112話 早く、伝えないと!
フォガスさんは二人の冒険者と握手をすると、私たちに視線を向けた。
「彼らは信用できる上位冒険者です。あの問題も、これで大丈夫でしょう」
フォガスさんの言葉に、お兄ちゃんはホッとした表情を見せた。
「リーナ、よかったね」
「うん」
フォガスさんが信用できると言っていたから、大丈夫だと思うけど……。
『いたー! 宿にいないからびっくりした』
少し慌てた様子のユウが私の傍に来て、安堵した表情を浮かべる。ちょっと申し訳なく思いながら、チラッとユウを見る。
『リーナ、あそこの教会の牧師と、子供たちを監禁している奴らはつながっているぞ』
えっ、つながっている?
ユウの言葉に、思わずジッと見つめる。
『フォガスたちが来た事で慌てた牧師が、部下……いや仲間か、とにかくその女性に指示を出していたんだ。えっと「すぐに集めた生贄を移動させろ」って。俺、生贄が気になって女性の後を追ったんだよ。そうしたら子供たちを監禁している奴らに会って、今日の夜にはコホト村から出るように言ってた』
子供たちが生贄って事? それに、生贄って……なんの?
「リーナ殿?」
フォガスさんの声にハッとして、彼を見る。
しまった。ここには何も知らない二人の冒険者がいるのに、思いきりユウのほうを見てしまった。
「これからの事を話したいので、あの店に入りましょうか」
フォガスさんは私が見ていたほうをチラッと見ると、それには触れないまま近くの店を指す。
「はい」
フォガスさんの提案に頷くと、不思議そうな表情をしている二人の冒険者と一緒にお店に向かった。
「いらっしゃいませ」
お店に入ると、お肉の焼けるいい香りがした。
「この店は安くて早くてうまいんだよ」
冒険者の説明に頷きながら、店内を見渡す。
『リーナ、見て! 焼いているところを見られるみたいだ』
ユウが指すほうを見ると、女性が串に刺さった肉を焼いていた。
『うまそうだな~。……食べられないけど』
ユウはどんなに霊力レベルが上がっても、食べられないよね。というか、私もお腹がすいていないから、すごく気になる香りだけど、今は食べられないや。
「こちらへどうぞ」
お店の人の案内で個室に入ると、冒険者たちが料理を注文する。
「ごめんな。甘いものを食べたあとだとは聞いたんだけど、俺たち、お昼がまだだからさ。お腹すいちゃって」
冒険者の一人が、お兄ちゃんと私を見て言う。それにお兄ちゃんと私は首を横に振る。
「そうだ自己紹介がまだだったな。俺は上位冒険者のジーア・ユサだ。よろしく」
濃い緑の短髪で黄緑の瞳の人がジーアさん。
「俺はジーアと一緒に行動している、上位冒険者のダンダ・コホトだ。よろしくな」
明るいオレンジの短髪に濃いオレンジの瞳の人がダンダさん。
『ダンダって人は、きれいな髪色だな』
ユウの感想に私も頷く。窓から入る光に、ダンダさんの髪がキラキラしている。
「アグス・ランカです。よろしくお願いします」
お兄ちゃんの挨拶が終わったので、私も二人に向かって頭を下げる。
「リーナ・ランカです。よろしくお願いします」
「話は、ジーアたちのご飯が終わった後でしましょう」
キーフェさんの言葉に、ジーアさんたちが頷くと、ちょうど料理が来た。
ジーアさんとダンダさんは、テーブルに並んだ少し多いお昼をすごい勢いで食べきると、ゆっくりとお茶を飲み始めた。
「相変わらず、食べるのが早いですね」
少し呆れた表情でキーフェさんが呟くと、ダンダさんが首を傾げる。
「そうか? いつも通りだけどな」
話をするために早く食べたわけではなく、いつも通りなんだ。それにちょっとびっくりだな。
「食べ終わったみたいなので話しますね」
キーフェさんはジーアさんたちの様子を見て頷くと、子供たちの事を話した。
「もしかして教会に助けを求めたか?」
ジーアさんの言葉にキーフェさんは首を横に振る。
「教会には行きましたけど、助けは求めませんでした」
キーフェさんの返答に、ジーアさんとダンダさんは少しホッとした様子を見せた。
「二人は知っているのですか?」
フォガスさんの問いに、ジーアさんとダンダさんがなぜかお兄ちゃんと私を見る。
「大丈夫です。彼らは事情を知っています」
事情ってなんだろう?
フォガスさんの説明に、ジーアさんとダンダさんが驚いた表情を見せる。
「まだ、子供だろう? どうして?」
ダンダさんの問いに、フォガスさんとキーフェさんは顔を見合わせる。
「詳しくは話せませんが、この子たちは異端者に狙われているんです」
「えっ」
フォガスさんの言葉を聞いたダンダさんが小さな声を上げる。そして、なんとも言えない表情で、お兄ちゃんと私を見た。
「わかった。それなら話しても大丈夫だな。フォガスの言う通り、俺たちは教会にいる牧師、そして彼を補佐している女性が異端者だと、最近気づいたんだ」
ダンダさんの説明に、私は彼を見る。
補佐って、ユウが言った指示を受けていた女性の事かな。
「どうして気づけたんだ?」
「数人の異端者を捕まえずに泳がせていただろう。その一人がコホト村に来たんだ。そして教会の牧師と密会した」
ダンダさんの説明に、フォガスさんとキーフェさんが頷く。
「奴らが役に立ったんですね」
キーフェさんはそう呟くと、ジーアさんとダンダさんを見た。
「二人は異端者探しをしているんですか?」
「「そうだ」」
ジーアさんたちの返答に、キーフェさんが少し考え込む。
「それだと、子供たちの件で協力はしていただけませんか?」
「それは大丈夫だ。異端者を探す事も重要だけど、子供たちを助ける事はもっと重要だから」
ジーアさんの言葉にダンダさんが頷く。
『リーナ、その異端者の牧師と監禁している奴らがつながっている事は言わないのか?』
ユウの指摘に、私は困った表情をする。
言いたいけど、ここで言うのはまずいでしょう。まったく私の事を知らない、ジーアさんたちがいるんだから。でも、二つの問題がつながっている事は、早く伝えたほうがいいよね。どうしよう……。
「リーナ、どうしたの?」
私の様子に気づいたお兄ちゃんが、そっと私に聞いてくれる。
あっ、そうだ!
「お兄ちゃん、お手洗いに行きたい」
「わかった。一緒に行こうか」
私とお兄ちゃんが立ち上がると、フォガスさんも立ち上がって私たちを見る。
「護衛として、一緒に行きますね」
よかった、成功した。私がお手洗いに行くと言えば、フォガスさんかキーフェさんが護衛してくれると思ったんだよね。
『アグスじゃなくて、最初からフォガスに頼めばよかったんじゃないか?』
えっ、フォガスさんに「お手洗いに一緒に来てください」って? それは……恥ずかしいでしょ!
お兄ちゃんとフォガスさんと一緒に個室から出ると、お兄ちゃんが店の奥を指す。
「お手洗いは、あそこだね」
私は、周りを見渡して誰もいない事を確かめると、お兄ちゃんに小さく頭を下げた。
「ごめんなさい。お手洗いは嘘なの」
「えっ?」
私の言葉に目を見開くお兄ちゃん。傍でフォガスさんも、驚いた表情をしている。
『リーナ、周りに誰もいないぞ~』
「フォガスさん」
「はい」
私の雰囲気に何かを感じたのか、フォガスさんは真剣な表情をした。
「牧師の指示で仲間の女性が、子供たちを監禁している人たちに『今夜、コホト村から出るように』と言ったそうです。それと、子供たちのことを『生贄』と言っていたみたいです」
私の話を聞いたフォガスさんの表情が険しくなる。
「それはとても重要な情報ですね。すぐに、仲間に伝えましょう」
「あの、その情報をどうやって知った事にするんですか?」
お兄ちゃんが私を心配そうに見てから、フォガスさんを見る。
「どうやって知ったのかは、絶対に言いません。彼らに『言えない』と言えば、詮索はしてきませんから安心してください」
お兄ちゃんがフォガスさんをジッと見つめる。そして静かに頷いた。




