104話 ここは危険だから……
夕ごはんを食べ、家族でゆっくり過ごしていると、フォガスさんの仲間である護衛騎士のフォンさんがやって来た。
「申し訳ありません」
そして、なぜか私たちの前まで来ると土下座をした。
『おぉ~、土下座だ。俺、ドラマの中での土下座は見た事があるけど、本気の土下座は初めて見た』
ユウが興味津々に、フォンさんの周りをくるくる回る。それをチラッと見たあと、フォンさんを連れてきたフォガスさんに視線を向けると、彼は神妙な表情をしていた。
「えっと、何が申し訳ないのでしょうか?」
お父さんが困惑した表情でフォンさんを見る。フォンさんは、真剣な表情でお父さんを見つめると、もう一度頭を下げた。
「今、教会には敵がいます。その敵に、リーナ殿の存在がばれたようです。大切なお嬢様を危険にさらしてしまい、申し訳ありません」
フォンさんの説明に、数日前の事を思い出す。
朝、起きたらユウが窓の外を真剣な表情で見つめていた。その雰囲気がいつものユウと違ったため、少し不安になってユウを呼ぶと、ユウが真剣な表情で私を見た。
そして、「ここ数日、同じ人がこの辺りを散歩している。最初は特に気にしていなかったけど、どうもこの家を観察しているように見える。これはフォガスたちに話したほうがいいかもしれない」と、真剣な表情で私に言った。
ユウの話を聞いて、私は窓の外をそっと見たけどすでに誰もいなかった。でも、ユウが嘘をつくはずがないので、学校まで護衛してくれているフォガスさんにユウから聞いた内容を話した。フォガスさんはすぐに調べてくれて、散歩していた人以外に、複数の不審者が私の家の周りにいる事がわかったのだ。
見つかった不審者が、あの後、どうなったのかは知らない。私が知らなくてもいい事だと思ったから、聞いていない。
「それは、数日前に見つかった不審者たちの事ですか?」
「はい、そうです」
お父さんの質問に、フォンさんが神妙な表情で頷く。
「そうですか」
フォンさんの様子から、お父さんが心配そうに私を見る。
「リーナは、これからも狙われる可能性があるのでしょうか?」
お母さんがソファに座っている私の隣に来ると、私の手をギュッと握りフォンさんに聞いた。
「正直に申しますと、わかりません。ですが、狙われる可能性が高いと思います」
フォンさんはそう言うと、少し考えこむ。そして、お父さんとお母さんに視線を向け、「内密にお願いします」と前置きしたあと、教会で起こっている出来事について話を始めた。内容を聞いたお父さんは、真っ青な表情で私を見た。
「魔王を崇拝する異端者がリーナを、そんな……」
『魔王に聖女! やった~、これが俺の求めていた、あっ、いや、リーナ。えっと、リーナが狙われているんだから、駄目だよな。うん駄目だ』
魔王と聖女の話になった瞬間、ユウが騒ぎ始める。それを冷めた目で見ていると、ユウが私の視線に気づき慌てだした。
こぼれそうになるため息を飲み込むと、フォンさんを見た。
「私の居場所がばれているなら、ここは危険ですよね?」
私の問いに、フォンさんが神妙な表情で頷く。
「はい。危険です」
「リーナ」
お母さんとは反対側に座っていたお兄ちゃんが、心配そうな表情で私の手を握る。
「私はどうしたらいいですか?」
フォンさんに聞くと、彼は申し訳なさそうな表情をした。
「すぐにランカ村を出たほうがいいでしょう。また、どこに異端者が潜んでいるのかわかりませんので、一か所に落ち着くのは危険だと思います」
フォンさんの説明に頷くと、少し考える。
「旅をするという事ですか?」
「危険を減らすためには、それがいいと思います」
フォンさんを見ると、真剣な表情で私を見ていた。
「わかりました。ただ、お母さんは今、新しい命を授かっています。だから、お母さんには旅は無理です。私が家族から離れれば、家族は安全になりますか?」
「「「リーナ!」」」
私の話を聞いていたお父さんたちが、驚いた様子で声を上げる。
「今のお母さんに、旅は駄目だよ」
「それは……」
お母さんは言葉を詰まらせると、大切そうにお腹に手を当てる。
「ご家族もランカ村からは移動したほうがいいと思います。それと、リーナ殿が離れる事で、知られているだろう家族構成が変わりますので、敵を欺くのにいいと思います。ただ、名前も髪色も変えていただく事になりますが……」
『名前と髪色を変えるのか……。まぁ、安全のためだと思えば、仕方ないよな』
ユウの呟きに頷くと、私はお父さんとお母さんに視線を向ける。
「ちょっとだけ離れて暮らす事になるみたいだね」
「リーナ」
私の言葉に、お父さんが苦しそうな表情で私を見る。
「お父さん、お母さん。俺もリーナと一緒に旅をするよ」
「えっ!」
『おぉ~、さすがシスコン』
お兄ちゃんの言葉に驚いて視線を向けると、お兄ちゃんは私を見て微笑んだ。
「かわいい妹を一人にするわけにはいかない。フォンさん、俺も一緒でいいですか?」
「えっと、それは……」
問われたフォンさんは、困った表情でお父さんに視線を向けた。
お父さんは、お兄ちゃんをじっと見ると、小さく息を吐き出した。
「そうだな。アグスが一緒のほうが安心できそうだ」
「リグス……」
お母さんがお父さんを呼ぶと、お父さんはお母さんに笑って頷いた。
「リーナ一人より、アグスと一緒のほうが安心できるだろう? それに、フォガスさんやキーフェさんがしっかり守ってくれるだろうから、大丈夫だ。それに……」
お父さんはユウのほうを見る。見えていないので、少しずれているけれど。
『俺もリーナを守る戦力だと思っているみたいだな。よし、任せてくれ! 俺がリーナとアグスを守ってみせる!』
なぜかやる気になっているユウに、呆れた表情をしてしまう。
でもまぁ、不審者を見つけてくれたのはユウだから、役に立つ事はあるか。
「フォンさん、いつ出発するんですか?」
「なるべく早いほうがいいですが用意もありますので、二日後にしましょう。それまでにランカ村に入り込んでいる異端者を、なるべく排除しておきます」
『排除だって、排除。教会の護衛騎士って、フォガスでも思ったけど、けっこう怖いよな』
ユウの言葉に、冒険者ギルドで見たフォガスさんを思い出す。
確かに、怒らせたら怖いね。旅では一緒にいる時間が長くなるから、怒らせないように気を付けよう。
「旅の準備はこちらでします。リーナ殿やその家族が動けば、異端者に気づかれるかもしれませんから」
フォンさんの提案に、お父さんがフォンさんに頭を下げる。
「では、お願いします。アグスとリーナの旅の費用ですが……」
お父さんが立ち上がると、フォンさんが手を横に振る。
「いりません。今回の事は、我々の責任です。家族の引っ越し費用、そしてリーナ殿とアグス殿の旅の費用はすべて協会が出します」
フォンさんの言葉に、お父さんとお母さんが顔を見合わせる。
「それでは、旅の費用はよろしくお願いします。アグスとリーナには、お小遣いを渡します。それはいいですよね?」
「はい、それはもちろん大丈夫です」
フォンさんの許可が下りると、お父さんがほっとした表情をした。
「明日、学校へ行っていいですか? あと、親友が二人いるんですけど、彼らにだけは話したいです」
お兄ちゃんがフォンさんに聞くと、フォンさんは少し迷う表情をした。
「フォン。アグス殿が言う親友は、アルテト司教に手紙を届けた二人の事だ。彼らなら大丈夫だろう」
フォガスさんの説明に、フォンさんがはっとした表情をする。
「彼らなら、大丈夫でしょうからいいですよ」
フォンさんの言葉に、お兄ちゃんは嬉しそうに笑って頷いた。
「私を殺したユーレイ」を読んでいただきありがとうございます。
更新再開が遅くなってすみません。
本日より、第4章を始めます。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
ほのぼのる500




