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デザイナーズ  作者: やなぎ
第1章 激動の兆し
22/35

Film.022 デンジャー

 


──4日前 鳳龍の大宮殿、141階層──



 デイヴィッドは気怠げな足取りで自分の部屋に向かい、部屋に入ると即効ベットに飛び込み大きく息を吐いた。


「っはぁ〜、疲れた……カリハリアスのヤツ、ホント余計なことしてくれるよな」


 機械種(エクスマキナ)を生み出す機械種(エクスマキナ)である技師械(エンジニア)、その失敗作。カリハリアスの正体はそれだ。

 理性がなくダンジョンマスターである【鳳龍】オリンクルシャの命令さえも聞きいれない。


 技師械(エンジニア)が創る機械種(エクスマキナ)には何百分の1程度の確率でバグが発生し、大抵は機能せずに動かない、というバグなのだがごく稀に今回のような理性が欠如しているにもかかわらず強力な力を持ったバグができる。

 そのごく稀がカリハリアスでオリンクルシャが50階層に監禁していた。


 4歳になって半年したあたりからデイヴィッドはダンジョンに潜るようになっていた。

 だからデイヴィッドはこの半年で体力も魔力も順調に成長し、今ではそこらにいる大人の冒険者よりも強い自信があった。

 ただそれは魔法やスタミナ限定の話で、格闘技や剣術などの戦闘術は覚えておらず全くの素人だ。

 だから魔法がなければデイヴィッドは戦闘の心得をもつ冒険者には瞬殺される。

 それでも日々の筋トレのおかげで体力や筋力は一般と比べて多くあった。

 動体視力も人並み以上に鍛えており、カリハリアスのスピードを目で捉えることはできた。


 ちなみにカリハリアスのスピードが最初の頃ならデイヴィッドでさえ近接戦闘で圧倒することはできた。

 ただし理性がなく、身体がオーバーヒートすることを躊躇しないカリハリアスは限界を超えて速くなる。

 寿命を削ることをいとわず目の前の敵を殺そうとするから【オーディナリー】が疑問に思っていたように加速度的に速くなるのだ。

 デイヴィッドがカリハリアスに勝てた勝因の1つが、カリハリアスの力の秘密を知っており、速攻でカタをつけたことがある。


 それにデイヴィッドは魔法が得意とは言ってもカリハリアスの鱗に使われてる翠銀とロンズデーライトの合金を貫けるような威力の魔法はまだ使えなかった。

 高威力の魔法は身体が成長しきっていなければもたないのだ。

 だからデイヴィッドが高威力魔法を使う場合、今回のようにナギサに頼らなければならなず、そのこと自体は悪くないのだがデイヴィッドにとってナギサとのコンビネーションはいわば奥の手。あまり使いたくなかった。

 そういう訳がありデイヴィッドは今のところ、質より数の戦法をとっていた。

 魔力量だけならば無駄に多くあるので、将来的には先刻の戦いで使用した魔法を広範囲に使用しエターナルフォースブリザードの使い手にでもなろうとデイヴィッドは考えていた。


 ちなみにデイヴィッドとナギサはこの数年でかなり仲良くなっていた。

 大袈裟でなくいつでもどこでも一緒なのだから必然と言えば必然なのだが。

 今もデイヴィッドの胸ポケットに入り込みスヤスヤと寝息を立てて眠っている。


 本来精霊種(エレメンタル)は眠る必要などないのだが、必要ないだけでナギサは昼寝も合わせて1日12時間は眠っていた。

 もちろんデイヴィッドよりも寝ている時間は長く、本人曰く趣味が寝ること。

 正確には夢を見るのが楽しいのだとか。


 だから眠気は常々あまりなく、逆に目覚めはデイヴィッドより早い。それこそデイヴィッドを毎朝起こす程に。

 だから常に寝てばかりいるイメージのナギサだが、カリハリアスとの戦闘のようにいざという時はたのもしい。


 先述のとおりデイヴィッドがダンジョンに潜りだしたのは4歳半の時。理由は単純に暇だったから。

 異世界転生に付き物のかわいい幼馴染もいないければ、そもそも【鳳龍】オリンクルシャにリネラ リーバスタビオ、シグレナリア フォー……ついでにミルド カリリス以外との交流さえ存在しないこの場所に、4年半もいれば暇になるだろう。

 ナギサは寝てることも多いし、友達であるミルドは基本的に仕事で鳳龍の大宮殿にいない。

 そういう訳でデイヴィッドは修行ついでにとアスレチック感覚でダンジョンに潜ることにしたのだ。

 オリンクルシャもリネラと一緒ならばという条件付きですんなり許可した。


 話は戻りデイヴィッドにおこった今日のいいこととは、ずばりデイヴィッドに新たな友達ができたことだった。

 デイヴィッドはベッドの中で感激していた。脱ボッチの喜びをかみしめていた。

 元々リネラやシグレナリアがいるためボッチというのも語弊はあるが、リネラ達はどちらかといえば家族の部類に入っていた。


 デイヴィッドは最初に【オーディナリー】も出逢った時、もちろん不安だった。

 この世界で外のヒトと触れ合ったことなど1度もなかったのだから。

 しかしだからこそ初めてのヒトにテンションも上がるワケで、デイヴィッドは当然話しかけた。

 初めてではあったがどうにかなるだろうという漠然とした確信がデイヴィッドにはあった。


 ただしエイシャがいたのが誤算だった。

 森艶種(エルフ)のエイシャには精霊種(エレメンタル)が見えた。

 だからデイヴィッドにも明らかなくらい、エイシャはナギサを見て不審がっていた。

 人間種(アンスロポス)のデイヴィッドに精霊種(エレメンタル)がくっついて回ってたら不審がるのは当たり前だ。

 ただデイヴィッド自身でも不審に思われるところは結構あったとは思っていたしそれらを考慮すればナギサの件は些細に思われた。


 そしてデイヴィッドには負い目があった。

 デイヴィッドはダンジョン側で、【オーディナリー】は冒険者だ。

 その立ち位置にある以上避けられないことも出てくるだろう。

 今回はお互いにノータッチだったが次からどうなるのか、それはデイヴィッドにもわからなかった。

 もう既に【オーディナリー】は当たらずとも遠からずな仮説を思い浮かべているはずだろう。

 だからデイヴィッドは、ミーシャの最後の質問に対する答えがアレで良かったのかは自分でもよく分からなかった。


 『君にとって、私達は一体どういう存在なのだ?』


 ミーシャの声が脳内でこだました。

 その質問の真意はなんだったのか。

 私達とは一体誰を指していたのか。

 【オーディナリー】のことなのか、もしくは冒険者という存在そのものなのか。

 そんなふうに考えて、デイヴィッドは嬉しい出来事を思い返してたはずが段々と思考が暗い方へと向かっていることに気が付きやめた。

 大切なのは結果で、【オーディナリー】のメンバーと友達になれたということだけなのだ。


 そう思考を締めくくり眠ろうとした時、ナギサがデイヴィッドに対して警告を発した。


『ハッ! ご主人さまご主人さま、キケンがせまってるの、逃げるべきなの』

「ん? 何が危険なん──」


 デイヴィッドは言葉を最後まで言い切れなかった。

 その前にガチャリと言う音をたてて部屋の扉が開いたからだ。


「あらあらあら、デヴィくん。戻ってたのね。良かったわ」


 そこにいたのは、一見優しさに満ちた微笑みを浮かべているオリンクルシャだった。

 しかしその隠そうともしない憤怒のオーラが、慈愛の女神さながらのアルカイックスマイルも台無しにしていた。


「え、ああうん……ただいま母さ……ママ」


 デイヴィッドは何事もないように振舞おうとしたが顔が引きつっていた。

 オリンクルシャは表情を変えずに答えた。


「ふふふ、おかえりなさい。それはそうとデヴィくん。ママと約束したよね? ダンジョンに出るのはリネラと一緒じゃないといけない、って」

「う、うん……言ってたような、いてなかったような……」

「確実に、明確に伝えたわ。一昨日からリネラもシグレナリアもいないのに、なんでダンジョンに潜ったのかしら?」


 ジリジリと距離を詰めながら問いかけるオリンクルシャに気圧されて、後ずさりながらもデイヴィッドは必死に頭を回転させて言い訳を考えた。

 正直こんなキレらるとは思っていなかった。

 何故かと言われればつい、いつもの調子でいっちった♪ なのだが、どうもそんな軽いノリが通じる様子ではなかった。


「それは、その〜あれ……」

「それに──」


 なんとか言い訳を絞り出そうとして声を出すが、結局デイヴィッドが最後まで言う前にオリンクルシャがデイヴィッドの言葉を遮った。

 オリンクルシャの表情は先程までの仮面のような微笑みは崩れ、驚いたことに目に涙を浮かべてワナワナと震えていた。


「カリハリアスと戦ってたでしょ! 他ならいざとなればママが止めれたでしょうけど、カリハリアスは別なのよ⁈ もしかしたら怪我してたかも! 本当に……本当に心配してたのよ?」


 デイヴィッドにしがみつき泣きじゃくるオリンクルシャを見ながら、デイヴィッドはフリーズした頭を徐々に動かしていった。

 それと同時に、胸を突き刺す罪悪感が増えていった。


「……ごめんなさい」


 デイヴィッドはもう素直に謝るしかなかった。

 それを聞いたオリンクルシャはしばらくして泣き止み、鼻をすすると少し睨みながらデイヴィッドに訊ねた。


「本当に分かったの?」

「うん。約束破ってごめん」


 デイヴィッドの答えを聞くと、オリンクルシャはようやくいつもの優しい微笑みを浮かべて突然デイヴィッドを抱きしめた。

 デイヴィッドは一瞬驚いたけど、気恥ずかしさを感じながらもオリンクルシャを受けとめた。




 ◆




──北サントメリア、ダラの街──



 灰色雲が空を覆い、昼間だというのにどんより暗いとある街中。

 吹雪く雪が建物全体を叩くこの街はレンガ造りの建物が多く、その〝オラクル〟という文字が刻まれた看板を掲げるパブも、町並みと同じ色のレンガで建てられていた。

 凍える外とは正反対に暖炉と魔導具(ベクベェーム)の温もりが満ち満ちる店内。

 しかし客は少なく、カウンターで酔いつぶれた男が1人とテーブル席に座るカップル2人組のみ。


 そんなさびれた店内を眺めながら、モネク ウリンフィリィーは退屈をしのぐためだけにグラスジョッキを磨いていた。

 モネクはこのパブのオーナーの1人娘で、母親を幼い頃に肺炎で亡くし、以来父親と2人で店を経営していた。

 しかし数年前に父親がヒザを悪くしたため、今は実質モネク1人での経営だった。

 けれどだからと言って大変かというとそうでもなく、客の多い日でも店の席が全て埋まることはなかった。

 ただ、それにしても今日は客が一際少なかった。この吹雪のせいで誰も外に出たがらないのだ。


 この国はいわゆる雪国だが、年中吹雪いているわけでも雪が積もっているわけでもない。

 夏は雪は一欠片だって残っていないし春秋だって雪が降るのは数日だけ。

 モネクは冬のこの季節が嫌いではなかった。

 確かに凍てつく寒さと雪かきは面倒ではあるものの、所狭しと並ぶ赤レンガの家々と一面に積もった白雪のコントラスト、それに晴れた日の澄み切った夜空に浮かぶ星々を見つめていると、どうしても嫌いにはなれなかったのだ。

 カランカランと鈴の音が鳴り扉が開いた。

 一瞬の間に入り込んだ冷気がモネクのボーッとした思考を現実に引き戻す。

 モネクは新たな客に弾む心を抑えながら客の人相を確認した。


「うっひゃ〜! 寒かったー! 生き返る〜‼︎」

「う、うぅぅ……防寒魔法付きのコート、壊れてたのかなぁ? ……こ、これ高かったのに……」

「ミルド、言いづらかったのですがそれはただのコートです。商人に騙されたのでしょう」

「え⁈ そ、そんなぁ」

「プッ、アハ、アヒヒヒッ! ミーくんダサすぎ!」


 賑やかなその集団はリネラとシグレナリア、それにミルドの3人。サントメリア語ではなくセレスナ語を話しているところから、3人がセレスナか、もしくはそれら周辺国出身であるとモネクは判断した。

 セレスナ語はここ北サントメリアでも話せるものが多く、モネクもその1人だった。

 3人はカウンター近くのテーブルに腰掛けるとしばらくてモネクを呼んだ。


「すみませーん、ここのオススメってなんですか?」

「そうですね……シュバルツビールってのがここの特産ですね。黒くてアロマの、下面発酵(ラガー)で製造したヤツです。あとはコカトリスの焼き鳥が人気ですね」

「じゃそのビール3つとアタシはハツ10本で!」

「私は皮を5本お願いします」

「あ、ぼ、僕も皮を……2本ください」

「塩とタレがありますけどどっちになさいますか?」

「アタシは両方半々!」

「タレ1択です」

「えぇっと、じゃ、じゃあ僕は塩……」

「かしこまりました、少々お待ちくださいね」


 モネクはオーダーをとるとまずは散々磨いて綺麗にしたジョッキにシュバルツビールを入れて3人に届けた。

 それに合わせるようにしてカップル2人が店から出て行った。

 店がまた少し寂しくなったなと思いながらモネクは焼き鳥を作りに厨房へと入っていく。


 その後すぐにジョッキを合わせる音がしたと思うと話し声が聞こえてきた。

 さっきまでのカップル2人と違い、賑やかな3人の話し声を聞いているとモネクの口元は自然と緩んだ。

 モネクは尊敬する父親が経営していたこの店が好きで、そして誇りに思っていた。

 その店がワイワイとするとやはりモネクは嬉しいのだ。

 モネクが出来上がった焼き鳥を3人に届けにいった。


「お待たせしました。コカトリスの焼き鳥、ハツ10本で塩タレ5本ずつ、皮はタレが5本で塩が2本ですね」

「あの、すみません。お尋ねしたいことがあるのですが」


 モネクが皿をテーブルに載せているシグレナリアが呼び止めた。


「はい、なんでしょうか?」

「この近くのことで。なにぶん南の方から来たので地理に疎いのです。道を尋ねたいのですが……」


 モネクはその頼みに別段なにも感じなかった。

 モネクの住むこのダラの街を東に進んでいくと行くと北サントメリアの首都に着く。

 ダラの街は首都を目指す海外の冒険者や観光客の駅伝の役割を果たしていて、南と西からの客に道を教える機会は少なくなかった。


 かくしてモネクはいつもの通り快諾(かいだく)し、首都への道のりを説明しようとしたが、次に発せられたリネラの言葉はモネクの予想外だった。


「アタシ達さ、こっから北にある魔界に行きたいんだけど……行き方わかる?」


 瞬間、隙間風が入ったわけでもないのにモネクの背筋に寒気が走った。


 〝魔界〟──……それは人類にとって過酷な環境や、強力で多種多様な魔物が数多く住む土地の総称。

 その多くは謎に包まれているも様々な伝承で語られている。

 曰く、魔界に入ったモノが生きて戻ることはない。

 曰く、魔界の魔物は残虐であり、生きたまま四肢をもがれ腸を掻き出され顔を貪り食われる。

 曰く、魔界から迷い出た1匹の魔物により小国が1つ消滅した……などなど。

 もちろん噂に尾ひれのついたフィッシュストーリーも多くはあるが魔界はあらゆる童話や小説で人類のアンタッチャブルとして描かれており、多くの人々が魔界に恐怖心を抱いていた。


「ま、魔界なんかにいったい何故行きたがるんですか?」


 モネクの恐る恐るした質問にリネラは焼き鳥をほおばりながらなにごともないふうにこたえた。


「いや魔界に行きたいわけじゃないんだよ。ただ魔王にちょっと用事があってさー」


 リネラの回答に最早モネクは卒倒しそうになった。


 謎に包まれた魔界だが、その中で確実な事実が1つ存在した。

 それは4つある魔界全てに、魔界全土を治める国が存在し、その国家にはそれぞれ絶対的君主の魔王が君臨しているということ。


「ムムムム、無理ですよ! というかやめるべきですよ‼︎ お客さん達、ここより北にある魔界がどこなのか知ってるんですか⁈」


 慌てふためいて3人の愚行をとめようとするモネクにシグレナリアが落ち着き払った態度で答えた。


「もちろん知ってます。北の地の魔界、〝ニヴルヘイム〟……君臨するのは吸血種(ヴァンピール)のヴァローチェ カタレプシー、通称【北夜の魔王】」




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