60 研究者
「やぁ、アザミ久しぶり。いつまで部屋の入口で固まってるつもりかな?」
「……」
明里の笑顔とは、真反対の恐怖の表情を浮かべているアザミが、小春に押されて部屋に入る。
「緊急の用事でね。今すぐ行きたいことがあるんだ。人が多いけど大丈夫かな?」
顔面蒼白のアザミと対照的な明里の笑顔。
アザミさん…大丈夫か?
「さてと、行くよ!」
アザミが、「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ…」と呟きながら連れて行かれる。
明里が思い出したように言う。
「凰理くんと小春ちゃんにも手伝ってほしいから、ついてきて!鳴朝の帰りは、監査官に護衛させるか
ら!」
・・・・・***・・・・・***・・・・・
許可証を機械に当てる。
ピコン、という音とともに一歩踏み出す。
休日にここにくるとは……
M-18エリア。
緑人の出没はそんなに多くない。
俺は明里についていきながら空を見上げる。
お腹減ったな…
しばらく歩くと、人の声が聞こえてくる。
たくさんいるみたいだな……何があったんだ?
「明里さん、ここの近くだけ緑人いませんけど……」
「あーそれね。周辺に結界をはってるんだよ。」
「結界…ですか?なんか使うのムズいやつですよね。」
「うん。このエリアを囲ってる壁の、魔法で作った簡易版みたいな感じかな。」
なるほど。
周りを人々が忙しく走っている。
ただ事じゃなさそうだな……
やがて、俺は目の前のものに思わず足を止める。
巨大な影が地面に映っている。
花びらがひらりと落ちる。
かすかに何かが脈打つような音が聞こえる。
巨大な緑の塊が視界を埋める。
咲き誇った花や木が塊から生えている。
何だ…これ。
明里が言う。
「緊急の意味が分かったかな。これが何かは全く分からないけど。」
アザミは無言で緑の塊を見つめていたが、松葉杖をつきながら塊に近づく。
危なくないのか……?
アザミは静かに片手で塊に触れる。
「……明里。機材は。」
「あるよ。」
「持ってきてくれ。」
「了解〜。」
アザミが機材をいじり始める。
何か呟く声が聞こえる。
「表面温度は45度か……生命反応…生きてるのか?脈拍は……」
な、なんだ……?
さっきまでガチガチに震えていた姿とは違う、アザミの俊敏な動きに俺は驚く。
アザミはカバンからノートパソコンを取り出す。
カタカタと高速でキーボードが叩かれる。
小春も、機材を運んできて作業を始めている。
「あの…明里さん……」
「あぁ。そういえば、アザミの説明をしてなかったね。」
アザミの黒い暗い瞳がパソコン画面を食い入るように見つめている。
明里がにこやかに言う。
「彼は…研究技術局、副局長。優秀な研究者さ。」




