110話 武器を選ぼう
コホト村の大通りは夏祭りの準備で人があわただしく動き回っていた。その人混みの間を、周囲を警戒しながらゆっくりと進む。
「何か欲しい物は見つかりましたか?」
フォガスさんの問いに、お兄ちゃんと私は周りを見て首を横に振る。
「では、気になる物が見つかったら言ってくださいね。そういえば、お二人はこれからも冒険者として活動するんですか?」
「その予定です」
家族と離れる事になったとき、お兄ちゃんとこれからの事について話し合った。そして、お兄ちゃんと私は冒険者として生きる事に決めた。冒険者だったら、家族と離れていても怪しまれる事はないと考えたから。
「そうですか。では、どんな武器を選ぶ予定ですか?」
フォガスさんの言葉に、お兄ちゃんと私は顔を見合わせる。
やっぱり、冒険者になったら武器は必要か。薬草採取だけでは生活できないだろうし、魔石の収入はあるけど、働いてもいないのに収入があったら目立ってしまう。でも、魔獣と戦う自分が想像できないんだよね。
「早々に武器を選んだほうがいいですか?」
お兄ちゃんがフォガスさんを見ると、彼はお兄ちゃんを見つめて頷いた。
「そのほうが早く武器を使いこなせるようになりますからね」
「そうですよね。でも、自分に何が合っているのかわからなくて」
「では、武器屋に行って、どんな武器があるのか見てみますか?」
フォガスさんの提案に、お兄ちゃんが私を見る。
「行ってみる?」
「うん、行ってみようか」
フォガスさんに相談しながら決めるのもいいと思う。
「フォガスさん、お願いします」
お兄ちゃんのお願いに、フォガスさんが微笑む。そしてフォガスさんは周りを見ると、ある建物を指した。
「ありました。冒険者ギルドの近くにある武器屋みたいなので、期待できそうですよ」
フォガスさんが指した建物に視線を向けると、たくさんの冒険者が出入りしていた。
「行きましょう」
「「はい」」
「フォガス」
お店に向かっていると、静かに周りを警戒していたキーフェさんがフォガスさんに声をかけた。
「なんですか?」
「冒険者ギルドに行ってきます。もしかしたら、知り合いがいるかもしれませんから」
「わかりました。お願いします」
キーフェさんの言葉に、フォガスさんが真剣な表情で頷く。
武器屋の前でキーフェさんと別れてお店の中に入る。お店に入ると、なぜか店の中にいた冒険者たちがお兄ちゃんと私に視線を向けた。それにドキッとして、思わずお兄ちゃんの手をつかむ。
「大丈夫だよ」
お兄ちゃんが私の手をギュッと握ると、フォガスさんの後についていく。
「ここは試し用の武器がいろいろ置いてある棚ですね。あれ? どうかしましたか?」
フォガスさんがお兄ちゃんと私を見て首を傾げる。そして、周りの冒険者たちを見て、小さく笑った。
「大丈夫ですよ。彼らは、あなたたちが心配なだけですから」
フォガスさんの説明に、お兄ちゃんが首を傾げる。
「心配ですか?」
「はい。彼らは、冒険者として生きる事の厳しさを知っています。だから若い冒険者が心配で仕方ないんです」
フォガスさんの言葉に、私はこちらを見ている冒険者の一人に視線を向ける。彼は、額から左目にかけて大きな傷があり、見た目はかなり怖い。でも、私やお兄ちゃんを見る目はとてもやさしい事に気づいた。
「本当に心配してくれているんですね」
私の小さな呟きに、フォガスさんが笑って頷く。
「えぇ、だから、あまり彼らを怖がらないでくださいね」
「「はい」」
私は、傷のある冒険者に小さく頭を下げると、フォガスさんを見た。
「私は魔法が使えませんが、お勧めの武器はありますか?」
「攻撃魔法を使うのは、無詠唱で魔法を発動できる、魔法を極めたほんの一部の冒険者だけですよ」
フォガスさんの説明に、私は目を見開く。
「えっ、そうなんですか?」
ユウが、「冒険者は魔法で敵をバンバン倒す」と、叫んでいたけど……違ったんだね。
「はい。ちょっと魔法を練習したくらいでは、無詠唱で魔法を発動させる事はできません。攻撃魔法は威力が強いほど、詠唱が長くなります。仲間がいる場合、彼らが敵の視線を逸らしてくれている間に、詠唱を終え、攻撃魔法を放つ事はあります。でも、あまり効率的ではないため、ほとんどの冒険者は、武器に魔力を流して戦う方法を選んでいます」
「そうなんですか。あの、私は、武器に魔力を流す事もできないですけど、大丈夫ですか?」
「魔力のこもった魔石を使用して、武器に魔力を流せるので問題ありませんよ」
「そうですか。よかった」
フォガスさんの説明を聞いて、私は笑顔になる。
魔法を使えない事がずっと気がかりだったんだよね。もしかしたら、お兄ちゃんの足を引っ張る事になるのではないかって。
「冒険者の半分くらいは、魔力量はそれほど多くありません。そういう冒険者たちは、みんな魔石を使っていますから、安心してくださいね」
「はい」
魔石を使って魔力を流しても目立たないって事だよね。
「リーナ、よかったね」
お兄ちゃんは、私が何を心配しているのか気づいていたから、フォガスさんの説明を聞いて安堵したみたい。私もお兄ちゃんが心配してくれていた事に気づいていたから、いろいろな意味でホッとした。
「お二人の武器ですが、まだ手が小さいので、子供用の武器になります。こちらを持ってみてくれますか?」
フォガスさんが剣の並んでいる棚から、小さな剣を二本手に取ると、お兄ちゃんと私にそれぞれ渡す。
「どうですか? 何か感じませんか?」
受け取った剣の持ち手を握り、フォガスさんを見る。
「特に何も感じません」
持ち手を握っただけで何かを感じるものなのかな?
「俺は、ちょっと何か変な感じがするかも……」
私たちの感想に、フォガスさんは別の剣を選ぶと、私たちに差し出す。
「次はこっちを持ってみてください」
最初の剣とは形の違う剣に視線を向ける。
「「はい」」
「握るだけでいいのかな」と思いながら、フォガスさんから新しい剣を受け取り、持ち手を握る。
「なんだろう。握りにくい気がします」
お兄ちゃんの言葉に思わず、お兄ちゃんと、お兄ちゃんが握っている剣に視線を向ける。
私の持っている剣と同じ形なのに、握りにくい? 私は、そんな風に感じないけど、どうしてだろう?
「握りにくいですか? では、こちらはどうですか?」
フォガスさんがお兄ちゃんに、今までの二本より少し大きな刃の剣を渡す。
「こっちも同じです。握ると、なんとなく変な感じがします」
フォガスさんがお兄ちゃんの感想を聞くと、剣の棚ではなく、その奥にある棚から小さな弓を持ってきた。
「この弓を構えてくれませんか? 構え方は説明しますね」
「はい」
お兄ちゃんはフォガスさんから小さな弓を受け取ると、フォガスさんの説明通りに弓を構える。
「あっ、今までのような変な感じはしません。逆にいい感じかも?」
お兄ちゃんの感想に、フォガスさんがホッとした表情を浮かべた。
「どうやら、アグス殿は弓と相性がいいみたいですね」
フォガスさんの言葉に、お兄ちゃんが驚いた表情でフォガスさんを見る。
「そうなんですか?」
「はい。俺が二人に渡した武器には、それぞれに魔法がかかっていたんです」
魔法のかかった武器だったんだ。
「その魔法のおかげで、その人にとって最適な武器を持つと、手になじむようになっていたんです」
「そんな魔法があるんですね。凄いです」
お兄ちゃんが少し興奮気味に言うと、フォガスさんが笑った。
「次はリーナ殿の武器ですね。二種類の剣を持ってもらいましたが、何も感じませんでしたか?」
「はい」
「ん~、嫌な感じもしないし、いい感じもしない、ですか……」
フォガスさんが少し首を傾げる。
「弓を構えてみましょう」
フォガスさんが持ってきてくれた弓を、彼が説明してくれる通りに構える。
「どうですか?」
「これも、何も感じません」
嫌な感じも、これっという感じもしない。どうしてだろう?
私の言葉に、フォガスさんが店の奥の棚を見る。
「別の武器を持って来ますね」
フォガスさんが、槍と斧を持ってきてくれたので、一つ一つ確認していく。
「どうですか?」
私はフォガスさんの問いに首を横に振る。
「では、次ですね」
フォガスさんが持ってきた投げナイフ、投げ槍なども試すが今までと変わらず、何も感じない。
「これは……」
さすがのフォガスさんも困った表情で私に視線を向けた。
つまりこれって、私には最適な武器がないって事なのかな? 魔法については解決したのに、まさかの武器選びでこうなるなんて……。




