影魔法
矢が風を切る音と共に、エリート・オークの腕の部分の影に突き刺さった。
同時にオークの大剣の動きが止まる。
何が起こったのかわからなかったけど、僕はフットワークを使って素早くその場から離れた。
自然と、フランチェスカの方へ合流しようとした。グレーテルも同じだった。
エリート・オークは足をばたつかせながらも腕が動いていない。牙のはみ出た口をぎりぎりと鳴らし、腕の筋肉を隆起させて力を込めている。僕の頭くらいありそうな力こぶがはっきりと毛の下から浮き出ていた。
「ブモオオオオ」
これまでで一番大きな鳴き声と共に、エリート・オークの腕が動いた。
同時に影に突きささっていた矢が抜ける。
エリート・オークは僕たちの方を向き直るが、今度は一気呵成に襲いかかってくることはしない。大剣を正眼に近い形で構え、じりじりと間合いを詰めてくる。
「…… 今のは?」
グレーテルはロッドを構え、油断なくエリート・オークを睨みながら呟くような声で質問した。
「わたくしの魔法は影魔法。直接攻撃に向いた系統ではないですが、見ての通り補助系統を得意としますわ」
グレーテルのアイスペイリングがまるで通じなかった相手を、数秒間とはいえ足止めしたんだ。こころなしかフランチェスカが誇らしげだ。
「でもこんなに戦えるなら、オークたちを倒せたんじゃ?」
僕がそう言った途端、グレーテルに睨まれた。
「そうですけど……急に馬車を襲った衝撃に、気が動転してしまって。爺やが目の前でやられたのも、大きかったですわ。気がつくと囲まれてしまっていて、とても矢を番える時間が無かったのですわ。 ……結局は言い訳ですけどね。あなたがたが来てくれなければ、今頃は豚相手に操を散らしていましたわ」
フランチェスカは弓をきつく握りしめて弱弱しく言った。
「……ヒロシはもう少し女子の気持ちに敏感になった方が良いと思う」
「でも、今は戦えてるじゃない」
僕は下手くそなフォローを入れた。
「吹っ切れたのですわ。それに爺やを殺されたことの怒りの方が今は大きいですわね」
青い瞳を燃え上がらせて、フランチェスカは弓を引いた。
弓を構えたグレーテルは、弓の女神アルテミスのような美しさを思わせる。わずかのブレもない完璧な構えで矢を打った。
矢はじりじりとこちらに歩み寄ってくるエリート・オークの眉間へと吸い込まれるように向かっていく。木立の間を流れる風で矢が左に流されるが、それすらも計算に入れているかのように矢は向かう。
だが蠅を払うかのように矢はエリート・オークの大剣で叩き落とされてしまった。
エリート・オークが牙の生えた口をゆがませる。
だがフランチェスカも、口元を残忍に歪ませて呪文を詠唱した。
「シャドウ・ソイル」




