笑顔で手を上げる。そんな彼に、フォガスさんは少しほっとした様子で笑って手を上げた。
「久しぶりですね」
「私を殺したユーレイ」を読んでいただきありがとうございます。
4月13日の更新はお休みします。
次の更新は4月15日(水)となります。
これからもリーナとユウをよろしくお願いいたします。
ほのぼのる500




