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デザイナーズ  作者: やなぎ
第2章 過去の清算
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Film.034 サイトシーイング

 


 デイヴィッドとリネラ リーバスタビオが冒険者ギルドを去ってから、冒険者ギルドは先ほどまでの静けさとは一変して人々のささやき声や動揺した声色で一気に喧騒へと変わった。


「一体何者だあいつ?」

「おいおいどうした? なにがあった?」

「フェクタリーナが獣人種(ビーストシー)のメイドの主人に絡んだんだ。そしたらフェクタリーナの野郎、その主人にブッ飛ばされやがったんだ。瞬殺だぜ瞬殺!」

「マジか! ザマァねぇなあの差別主義者、ここ最近でサイコーのニュースだぜ」

「しかもその主人ってのはこんくらいのガキだったんだ」

「ハァ⁈ 嘘だろ⁈ フェクタリーナは腐ってもDクラスだぜ? いくらなんでも子供に負けるわけないだろ」

「それがマジなんだよ。間違いなく森艶種(エルフ)でも矮鉱種(ドワーフ)でもなく人間種(アンスロポス)の子供だ」


 そんな喧騒を横目に見ながら、レナはそれまで張り詰めていた雰囲気をようやく崩し、そして深くため息を吐いた。

 冒険者は荒くれ者の集まりだが部外者との揉め事はいつも処理に困る。今回はマシな方だ。

 レナの内心としては、今回のような騒動においてギルドの介入は早急にするべきであると考えていた。

 しかし冒険者とギルドの立場が対等であるという絶対的信条に支えられた組織体系である以上、規則で冒険者の起こす喧嘩に口出しすることができなかった。

 それに今回ばかりはレナ自身、あえて積極的な介入は控えていたのだが。

 なにせレナはエル フェクタリーナが大嫌いだったし、デイヴィッドの異常な魔力量も知っていたから。

 とは言え私情に流された行動は我ながらよくなかったなと今更ながら反省した。

 レナはひとまずデイヴィッドがあれ以上コトを荒げずに去ってことに安堵した。


 レナはギルドお抱えの武装集団、通称〝黒服〟達に、ノビているエルを回収するよう指示してから受付に戻った。

 とちょうどその時、冒険者ギルドに新たな集団が喋りながら入ってきた。


「はぁ〜、やっぱイジりすぎたかも〜……アレックスさんが」

「なんで俺だけ⁈ エマも相当イジってたから!」

「2人共反省してください。おかげで僕まで追い出されたじゃないですか……」


 エマ シーヤ、アレックス、エイシャの3人……Sランク冒険者パーティ【オーディナリー】のメンバー達だ。

 3人はこのギルドでも一目置かれる存在で、多くの冒険者が彼らに憧れを抱いている。

 レナはそういえば先日アレックスから、今日は昼から働くと言われていたことを思い出した。

 そしてもう1つ、昨夜ギルドマスターから頼まれていた伝言も。

 そんな風にレナが昨日のことを思い出しているとレナのいる受付にアレックスがやってきた。


「ハロー、レナちゃん。今日も元気?」

「アレックスさん……そうですね、今朝は絶好調って訳にはいきませんでした」


 レナのその少しくたびれた言葉が気になりアレックスは首をかしげた。


「なんかあったのか? そういやいつもより騒がしいけど、それと関係あんのか?」

「ええまぁそうですね……ケンカです」

「ケンカって、そんなのは日常茶飯事じゃん」

「内輪ならそうですけどね。フェクタリーナがお客さんにちょっかい出したんです」


 レナの話を聞きアレックスはなるほどと思った。

 冒険者ギルドとその付近では冒険者同士、もしくは冒険所とギルド職員とのケンカは毎日と言っていいほど発生する。

 それらはいずれは慣れるし始末もたやすい。だがギルド内部で冒険者が部外者に絡むと、それは途轍もなく面倒な事態になりかねない。


「で、大丈夫だったのか?」

「一応大丈夫だと思いますよ。フェクタリーナはプライドの割に臆病ですからね。もう二度とあの少年には絡まないと思いますし」

「少年?」

「あ、そうなんです。フェクタリーナをノシた相手っていうのがこれくらいの、キレイなプラチナブロンドな子供だったんです。魔力量が度肝抜くぐらいすごくて、正直アレックスさんと比べても遜色ないくらいでした」


 レナが騒動を起こした人物の外見をアレックスに教えた途端、アレックスの表情に動揺と疑惑が浮かび上がったのをレナは捉えた。

 アレックスは興奮を押し殺したような震える声でレナに訊ねた。


「その少年の名前は?」

「名前……そう言えばきいてませんでした。メイドさんにはご主人様と呼ばれていましたし、名を訊ねる前にギルドを出て行ったので。もしかして心当たりが?」

「いや、わからないなら別にいいんだ。大したことじゃないから」


 アレックスはバレバレな作り笑いをして、ビールでも飲んでくると言って二階へと上がっていった。

 レナはアレックスが一体何を思っているのかわからなかった。




 ◆




 冒険者ギルドを去ってから1時間ほど経った頃、デイヴィッドとリネラはサンタナ新市街の南よりの場所をうろついていた。


「うえぁぁあ〜……お腹減ったよぉ〜」


 突然リネラが近くのベンチに座り込みそう訴えた。デイヴィッドは呆れながらも確かに時刻は昼頃で、少し腹も空いていた。


「ダレすぎじゃん。うーん……じゃあそこにしよう。えっと、ゲイルズ・レストランってとこ。僕の経験じゃあーいう小汚い店が意外と美味いんだ」

「ご主人様外食とかこれが初めてじゃん。別にアタシはどこでもいいけど。それじゃ行こっか」


 デイヴィッドのセリフを冗談と解釈したリネラは笑いながらそう言って、しかしメシ屋などあまりこだわりのないリネラはデイヴィッドの提案を受け入れた。

 そうして2人はゲイルズ・レストランで昼食を済ませることした。


 2人は木製の扉を押して中に入った。

 店中はカウンターにテーブル席が6つ程あり清潔に保たれていた。客は多くはないが数人おり、その全てがカウンター席を使っていて、2人はテーブル席に座ることにした。

 カウンターの奥には店主と思しきダンディな白髪のオヤジが1人、くわえタバコを吹かしながら手際よく皿を洗っていた。


「ご主人様何にする?」

「僕はこの店で1番高いやつ」

「なにその選び方⁈」

「忘れてないよね? これ、リネラのおごりだから」

「あ、なるほどね……ってご主人様性格悪っ!」


 前日の賭けでリネラは何か1つデイヴィッドのお願いを聞かなければいけないことになっていた。

 しかし明らか庶民向けなレストランの値段などタカが知れている。デイヴィッドもそこのところは十分考慮しての発言で、それ程リネラに意地悪をしようとも思っていなかった。

 メニュー表によるとこの店で一番高い料理はミノタウルスのステーキだった。


「私のお金が〜……でもミノタウルスの割に100ヘズは安いかも」


 今更な話だがこの国の貨幣表記はヘズと言い1ヘズが円で言えば約10円と同じくらいだ。

 1ヘズは鉄貨。

 10ヘズは混銅貨。

 20ヘズは青銅貨。

 100ヘズは銀貨。

 500ヘズは金貨。

 1000ヘズは大金貨。

 5000ヘズはミスリル貨。

 硬貨は共和帝国造貨局の紋章が描かれていて

 、魔法の保護下にあり偽装不可になっている。


 それでミノタウルスステーキの100ヘズはつまり円で言えば1000円程度。ミノタウルスが野生にしか存在しない魔物で高級肉であることを考慮すれすれば確かに安い方だった。


「まぁウチは安さと量が売りだからなぁ。味も悪くはねぇと自負してる。で、そっちのねーちゃんは決まったかぁ?」


 そんな話をしていると落ち着いた深みのある声が横から聞こえた。

 振り向くと店主がカウンターの作業をやめてお冷やを手に持っていた。


「アタシはフライドポテトとフィッシュサンドちょうだーい!」

「了解だぁ。それにしてもあんたらみねぇ顔だが、観光かぁ?」


 店主はお冷やをテーブルに置きながら注文を聞き、ちょっとした雑談のようにそう訊いてきた。

 観光といえば確かにそうだ。

 街を見て回りたいというのが今回の目的だからだ。


「そだよ。オジさんなんかオススメの場所とかない?」

「俺はオジさんじゃねぇ、まだ40半ばだぁ。ゲイルと呼びなぁ」

「それまぎれもないオジさんだよ!」


 ゲイルのお決まりなセリフにリネラが的確なツッコミを入れる。

 ゲイルはリネラのツッコミに納得がいっていないようだが観光地について教えてくれた。


「そうだなぁ……この街と言えばやっぱり鳳龍の大宮殿が一番有名だが、あんたらじゃ当然中には入れねぇしなぁ。まぁそれでも入り口だけでもあれは見る価値あるぜぇ。建築芸術に詳しいわけじゃねぇがアレは見応えがある」


 デイヴィッドとリネラは鳳龍の大宮殿の名が出た瞬間ギクリとしたがゲイルは気づかなかったようだ。

 ゲイルのオススメは仕方のないことだが2人にとっては的外れだった。

 その入り口のあるダンジョンは2人の家なのだから。玄関を知らない住人はいない。とは言えデイヴィッドも直接見たのは今朝が初めてだったが。


「実はそれはもう見たんだよね。他には何かない?」

「なんだそうなのかぁ。それじゃあそうだなぁ……あぁ、1つあるぜぇ。ここから東に行った鐘楼からみる景色は絶景だぜぇ。あまり知られてねぇがなぁ」


 この世界で時計を持つ一般家庭はほとんど存在しない。

 そのかわり朝の6時から夜の6時まで2時間ごとに鐘を鳴らし、町の人々はそこからおおよその時間を判断している。

 また鐘楼は戦争下や魔物が攻めてきたときなど、民衆に危険を伝える警告として鳴らされることもある。

 それはともかくとして、その鐘楼自体は出入り自由で、最上階である鐘の設置された場所の1つ下の階までは登ることができる。

 そこの高さは30メートル程ありサンタナを一望できる。


「へー、それ行きたい。リネラは?」

「私も行ったことないなー。それじゃあこの後はその鐘楼に行こっか!」


 デイヴィッドは勿論、リネラも1度も行ったことがなかったため、2人は鐘楼に行くことにした。


「まぁこの街はでかいからなぁ、普通に歩いてても飽きることはねぇと思うが、なにはともあれいい観光になることを祈っとくぜぇ」


 そう言うとゲイルはカウンターの方へと向かっていって厨房で2人がオーダーした料理を作りだした。

 デイヴィッド達が料理が出てくるのを待っていると新たな客が入ってきた。

 冒険者らしい恰好の2人組でデイヴィッド達の近くのテーブルに座って、それ故2人の会話が聞こえてきた。2人組は先程仕事を終えてきたらしく、本日の成果について語り合っていた。


「いやー、それにしても今日のゴブリンはやたらに多かったな」

「あぁ、ゴブリンなんてのは多けりゃ多いほど金になるが、あの群の数は異常だぜ。さすがに疲れた」


 サンタナ新市街は元々イール大森林を開拓してつくった街だ。そのため街の東の方にはイール大森林の名残である小さな森がある。

 冒険者の多くは鳳龍の大宮殿が目当てだがなかには森林で狩りをするものもいる。

 この2人は恐らく森林でゴブリン狩りをした帰りなのだろう。

 ゴブリンは群を作る小鬼で個々の力はそれ程なく集団でなければさして脅威にはなりえない。

 だからゴブリンを狩るのは冒険者にとって小遣い稼ぎみたいなものだ。


「待たせたなぁ。ステーキとフライドポテトにフィッシュサンドだぁ」


 デイヴィッドが2人組の会話に意識を向けているとゲイルズがやってきた。


「うわ、旨そ。いっただきまーす」


 ステーキは実際美味しかった。大味だが素材の良さをうまく引き出している。

 最終的に量が多すぎてリネラと分けながら食べきった。

 腹が満たされた2人はしばらく駄弁ってから店を出た。

 そして2人は鐘楼へと向かって歩き出した。

 道中の話題は先ほどの冒険者の会話になった。


「最近よく聞くねー、魔物が増えたって話し。おかげで食べ物なんか軒並み高くなって大変だよー」


 リネラがやれやれと頭を振ってため息を吐いた。


「ゴブリンだけじゃないんだ。原因とかってわかるの?」

「うーん……少なくともアタシが知ってる範囲じゃ原因不明ってなってたかな。それに増えてるってのも冒険者たちの感覚でしかなくて、実際調査とかしたわけじゃないらしいし、確実なことは何にもわかってないんじゃない?」


 サンタナの新市街は元々魔物の多くいたイール大森林を切り拓いて作った街だ。

 デイヴィッドは自分たちの住んでいた森を奪われた復讐なのではないか、などと想像を膨らましていた。

 と、そんな妄想をしていると道がにわかに賑やかになった。


「あ、(いち)に入っちゃった。ここヒトが多くて大変なんだよねー」


 リネラがしまったという風に声を上げた。

 そこは他の道より数倍広いが屋台とヒトで混み合っていた。


「いいじゃん面白そうだし。早く行こうよ」


 しかしデイヴィッドは賑わいを見せるこの場所に心を躍らせ興奮気味にリネラの手を引き市へと入っていった。屋台には様々な料理や手芸品、骨董などが売られていた。

 デイヴィッドは手当たり次第に屋台を覗いては次の屋台を見て回った。

 そうしながら歩き進め10分が経過した頃……デイヴィッドは迷子になっていた。


「やっちった……」


 人ごみに流されリネラとはぐれてしまったデイヴィッドはどうしようかと思案を巡らせ、最終的にこのひとごみでは見つけることは無理だろうと判断し、目的地の鐘楼に行くことにした。

 幸い現在のデイヴィッドがいる場所からも悠然と伸びる鐘楼は確認できた。

 鐘楼で待っていればきっとリネラも来るだろうと思いデイヴィッドは鐘楼へと向かって歩き出した。


 鐘楼にはすぐに着いた。鐘楼の根元までやってくるとヒトはほとんどいなくなり、さっきまでいた市とは対照的だった。

 デイヴィッドはリネラを鐘楼の上で待つことにした。

 頂上へは鐘楼の内側に螺旋階段があり、階段を登り続けること5分、ようやく頂上に辿りたくことができた。


「づ、疲れだ〜!」


 デイヴィッドは登りきった直後床に突っ伏した。数百段もの階段を登り続ければ当然体力はなくなり、デイヴィッドは荒い呼吸を整えようとした。


「君、大丈夫かい?」


 すると不意に声をかけられた。見ると誰もいないと思っていたこの場所には先客がいたらしい。

 縦横20メートル程の展望台。古風な装飾が施された8つの柱の隙間からはサンタナの風景がまるで絵画のように納められ、その手前でデイヴィッドの顔を覗き込むのは男だった。


 歳は30後半に見える。長身で筋肉質。彫りが深く無精髭をはやし瞳の色は石灰のような灰色。ウェーブした長い黒髪を乱雑に後ろでくくり、服は軍人風の機能的なものだった。


「だ、だいじょ………ぶ、休めば、なおります」


 デイヴィッドは深呼吸で息を整えると立ち上がり、改めて男と対峙した。


「大丈夫かい?」

「はい、ありがとうございます……えっと……」

「ルーゼンドット。僕はエクスリヤード ルーゼンドットだ。気にしなくていいよ。ここの階段ってやたら長いよね」


 エクスリヤード ルーゼンドットの口調は外見や歳の割に柔らかく、デイヴィッドのエクスリヤードに対する第一印象はいいものだった。


「エクスリヤードさんはいつもここに?」

「敬語じゃなくていいよ。ここにはたまに来る。ヒトの英知の結晶が一望できるのはなかなか楽しいしね」


 眼下の景色を眺めながらそう語るエクスリヤードの表情はどこか愁いを纏う旅人のようだった。


「確かに、これを全部ヒトが作ったって考えるとすごいかも」


 デイヴィッドも展望台から見えるサンタナの街並みを眺め、感嘆の声をだす。


「そういえば君はどうしてここに──……」

「ああーっ! やっと見つけたー‼︎」


 エクスリヤードがふとデイヴィッドに質問をしようとした時、背後から突然大声が聞こえ、振り返れば肩で息をするリネラが立ってデイヴィッドを指差していた。


「あ、リネラ。お疲れ〜ってかゴメン……大丈夫?」


 デイヴィッドの言葉にリネラは怒りとも呆れともつかない息を吐き、しかしその後安堵の笑みを浮かべた。


「まーいっか。迷子は仕方ないしね、デイヴィ……えーとご主人様はまだ6歳だし。ところでそこのお隣さんは誰……って──……そん、な……」


 リネラの言葉は途中、デイヴィッドの隣のルーゼンドットの存在に気付き、ルーゼンドットの顔を確認した瞬間、しりすぼみに消えていった。

 刹那、リネラの表情から笑みがストンと抜け落ちた。


 デイヴィッドはこれほどまでにキレている(・・・・・)リネラを見たことがなかった。

 リネラは威嚇する猫のようにキツネ耳と尻尾の毛を逆立て、歯を剥き出し男を睨みつけ、そして声を荒げて叫んだ。


「──っなんであんたがここにいる! 答えろルーゼンドット‼︎」




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