107話 ユウが気になった村
「アグス殿、リーナ殿。どこか気になる村や町はありませんか?」
フォガスさんの問いに、お兄ちゃんも私も首を傾げる。
「目的は異端者に見つからない事ですので、どこへ行ってもいいんです。だからお二人が気になった場所へ行こうと思いまして……」
『気になる場所ね~』
ユウが地図を眺める。そしておもむろにある場所を指した。
『この村……どこかで見たような気がする。どこでだっけ?』
「トルト村?」
「リーナ殿は、トルト村が気になるのですね。今の場所からはずいぶんと離れていますが、いいかもしれませんね」
ユウが指した場所を無意識に口に出していたようで、フォガスさんが地図を確認して頷く。
「あっ、いえ、別に」
どうしよう、私が気にしている場所になってしまった。
「それならトルト村へ向かいましょうか」
キーフェさんが私を見て微笑む。
本当にどうしよう。このままだと、トルト村へ行く事になってしまいそうなんだけど。
『ん~、思い出せないな。でも、絶対見た! いや、たぶん……。え~、すっごく気になるんだけど、マジでどこだ?』
ユウの呟きが聞こえ視線を向けると、頭を抱え、真剣な表情で地図を見つめていた。
「そうですね。目的が決まっていないなら、トルト村へ行きましょうか」
ユウが気にしているし、それに『見たような気がする』というユウの言葉が気になる。前回見た地図は、ランカ村周辺までしか載っていなかったので、地図で見たわけではない。では、どこでユウはトルト村を見たのか、好奇心旺盛ではなかったはずなのに、なぜか気になる。
「では、道順ですが……異端者がたくさん見つかっている王都は避けましょう」
フォガスさんの言葉にキーフェさんが頷く。
王都では異端者がたくさん見つかっているんだ。人がどこよりも多いから? それとも、別の要因があるのかな?
「ルールス村からマルーク村へ行って、ユット村とエガス村を通ってトルト村へ行くのが最短ですね。急ぎではないですが、とりあえずこの道順で行きましょう。途中で何かあったら、その都度話し合っていきましょうか」
フォガスさんの説明に、私は頷く。お兄ちゃんも地図を見て確認すると頷いた。
「あと、チト町からは冒険者として行動しましょうか」
「チト町からですか?」
キーフェさんの言葉に、お兄ちゃんが不思議そうな表情をする。
「はい、チト町は大きな町なので、冒険者ギルドも大きく、一日に多くの人が利用します。その人たちに紛れれば目立ちません。そして冒険者として動くのは、ただ旅をしていると目立ちますが、冒険者だと村から村へ移動しても、依頼のためだと思われるので気にされないんです」
キーフェさんの説明に、フォガスさんが頷く。
「わかりました。あの……」
お兄ちゃんがフォガスさんとキーフェさんを見る。
「どうしましたか?」
キーフェさんがお兄ちゃんに聞くと、お兄ちゃんが少し困惑した表情をする。
「キーフェさんとフォガスさんは、チト町で冒険者登録をするんですか?」
お兄ちゃんの問いに、キーフェさんが驚いた表情をする。そして、申し訳なさそうな表情で首を横に振った。
「すみません、説明不足でした。アルテト司教の護衛騎士は、冒険者登録をして、ときどき冒険者として活動しているんです」
「そうなんですか? えっ、護衛騎士なのに? フォガスさんもですか?」
お兄ちゃんが驚いた声を上げると、フォガスさんを見る。
「はい、俺も時々ですが冒険者として活動しています」
『まじで? 護衛騎士で冒険者? なんか、かっこいいな~』
ユウがすごいと言いながら、二人の周りをくるくる回る。
「アルテト司教の指示というか、お願いというか……」
キーフェさんが言葉を濁すとフォガスさんを見る。
「アルテト司教は冒険者になれとは命令しません。ですが、見聞を広めるために冒険者になったほうがいいと勧められるんです。それで、アルテト司教の護衛騎士の多くは、冒険者登録をしているんです」
「そうなんですか。護衛騎士に冒険者なんて、大変ですね」
お兄ちゃんが感心した様子で、キーフェさんとフォガスさんを見つめる。
『見聞を広めるね~。それもあるのかもしれないけど、情報を集める場所としても利用しているんじゃないか?』
ユウの言葉に思わず頷いてしまう。
まぁ、そういう面もあるんだろうな。
「明日から、我々も冒険者の格好になりますから、よろしくお願いしますね」
フォガスさんが楽しそうに言うので、お兄ちゃんも私も笑って頷いた。
「「おはようございます」」
借りていた部屋を出ると、フォガスさんとキーフェさんがちょうど扉の前にいた。
「おはよう……ございます」
『うわ~、護衛騎士の格好はストイックな感じでかっこよかったけど、冒険者の格好だとワイルドな感じで、これはこれでいいな。二人ともモテそうだわ』
ユウがフォガスさんとキーフェさんの格好を見て、興奮した様子で言う。
「どうかしましたか?」
私の様子がおかしいと感じたのか、フォガスさんが心配そうに私を見つめる。
「いえ、お二人の格好が見慣れなくて、少し驚いただけです」
かっこよくて驚きましたとは言えない。
「リーナ、おはよう。キーフェさん、フォガスさん、おはようございます」
最後に部屋から出てきたお兄ちゃんが、うれしそうに私の傍に来る。
「お兄ちゃん、おはよう」
四人で、一階にある食堂へ向かう。途中、宿に泊まっていた女性冒険者がちらちらとキーフェさんとフォガスさんに視線を向けた。
『うわ~、二人は昨日より視線を集めているな~』
ユウがうらやましそうに呟くと、私を見る。
『モテるのを見ていると苛立つから、宿の周辺を見てくるな』
「行ってらっしゃい」
ユウに向かって小さな声で呟くと、ユウはうれしそうに笑って、宿の窓から出て行った。窓から飛んでいくユウを見送ると、食堂に入る。
「朝ごはんをもらってきますので、座っていてください」
フォガスさんとキーフェさんが、食堂にあるカウンターへ向かう。その姿を見送ると、空いている場所を探すため、食堂内を見渡す。
「リーナ、あそこが空いているよ」
お兄ちゃんが指すほうを見ると、六人掛けのテーブルが空いていた。すぐにその場所を確保するために、お兄ちゃんと一緒に向かう。
「フォガスさんとキーフェさん、女性に話しかけられているね」
椅子に座ったお兄ちゃんが、カウンターのほうを見て目を見開いた。私も椅子に座ると、フォガスさんとキーフェさんへ視線を向ける。
「本当だね」
ずいぶん積極的な女性なのか、二人の腕をつかんでいた。
「「あっ」」
女性がしつこかったのか、フォガスさんが女性の手を振り払う。そして、女性を睨みつけるように見ると口を開いた。
「何を言ったんだろう?」
フォガスさんを怯えた様子で見る女性に、お兄ちゃんが首を傾げる。
「注意だと思うけど、なんだろうね」
ただの注意であんなに怯えるかな?
「「お待たせしました」」
フォガスさんとキーフェさんが、朝ごはんを持って、私たちが座っているテーブルに来る。
「ありがとう。えっと、女性に何を言ったんですか?」
お兄ちゃんが、チラッと女性がいるほうを見ると、フォガスさんに聞く。
「ただの注意ですよ。気にしないでください」
有無を言わせない雰囲気のフォガスさんに、お兄ちゃんと私は無言で頷いた。




