108話 コホト村に到着、で……
タンリガ村を出発して三日目、コホト村に到着した。タンリガ村までかなりの強行軍だったので、コホト村までの旅も厳しいものになると覚悟していたけど、ここまでは周りの景色を楽しみながらの旅だった。そのおかげで、馬から降りても体に少し違和感がある程度ですんでいる。
「今日は、コホト村に泊まりましょう」
キーフェさんの提案に、お兄ちゃんと私は頷く。昨日は慣れない野宿だったので、宿に泊まれるのがうれしい。
「あの宿にしましょうか」
『あの宿か。だったら俺はこの周辺を見回ってくるな』
キーフェさんが、コホト村の大通りに面した宿を見つけると、中に入っていく。私は飛んでいくユウを見送って、お兄ちゃんと一緒に宿に入った。
「落ち着く雰囲気だね」
「うん」
こぢんまりとして居心地のよさそうな宿で、お兄ちゃんがうれしそうに私を見る。私も好きな雰囲気だったので、笑ってお兄ちゃんに頷いた。
「今、部屋が二つしか空いていないんですけど、大丈夫ですか?」
キーフェさんと話している女性が、私を見る。
「リーナ殿、アグス殿と一緒でいいですか?」
「はい」
私の返事を聞いたキーフェさんが、宿泊手続きをして、カギを受け取ると私たちのところへ来る。
「五日後に夏祭りがあるみたいで、宿はどこも混んでいるみたいですね。二つとはいえ、空いていてよかったです」
キーフェさんの説明に、フォガスさんが宿の壁に貼っている大きなポスターを見る。
「夏祭りは三日も続くんですね」
フォガスさんにつられてポスターを見ると、五日後から始まるお祭りの詳細が書かれていた。
「五日後のお昼から始まって、八日後の夜中までですか……。屋台もかなり出ますし、行事もいろいろ開催されるみたいですね」
キーフェさんがポスターを見て呟く。
「何か問題があるんですか?」
キーフェさんの様子が気になったのか、お兄ちゃんが心配そうに彼を見つめる。
「部屋でこれからの事を話しましょうか」
お兄ちゃんの問いにキーフェさんは頷き、部屋へ案内した。
キーフェさんとフォガスさんが借りた部屋に入ると、フォガスさんに椅子をすすめられた。
「座ってください」
「「はい」」
お兄ちゃんと一緒に椅子に座ると、正面にキーフェさんとフォガスさんが座った。
「アグス殿の問いへの答えですが、異端者がどこにいるのかわからないので、人が集まる行事などは避けたいんです」
「あっ、そっか。わかりました」
キーフェさんの返事にお兄ちゃんは納得した様子で頷いた。
「コホト村に人が押し寄せるのは初日でしょうが、前日もある程度の人が集まるでしょう。その前に、コホト村を出発しようと思いますが、体は大丈夫ですか?」
キーフェさんがお兄ちゃんと私を心配そうに見つめる。
「コホト村まではゆっくりだったので、俺は大丈夫です。リーナはどう?」
「私も大丈夫です」
『リーナ! 大変だ!』
ユウが部屋に飛び込んでくると、私の傍に来る。
『首に黒い紐がぐるぐる巻きの奴らを見つけたんだけど、そいつらが、子供たちを監禁してる!』
「えっ!」
ユウの言葉に、私は思わずユウを見て声を上げる。
「リーナ?」
急に声を上げた私に、お兄ちゃんが驚いた表情で私を呼ぶ。
「リーナ殿」
フォガスさんは、私の視線を追うと、緊張した面持ちで私を呼んだ。
「リーナ殿、何かありましたか?」
キーフェさんの問いに、私ははっとすると同時に、私を心配そうに見つめる三人を見返す。
やってしまった。でも、知った以上はなんとかしないと……。
「あの……」
どう言えばいいんだろう? 地獄に送られる事が決まっている者たちが、子供たちを監禁しているって? いや、駄目でしょう。
「リーナ殿、何かあるなら言ってください。我々が対応しますから」
フォガスさんの言葉に、「ここは正直に話そう」と思ったけど、思いとどまる。 別にすべてを話す必要はない事に気づいたから。
私、混乱しているみたい。落ち着こう。
「この近くに、子供たちを監禁している人たちがいるみたいです」
私がそう言うと、フォガスさんが険しい表情をした。キーフェさんは窓から外を見ると、私のほうを見た。
「監禁されている場所はわかりますか?」
『わかる。青い屋根で、木の扉には「八」の文字。窓の下には白い花が咲いていた。えっと……大通りから一本奥にある道沿いにある家だった』
ユウがキーフェさんの隣に行くと、窓からある方角を指す。
「青い屋根で、木の扉には『八』の文字が書かれていて、窓の下には白い花が咲いていたそうです。あと、大通りから一本奥の道沿いにある家みたいです。あっちですね」
ユウが指したほうを、キーフェさんとフォガスさんに伝える。二人は、私の説明を聞いた後、窓から外を見る。
「俺が見てきます」
フォガスさんが言うと、キーフェさんが頷く。
「あの、大丈夫ですか?」
ユウから聞いた情報は伝えたけど、監禁している人たちがどんな人なのかわからない。もしかしたら、フォガスさんがケガを負ってしまうかも。
「大丈夫です。場所を確認するだけなので、危ない事はしません」
『俺も一緒に行く。フォガスが危なくなったら、すぐに戻ってきて伝えるな』
フォガスさんが笑って私の肩を軽く叩くと、お兄ちゃんにも声をかけ、部屋から出て行った。そのあとを、ユウが追うように出て行く。
「そんなに緊張しなくても、フォガスなら大丈夫です。お茶を淹れましたから、ゆっくり飲んでください」
キーフェさんからコップを受け取ると、ゆっくりとお茶を飲む。緊張で体が冷えていたのか、お茶の温かさにホッとした。
「ありがとうございます」
私のお礼にキーフェさんは微笑むと、彼もお茶を飲んだ。
コンコンコン。
「フォガスです」
しばらくすると部屋の扉が叩かれ、フォガスさんの声が聞こえた。それにホッと息を吐き出す。
「よかった」
「どうぞ」
私の小さな呟きにキーフェさんは頷き、フォガスさんに声をかけた。
「どうでしたか?」
キーフェさんの問いに、フォガスさんは険しい表情を浮かべる。
「監禁場所は確認できました。確認できた見張りの人数は、全部で四人です」
『えっ、見張りがいたの? 気づかなかった……。あっ、もしかしたら監禁している家の二軒隣の玄関前にいたあの男かな? でもあの男の首には、黒い紐はなかったけどな』
一緒に戻ってきたユウが、驚いた表情でフォガスさんを見る。
あれ? ユウはいつの間に一人で黒い紐が見えるようになったの? 前までは、私に振れていた時だけ見えたよね? いや、違うか……ん~どうだったっけ?
「見張りが四人?」
「はい。外に二人、家の中から見張っているのが二人です。もしかしたら、もっと多いかもしれません」
フォガスさんの説明を聞き、キーフェさんも表情が険しくなる。
「その数の見張りがいるという事は、大きな組織が関わっているかもしれません。見張っていた者たちに特徴はありませんでしたか?」
キーフェさんの問いに、フォガスさんは首を横に振る。
「不審な動きをすると危険だと判断したので、詳しく見る事はできませんでした」
「そうですか。この問題は、コホト村の教会に報告しましょう。我々だけでは手に負えません」
『王都の教会には、異端者が教会内部にいたんだよな。コホト村の教会は大丈夫なのか?』
「あの、コホト村の教会に異端者はいないんですか?」
ユウの呟きに、私は不安を覚えてキーフェさんに問う。キーフェさんは、少し考えると首を横に振る。
「正直なところ、わかりません。コホト村の教会内部に、異端者がいる可能性はあります。でも、今は子供たちの救出を急がなければなりませんから」
それはそうなんだけど、不安がぬぐえないな。
「リーナ」
お兄ちゃんがそっと私の手を握る。
「キーフェさんとフォガスさんに任せよう」
任せるしかないのはわかっているんだけど……。
『俺がしっかり見張るから大丈夫。任せろ!』
ユウが私を見て、自分の胸を叩く。
そうだね、三人に任せるしかないよね。私が心配したところで、何もできないし。
「わかりました。お願いします」




