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確信

 さっきは二人を安心させるためにああ言ったけど、やっぱり怖い。

 一歩走るごとに、視界に映るエリート・オークの巨体が大きくなっていく。同時に、身体に浴びせかけられる殺気も鋭さを増してくる。

 エリート・オークの視線が怖くて目を反らしたくなる。目があっただけで死にそうだ。

 でも、そらさない。

 正直、逃げたい。なんで戦わなくちゃいけないんだ。

 本能が逃げろって警告を発してくる。

 意志に反して、足は後ろへ後ろへと駆け出そうとする。

 でも後ろにグレーテルとフランチェスカがいる。彼女たちの前で格好悪いところは見せられないなって、思ってしまう。

日本にいた頃はそんなことはなかった。小学校の頃、僕は女子にすらいじめられていた。なぜかわからないけれど、周囲と波長が合わなかった。周囲となじめずに浮いていた。

何気ない一言でからかわれたりした。

それがどんどんとエスカレートして、気がついたらクラス全員が僕の敵だった。

ひどい時には女子でさえ僕の顔に腐った牛乳を拭いた雑巾を置いて、その上から便所に行った後の上履きで僕の顔を踏んづけてきた。

その間に別の男子は、僕の手にトイレで使用した後の紙を無理やり握らせてきた。

中学で家から遠い私立の中学に行って、そいつらとは顔を合わせなくなった。

それがあるせいか、今でも三次元の女子は嫌いだ。

でも、グレーテルやフランチェスカにはそんな嫌悪感を抱かなかった。

 グレーテルは僕を認めてくれたからだろうか。僕をバカにした目で見ないからだろうか。僕の何気ない一言を、からかいやいじめのネタにしないからだろうか。

フランチェスカは、吊り橋効果もあるせいだろうけど、初めから僕を認めてくれた。

二人を、守りたい。心からそう思う。

 意志と意地が、弱気を上回って僕の体を突き動かしている。

 エリート・オークの間合いに入った。

 僕を見据える深紅の目からいっそう強い殺気が放たれた。腕の筋肉が隆起するのがわかる。構えた大剣が振り上げられ、エリート・オークの大剣が空から唸りを上げて迫ってきた。

「ファイアアロー!」

 ファイアアローが効かないのも、こいつが意に介さないのもわかっている。さらにこうして接近して分かった。時速二百キロは出ているファイアアローよりもエリート・オークの剣が速い。

 だがそれくらいは想定済み。だから顔めがけて放ち、ファイアアローの影に隠れた。

 ファイアアローが邪魔して、僕の体がエリート・オークから一瞬見えなくなる。

 斬るべき相手を見失った大剣は空を斬り、その下にあった地面をたたき割る。地面が粘土細工のようにたやすくかち割られて深い溝を残した。

だが大剣は地面にめり込み、エリート・オークがそれを抜くのにわずかなタイムラグがあった。さらにファイアローがエリート・オークの顔で着弾し、ダメージは与えられないものの一瞬だけ視界を奪う。

「ファイアハンド」

 その隙にエリート・オークの腕にファイアハンドを纏った拳を叩きこんだ。

 これで少しでもダメージがあればいいけど……

 だが期待とは裏腹に、拳にトラックのタイヤを殴りつけたような抵抗感が伝わってくる。エリート・オークの体は、毛の一本すら焼けていなかった。

 分厚い外皮に阻まれてダメージが全然ない。ノ―マルのオークに風穴を開けた魔法ですらダメなのか。

 本命は別にあるけど、さらにもう一歩間合いを詰めないといけない。

 でもすでにエリート・オークの二太刀目が唸りを上げて迫ってきていた。

 かわせない。それはそうだ、僕はチートでもなければ天才でもない。

 どっちかといえば運動神経が悪い方だ。

 こんな巨大なプロ格闘家のような奴の攻撃を、続けてかわせるはずがない。

 無様にのた打ち回ってる方がお似合いの、クズだ。

鉈を重ねたような分厚い刃の大剣が、目の前に迫っていた。



「……アイスジャベリン」

「シャドウ・アレスト」

 だがそれより早く氷と矢がエリート・オークの腕を狙って迫っていた。エリート・オークは氷には目もくれなかったが、矢には警戒したようで僕に向けていた大剣の軌道を変更して矢を打ち払った。

「……アイスアローズ」

 グレーテルが素早く次の魔法の詠唱を終え、第二射を放つ。十本近い氷の矢がエリート・オーク目がけて飛んでいく。

 だがエリート・オークが無造作に腕を振り回しただけで、氷の矢は当たるはしから吹き飛んでしまった。

 だが一本だけ払い切れなかったようで、残っている。

 その氷の矢はエリート・オークの残った目にむかって飛んでゆく。

 目には執事さんの矢が刺さっていた。魔法に耐性があるとはいえ、効くかもしれない。

 下から豚顔を見上げるようになっていた僕の視点から、エリート・オークの目に命中したのが見えた。

 今度は弾かれておらず、しっかりと氷の矢はエリート・オークの目に突き刺さっていた。

 よしっ!

 あのエリート・オークにひと当てしたという昂揚感。

 その隙に僕はエリート・オークの懐に潜り込む。まるでプロレスラーか相撲取りを目の前にしたかのように絶望的なほどの体格差を感じた。

 でもいける!

 この距離なら、とっておきが使える。近すぎるからエリート・オークの大剣も届かない。視力も奪っているはずだ。

 僕は両手を突き出して魔力を込めた。


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