109話 嘘でしょ!
話がまとまったので、私たちはコホト村の教会へ向かう。
「きれいな教会ですね」
お兄ちゃんが教会を見上げて呟くと、キーフェさんとフォガスさんが教会前で足を止める。そして、なんとも言えない表情で顔を見合わせた。
「キーフェさん、フォガスさん、どうしたんですか?」
二人の様子に、お兄ちゃんが声をかける。
「数年前にこの村の教会を訪ねたんですが、その時とはずいぶんと変わっていたから驚いてしまって……」
キーフェさんの説明に、お兄ちゃんが教会に視線を向ける。
「建て替えでもしたんでしょうか?」
「おそらくそうだと思います。前はこんなに煌びやかではありませんでしたから」
キーフェさんの言い方に、お兄ちゃんが不安そうな表情をする。
「大丈夫ですよ。ただ、お二人は近くのお店で待っていてください」
フォガスさんが教会のそばにある店を指して言うと、お兄ちゃんと私の肩に手を置いた。
「もし、誰かに声をかけられたら『待っている人がいる』と伝えて、絶対に店から出ないでください」
「はい、わかりました」
フォガスさんの注意に、お兄ちゃんが頷く。私もフォガスさんを見て、しっかりと頷いた。
「では、二人はお店へ。我々は、二人がお店に入ったのを確認してから教会へ向かいます」
フォガスさんの言葉に、お兄ちゃんが私の手をギュッと握る。
「気を付けてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
お兄ちゃんがフォガスさんを見て言うと、彼は嬉しそうに微笑んで頷いた。
フォガスさんが指したお店に行くと、甘味のお店だった。お兄ちゃんと一緒に店に入ると、明るい女性の声が聞こえた。
「いらっしゃいませ~。お二人ですか?」
「はい。好きな場所に座っていいですか?」
お兄ちゃんが女性店員に尋ねると、彼女は笑って頷いた。
「いいですよ。すぐにお茶を持っていきますね」
「お願いします」
お兄ちゃんは窓際の、教会がよく見える席に座り、私を見た。私はお兄ちゃんの前に座ると、窓から教会のほうを見た。
「もう、中に入ったみたいだね」
私の呟きに、お兄ちゃんは少し不安そうな表情で頷く。
『リーナ、アグス。この店から絶対に出るなよ。俺はフォガスたちのほうへ行くから』
ユウはそれだけ言うと、教会のほうへ飛んでいき、窓から中へ入った。
「どうしたの?」
私の視線を追ったお兄ちゃんが首を傾げる。
「友達がフォガスさんたちのほうへ行ったの」
ユウが友達かぁ。なんだか、背中がムズムズするな。
「友達? あぁ」
お兄ちゃんは、「友達」を精霊の事だと思っているんだろうな。
「お茶をどうぞ。注文は決まりましたか?」
女性店員が私たちの前にお茶を置くと、壁のほうに視線を向けた。その視線を追うと、メニューが紙に書かれて壁に貼られていた。
「俺はクルミ団子をください。リーナは何が食べたい?」
お兄ちゃんが私を見る。
「甘辛団子をください」
ランカ村にはなかった和菓子だ! まさか、この世界で和菓子が食べられるなんて思わなかったな。
「クルミ団子に甘辛団子ですね。すぐに持ってきますね」
注文を聞いた女性店員が店の奥に入ると、すぐに戻ってきた。
「どうぞ。こちらがクルミ団子で、こっちが甘辛団子です」
「「ありがとうございます。いただきます」」
お兄ちゃんと一緒に団子を頬張ると、懐かしい味がした。
みたらし団子だ~。あぁ、この味、久しぶりに落ち着くな。
「リーナ、おいしい?」
「うん」
甘辛団子を食べ終わって窓の外を見ると、ユウが慌てた様子でこちらに飛んできていた。そして、私が外を眺めていた窓から入ってくると、教会を指した。
『この教会の奴らは駄目だ! 牧師が異端者だった!』
「噓でしょ!」
私が小声で呟くと、ユウが真剣な表情をする。
『本当だから』
これって、最悪の状況なのでは?
「リーナ?」
私の様子に気づいたお兄ちゃんが、ユウがいるほうを見る。
「お兄ちゃん」
お兄ちゃんのほうに身を寄せて、小声でお兄ちゃんを呼ぶ。
「どうした?」
お兄ちゃんも私のほうに身を寄せると、小声で答えてくれた。
「ここの牧師は異端者だったみたい」
「えっ」
窓から教会を見る。
「フォガスさんとキーフェさん、大丈夫かな?」
それに、教会にいる人たちが異端者なら、監禁されている子供たちはどうやって助けたらいいんだろう?
「あっ、二人が出てきた」
お兄ちゃんの言葉に、教会の出入り口を見る。
教会から出てきたフォガスさんとキーフェさんは、話しながらゆっくりこちらに向かってきていた。そして、お店の窓から私たちが見ている事に気づくと、私たちに向かって二人は手を軽く振った。
『あっそうだ。俺、やっちゃったんだけど……』
ユウから聞こえた不穏な言葉に、チラッとユウを見る。
『教会の奴らに子供たちの事を言わないほうがいいと思ったから、フォガスたちに「そいつらはやばい」って伝えるつもりで、近くにあった天井から下がっていた灯りを叩いたんだよ。少し前から、物を数センチ動かせるようになったからさ、灯りが揺れたらいいなっと思って』
そうなの? 私、それについて何も聞いていないんだけど。
『リーナに言うと、使うのを禁止されそうだから黙っていたんだけどさ。で、手で軽く叩いたつもりだったんだけど……』
ユウが不安そうに私を見る。私はその続きが気になったので、かすかに頷いてユウを見る。
『パリーンって壊れちゃって……』
えっ、壊した?
ユウの全身を見る。ユウの今の姿は、太もも辺りまでしかないから霊力レベルは二で間違いないはずだよね。でも、物を壊すほど力があるのは、霊力レベル四は必要だと聞いている。霊力レベル三のユーレイでもできる者がいるけど、それはかなり珍しい。
『リーナ? もしかして俺、やばい事をしちゃった?』
ユウが不安そうに私を見つめる。そんなユウに向かって、かすかに笑って首を横に振る。
物を一個壊した程度なら問題はない。ただ、ユウの状態がわからないから不安になる。
「おいしそうですね」
フォガスさんの声に視線を向けると、キーフェさんはお兄ちゃんの隣に座り、私の隣にはフォガスさんが座った。
「いらっしゃいませ」
すぐに女性店員が、フォガスさんたちにお茶を持ってくる。
「餡団子を二つ、お願いします」
キーフェさんが注文すると、女性店員はすぐに団子を二皿持ってきた。
「どうぞ」
「「いただきます」」
お兄ちゃんと、餡団子を食べているキーフェさんとフォガスさんを見る。二人は団子を食べ終わると、無言で椅子から立ち上がる。
「出ましょうか」
「「はい」」
キーフェさんが会計をしている間に、フォガスさんと一緒に店を出る。ユウは、上空から周りを見回している。そして戻ってくると、教会のほうを指す。
『窓から、こっちの様子を牧師が見てる。俺、もう少し奴らの事を探ってくるよ』
ユウが教会のほうへ飛んでいくのを見送る。
そういえば、いつの間にかユウの行動範囲が広がっている。いつからだっけ?
「大丈夫ですか?」
考え込んでいると、フォガスさんが心配そうに私を見ていた。
「はい、ちょっと考え事をしていただけです」
「宿に戻りましょう」
キーフェさんの声に視線を向けると、もう一度教会のほうを見た。
「このまま宿に戻りますか?」
「どうしましょうか」
フォガスさんの問いに、キーフェさんが考え込む。
「コホト村をちょっとだけ散策しませんか?」
「「「えっ?」」」
私の提案に、お兄ちゃんだけでなくフォガスさんたちも驚いた表情をする。
「駄目でしょうか?」
ユウが戻ってくるまで、宿には向かわないほうがいいかもしれない。
「少しだけならいいですよ。行きましょうか」
キーフェさんが私を見て頷くと、お兄ちゃんとフォガスさんを促した。




