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同棲

やっとグレーテルと同棲できました! 長かったです……

「でもどっちにしろ、お金稼がないとなあ……」

帰り道、僕はひとりごちた。

夕暮れの道をグレーテルと並んで歩いているので、地面に長い影が二つできている。グレーテルの顔は茜色に照らされて、銀髪とも相まって神秘的に見えた。

ああ、ここに女神が降臨なされた。

ブラック神様あらためキリが帰れる、と言ってくれたのは嬉しい。初めはびっくりしたけど正直うれしい。

 母さんや呉羽にまた会えるし、積みゲーも消化できるし、か○これも続きができる。次のイベントに備えてバケツ貯めてたからね!

 でもいつ帰れるかはわからない。その日までは食べていかないといけない。一文無しでさまよってたらキリが同情して帰してくれるとは思ってない。

 そんな甘いやつじゃなさそうだ。

「……ヒロシ、お金ない?」

 隣を歩いていたグレーテルが僕の顔を覗き込むようにしてそう聞いてきた。

 夕暮れ、上目づかい、少し縮まった距離。身体をひねるだけで揺れる、その甚大な胸部装甲。ローブの隙間からわずかに見えるだけだけど、ローブの水色が際立たせる胸の白さが素晴らしい。

 恋愛経験値ゼロの僕のライフはもうゼロよ!

「まあね…… 正直その日暮らしだったし、鎧と剣のお金を立て替えてもらえてなんとか余裕が出来たけど」

 毎日稼がないと数日で破産する。

 きっついなあ…… 日本に戻って、大学卒業したら就職活動頑張ろう。

「……名案がある」



 今僕は、女の子の香りがする部屋にいます。

「……珍しい座り方」

 そして、ベッドの上で正座してます。

 リラックスできるかー!

 元々グレーテルの一人部屋だったので、椅子が一つしかなく僕はベッドに座るしかない。

 そう。グレーテルの名案とは、僕が部屋を引き払ってグレーテルと同居することだった。部屋代が半分になるし、なにより防犯上の面からもいい。

『……パーティーメンバーが困窮してるのに放っておけない。それに同じ部屋に住めばヒロシの魔法を研究できる時間がとれる』 

 台詞後半で眼の色を変えたグレーテルがすごい勢いで迫ってきたので、僕は承諾したけれど、一つだけ気になる点がある。

「でも同じ部屋って…… 一応僕は男だよ?」

 そう。ラノベやアニメではヒロインと一つ屋根の下、なんていうのはお約束展開だけどいざ実行してみると、胸がドキドキしっぱなしで落ち着かない。

 ひょっとしたらグレーテルは男女の事情というか情事というか、そういうことをそもそも知らないんじゃないだろうか? ギルドの宿舎での、振る舞いを見てそう思ったので聞いてみたが。

「……心配ない。あなたは信頼できる」

 グレーテルは何のためらいもなく、僕の目をまっすぐに見てそう言った。

「……ギルドで、私の体をちらちら見ることはあっても、それ以上は踏み込まなかった。体の線が目立たないように上着をかけてくれた」

「……正直、嬉しかった」

 グレーテルは少しだけ口元をゆるめた。

 あれは知らないんじゃなく、試されていたのか。ヘタレでよかった。

 下手に口説いていたら、とっくに愛想を尽かされていただろう。

「でもちらちら目をやるのはいいの?」

「……それくらいはしょうがない。男子のサガ」

 グレーテルは目線をそらしながらつぶやいた。純白の頬が少しだけ赤くなっている気がする。

「……これから命を預ける相手だし」

 なんだか言い訳っぽく聞こえるのは、気のせいだろうか?

 部屋の作りは僕の宿よりもスペースが広く、簡素なタンス、木製の机と椅子が一セットずつあり、机の上に魔法書らしい本が数冊置かれていた。

 窓が南側なのか、僕の部屋よりも明るく清潔な感じがする。

 日当たりのいい部屋と悪い部屋を比べると、確かに日当たりがいい部屋が住みやすいと思った。

 日当たりが悪くて湿気が多いと何となくカビ臭くて、病気になりそうだ。あのままあの宿にいたら、病気になったかもしれない。教会で治してもらえるらしいけど、いくらするかもわからない。

「ちなみに、宿代はいくら?」

 朝食付きで一泊銀貨五枚と、僕の部屋の倍近かった。

 これじゃあ割り勘しても同じだ。

「……でもその分作りはしっかりしてる。ヒロシの部屋、たぶん雨漏りがするはず」

 雨が降ってなくてよかった。というか、冬になったらやばくないか?

「……というより、文字の読み書きができて魔法が使えるなら泊まる宿じゃない。あくまで自分の名前しか書けない戦士用、もしくはその日暮らしの人のための宿。浮いた金でバクチか娼館にでも行くつもりかと思った。でも、ヒロシはそういうのに興味ありそうな顔してなかったから……」

 安ければいいっていうものじゃないんだな。

 人からヘンな目で見られることもあるし、いい勉強になった。

「……ご飯食べに行く」

 部屋着に着替えて、グレーテルと二人で部屋を出る。

 部屋の鍵はすべて僕がいた宿よりしっかりしていて、大きくて太い。それにうっすらと光を帯びていた。

「……魔法が掛かっていて、承認者の魔力にのみ反応する」

 さすが女性が泊まる宿。防犯がしっかりしてる。

 グレーテルが鍵を差し込むと、回しもしていないのに錠が落ちる音がした。

木製の階段を下りて下の階に行く。

階段がきしむ音も前の宿よりだいぶ小さかった。

下の階にロビーと食堂があるのは同じだが、談笑しているメンバーにちらほらと女性が混じっている。ギルドで見たことのある人も何人かいた。リーリャさんはいないけど、きっともう少しいいところに泊まってるんだろう。

 カウンターの席に座る。すると、当然隣に座ることになる。

女子とは向かい合わせでしか座ったことがないけど、隣同士で座るとこんなに距離が近く感じるものなのか。

グレーテルが少し体を動かすたびに、ふわりと甘い香りが漂ってくる。さらに部屋着はローブより生地が薄くて体のラインが出やすいから、腕を動かすたびに胸の形が変形するのが横目にでもはっきりとわかる。

 むにょん。

 むにむに。

 まるで別の生き物のように動く二つのふくらみを見て、喉が鳴るのを抑えきれない。

胸の動悸が落ち着いた後、日替わりのランチを頼む。ちなみに今度はちゃんとした若い女の子のメイドさんでした。黒いスカートに肩の膨らんだ上着、白いエプロンと正統派メイドさんだ。

 顔はそこそこで、ショートカット。ジョブで言ったらシーフとかが似合いそうだ。

「……あの子も、冒険者」

 グレーテルが小さい口で黒パンをかじりながらつぶやいた。

「冒険者なのに、メイドしてるの?」

「……冒険者は危険が大きい。身の丈に合ったクエストがないときは、別の仕事をするときもある。でも元冒険者と言えば腕っ節があると認められるから、普通より給料が割高になる」

 見ると、お尻を触ろうとしたおっさんの腕をねじり上げているところだった。

「お客様、当店ではそのようなサービスはお断りしております」

「ちょっとくらいいじゃねえかよ」

 お尻を触ろうとしたはげ頭が、ぶつぶつと文句を言っている。

「お・客・様? 今度触ったら、その指切り落としますよ?」

 笑顔を浮かべたままだが、背後に般若が見える。

「サー、イエッサー!」

 はげ親父は脂汗を浮かべて敬礼した。

「それではごゆっくり食事をお楽しみください」

 その子は優雅に一礼して、別のお客に注文を取りにいった。

「この店、経営は大丈夫なのかなあ」

 他人事ながら、心配になる。暴力店とか言われて、客足が遠のかないんだろうか。

「……問題ない。もう店の風物詩」

 グレーテルの言葉に周囲を見ると、周りの客が拍手したり、追加の料理を頼んだりしていた。あのおっさんも手首をさすりながら恍惚とした表情を浮かべている。

「……」

「……あの人のおかげで、この店は繁盛するようになったらしい」


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