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選択枝① 戻った場合

布団の中で目が覚めた。見慣れているはずの、部屋の天井。首を左に向けるとガラス窓があり、右に向けると目覚まし時計がある。時刻は六時二十五分。セットした時間の五分前だ。これから二度寝すると遅刻しそうなので起きることにした。

 パジャマを脱いで制服に袖を通す。

 何か違和感があった。いつもきてる服って、こんな感じだっけ?

 それにすごい夢を見ていた気がする。でも覚えてない。すごく大事な夢だった気がするんだけど、わからない。

「おにーちゃーん。そろそろ降りてきてご飯食べないと、遅刻するよ?」

呉羽が僕を呼ぶ声が聞こえた。昨日も聞いたはずの声がすごく懐かしく聞こえる。

 下の食堂へ下りると、お父さん、お母さん、呉羽はすでに席についていた。お父さんは新聞を読みながら味噌汁を啜り、お母さんは下りてきた僕のためにご飯をよそい、呉羽はご飯に手をつけずに僕が下りてくるのを待っている。

 昨日も一昨日も繰り返されたはずの、当たり前の光景。

 でもなんだかひどく懐かしく思えて、気がつくと目元に少し涙が滲んでいた。

「どーしたの、おにーちゃん?」

「花粉かな……」

 僕は袖で涙をぬぐう。

「なにかあったの?」

 お母さんはご飯をつぐ手を止めて僕の顔を覗き込んでくるけど、僕は適当にごまかした。

でも後で絶対追及されるだろうな。もっと上手い言い訳考えておかないと……

学校へ行く途中、タバコを吸う人のライターの火を見ると、何かが引っかかった。だけどそれが何かは思い出せない。

 体育は剣道の授業だった。妙に調子が良くて、剣道部部長からも一本とった。

 でも一番の変化は、なぜか妙に落ち着いていることだ。部長と対峙しても怖くもなんともなかった。今までは、強面の人とか武道・格闘技をやってる人を前にするとビビってたのに。今日は、全然怖くなかった。それどころか竹刀がひどく物足りない気がした。 

 自分が別人になったような日だった。

 でもとても大事な誰かのことを、忘れている気がした。


―グレーテル視点・2―

ギルドの訓練場にトーマスが一人でしりもちをついて、不思議そうに自分を取り囲むように立つギルドメンバーを見渡している。愛用の趣味の悪い金ぴかの槍を手にして、泥まみれになっており、まるでトーマスと誰かが試合をしていたようだ。

でも相手もいないし、きっと一人で練習していたのだろう。派手好きで、誰かの注目を浴びたがるトーマスにしては珍しい。

 私に絡んでくるかと思ったら、そのまま逃げるように訓練場を後にした。なかなか抜けきらない恐怖が残っているような、怯えきった目だった。強い相手と戦った後の状態に似ている。

 でもトーマスはDランクのベテランだ。あのトーマスをあそこまで怯えさせるなんて、いったい誰なのだろう?

 私と親しい人だった気がするけど、きっと気のせいだ。

 ゴブリン討伐の楽なクエストのはずが、エリート・オークと交戦する羽目になった日だし、きっと疲れているせいに違いない。

 でもエリート・オークをどうやって倒したのかが、覚えていない。私の手持ちの魔法では魔法防御力の高いエリート・オークの外皮を抜けるはずがないのに。

 とても頼もしくて、いざというときには必ず助けてくれて、でもちょっぴり頼りない。そんな男の子のことを、私は知っている気がする。


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