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異世界でのボランティア

翌日グレーテルと一緒にギルドに入ると、昨日の顛末を知っている人たちがにやにや眺めたり生温かい視線をおくってきたりする。男子連中からは明らかに妬みの視線で、正直この場にいたくない。

 さっさとクエストを受けてこの場を離れよう。

 二人で受け付けのルーシーさんの所へ行く。ルーシーさんはにやにやしながら僕たちを応対した。

「どのクエストを受けようか?」

 僕は気恥しくなって話題を作る。

 ルーシーさんに二人のギルド認定書を提出する。もらったばかりの時とは違い、戦闘履歴が羊皮紙に事細かに記述されていた。

「そうですね…… お二人が受けられるクエストはこちらになります。ギルドランクと、戦闘経験、その他の経験で決定されます」

 そう言ってルーシーさんは羊皮紙の束を紐でくくって渡してくれる。グレーテルはそれを受け取った後、真剣にクエストの一覧表に目を通していた。

「……ヒロシは、どんなのがいい?」

 そう言われて気付く。

 僕はこれまでどんなクエストが受けたいか考えたことがなかった。この前までは先輩についていかないといけないから選択の余地はなかったけど、これからはある程度自分の意志で決められるんだ。

 ブラック神様は修行って言っていたから、なるべく修業っぽいことをしたほうがいいんだろうか?

 でも精一杯生きればいい、としかいってないしな。

 修業って言うと大体山にこもるとか、人助け、慈善事業とかだけど。

 でもそういうのはクエストじゃなさそうだしなあ。羊皮紙の束をぺらぺらとめくってみるけど、それっぽいのはない。でも、一応聞いてみるか。

「ルーシーさん。人助けとか慈善事業に関連したクエストってありますか?」

 ルーシーさんはそれを聞いて目を丸くしたけど、すぐに微笑んだ。

「人助けですか。ヒロシさんらしいですね。あることはありますけど、報酬はすごく安いですよ?」

 うん、まあそうだろうなあ。進路でも福祉系は給料が安いし。

「後はモンスターに襲われそうになっている村を助けるとか、商隊の護衛でもその範疇ですけど、基本クエストは大体が人助けですよ?」

 そっか。そうだよな。

 働いてお金もらえるのは、それをしてほしい人、してくれないと困る人がいるから成り立つわけで。

 じゃあブラック神様の要求どおりにするには、普通にクエストを受ければいいのか?

「慈善事業なら教会が行なっています。ボランティアになりますが、興味があったら行かれてはいかがですか?」

 教会か。あのブラック神様を祀っているのは嫌だけど、それ以外の神様ならいいか。

 でもこの世界の宗教はどんな感じなんだろうか?

「……ヒロシ」

 グレーテルが僕をじっと見上げていた。身長差があるから自然と上目づかいの形になる。そんな何気ないしぐさでも、グレーテルは反則的に可愛い。

 可愛いは反則だ!

「……ヒロシも私も、この数日間戦闘系のクエストばかりだったから、休憩と気分転換を兼ねて教会の慈善事業に行ってもいいかも」

 それもそうだ。せっかく異世界に来たんだ、無理のない範囲で色々なことを経験するのはいいだろう。

 僕たちは教会の慈善事業に一日ボランティアとして参加することにした。

でも革鎧や剣は慈善事業じゃ物々しいな…… 一旦宿に行って置いてくるか?

でもEランクに上がったならアイテムボックスが大きくなったはずだよね。やってみよう。

「ディメンション」

 キーワードを唱えると僕の胸から金属製の箱が飛び出し、空中にふわふわと浮く。

 以前はポケットに入るくらいだったそれは、バケツくらいの大きさの箱になっていた。

外した剣や革鎧を箱に入れるように念じる。

すると、吸い込まれるようにして消えていった。箱よりも剣や鎧の方が大きいのに、入るのは不思議だ。これも魔法の一種なのだろう。

「……Eランクなら行李くらいの容量になる」

 グレーテルも木製のロッドをアイテムボックスに収納する。それからふたたびキーワードを唱えると、アイテムを収めた箱は僕たちの胸に吸い込まれていった。



 僕たちはそれから二人で歩き、教会にたどりついた。

 教会の外観は日本でも街中で時々みかけるキリスト教系の教会とあまり変わらない。

 大きい鐘が屋根の上に設置されていて、ステンドグラスの窓がついている。

 教会の側に平屋の建物と広い庭があって、子供たちの声が聞こえてきた。おそらくあそこが教会併設の孤児院なのだろう。

 庭を少し歩き、白をベースにした服を着たシスターの案内で僕たちは今日孤児院の保育を手伝うことになった。

 結論から言おう。

 ボランティアなめてました、はい。

 子供はとにかく数が多い。そして一箇所にじっとしていない。

 一人と遊ぶと他の子がどこか行きそうになる。孤児院の敷地から飛び出すと探すのが大変なので、必死に阻止しなければならない。

 でもその子を追おうとすると、別の子が「おにいちゃーん、あそんでー」と言いながら僕の足に抱きついてくる。

 しょうがないからファイアハンドを見せてあげると、みんな「すげー! かっちょいいー!」と言って褒めたたえる。わはは、もっとほめるがいい。

 でも危ないからみな僕の側から離れてくれるので、その隙にどこかに行った子を回収してくる。そしてまたみんなと遊ぶ。その繰り返しだ。

 グレーテルは子供たちの相手の合間に、氷魔法を使って孤児院の冷蔵庫用の氷を作っていた。

 冷蔵庫といっても大きい氷を入れておくだけの簡素なものだ。だがそれでも一回氷を満タンにすれば三、四日は持つらしい。

 お陰で二人ともくたくたになった。ひょっとしてクエストより大変かもしれない。

 でも子供を相手にするとなんだか知らないけど癒されるから、いい気分転換にはなったと思う。

「お疲れさまでした」

 グレーテルと庭のベンチに座って休憩していると、案内してくれたシスターがお茶を差し出してくれた。

「……いい経験。こちらこそありがとう」

「僕もです。大変でしたけど、楽しいですよ」

 いびつな形の陶器のコップに入ったお茶を飲むと、疲労が少し回復していく気がする。

「薬草茶です。薬師や治癒魔法の使い手もおりますから」

 シスターは四、五十くらいのおばさんで、柔かい雰囲気の人だった。名前はハンナというらしい。目元にはしわが刻まれているが、若いころは美人だっただろう。

 この教会、というか修道院では自給自足が基本らしく、陶器がいびつなのも昔作った手作りの陶器を使っているかららしい。このリーマンの町ではムリだけど、農場や牧場、お菓子の生産なんかを行なっているところもあるらしい。

「ハンナさん、僕はあまり教会について詳しくないので、説明してもらってもいいですか?」

 僕がそう言うと、「喜んで」 とハンナさんは隣に座った。

 この世界では神様は色々な神があるが、大体がまとめて一つの教会で祀っている。

 神様は雨を降らせたり病気を治したり、未来を少しだけ見たりと色々な神様がいる。

 以前は一つの神様は一つの教会だけで祀っていたそうだけど、そのうちに教会同士で争うようになったので教会を一つにまとめ、いっぺんに祀ることにしたらしい。

 今では教皇が代替わりする際に派閥同士の内輪もめが少しあるくらいだそうだ。

この世界では宗教戦争が小規模で済んだのか。いや、まだ勃発していないだけかもしれないけど。

 今は「汝の隣人を愛せ」という始祖の教えや、始祖が行なったという病気治癒のエピソードに従って福祉活動や治癒魔法での身寄りのない子供、怪我人や病人の救済に当たっているそうだ。

 資金は信者や貴族の寄付、教会自身の農産物等の販売などで成り立っているらしい。

「冒険者の皆さんは治癒魔法をかけてもらいに来ることが多いですね。私の姪が得意ですから、怪我をした時にはぜひお立ち寄りください」

 治癒魔法か…… ファンタジーじゃおなじみだけど、ギルドじゃ見たことないな。

「グレーテル。冒険者ギルドに治癒魔法を使える人はいないの?」

「……いるけど、治癒魔法はシスターや司祭の方が得意」

「モンスターが大規模に進行してきた時には、私たちも冒険者や兵士の皆さんについていって治療にあたりますね」

 この世界ではシスターなどの教会関係者が、地球でいう衛生兵とか、従軍看護師のようなものらしい。

「最後に一つだけ、いいですか? 修業させる神様っています?」

 ブラック神様についての情報が知りたい。といっても、特徴がこれくらいしかわからないけど。

「修業させる神様ですか…… 聞いたことはないですね」

「……修行の神様? 私も聞いたことない」

 二人そろって首をかしげていた。

 ハンナさんですら知らないのか。ますますわからなくなってきたな。もしかすると興味本位で召喚しただけで、このまま帰してくれないんじゃないだろうか。あれ以来全然コンタクトが来ないし、召喚したまま放っておかれるんじゃないだろうか……

―――――そんなことはないぞ。人聞き、いや神聞きの悪いことを言うな。こちらの世界に残りたければ残してやるし、帰りたければ元いた場所に元いた時間に帰してやる―――

この世界に飛ばされた時聞こえた、あの荘厳な声が聞こえてきた。

空を見上げるが、あの時と同じように晴れ渡った空しかない。

「……ヒロシ。どうしたの?」

 突然空を見上げた僕をグレーテルが不思議そうな眼で見つめてくる。ハンナさんも似たような表情だ。二人には聞こえないのか……

――――――今はまだ無理だが、私が認めれば帰るか残るかを選ばせてやる。それと私の名はキリだ。ブラック神様ではないぞ―――

 キリっていうのか。

 この教会で祀ってるのかな?

 聞こうとしたけど、ハンナさんは次の仕事があるということで行ってしまった。しょうがない、また今度来た時に聞いてみよう。


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