57 千景
「副、隊長…!?」
何で第五支部の副隊長が……!??
しかも…パドさんの友達と……苗字が同じ…
伊織は静かに言う。
「案内していただけますか。」
「えっと、わかりました。」
パドさんは…多分部屋にいるはず。
そのとき声が聞こえてそっちに視線を向ける。
あ、九条とパドさん。
「あの!パドさん!」
「?」
「この人がパドさんを探してて…」
千景がパドに言う。
「お久しぶりです。」
「…そうだな。連絡もよこさずいきなり何の用だ。」
千景は深呼吸をして、一言言う。
「鳴朝に会いに来ました。」
「……」
日が暮れ始めている。
パドは沈みゆく太陽に視線を向けて言う。
「鳴朝なら…いない。」
「でも、狙われてるとかで一時的にここにいるんでしょう。」
そのとき九条が大声で言う。
「は!?鳴朝いるのか!?ここに?報告受けてねぇぞ!!?」
「うるさい。」
千景の瞳を見つめていたパドが、ぽつりと言う。
「今はいない。…別日に来い。」
「嫌です。」
「……」
何だ…?
九条がパドの肩を揺らしながら言う。
「ど・う・い・う・こ・と・だ!鳴朝はどこだ!!」
「今はいないと言っただろ。」
「どこにだ!」
「明里に連れてかれた。場所は知らん。千景も探すなら明里に聞け。」
パドはスタスタと歩きだす。
九条が騒いでいる中、千景の声が響く。
「あんたらみんな変だ……!」
九条が黙り込む。
パドが立ち止まる。
木々がざわめく音が聞こえる。
「何でそんな平気なんですか?おかしいですよ。なんで…あいつだけ……!」
血走った蓬色の目に寒気がする。
千景は続ける。
「息吸って、飯食べて。なんで、なんで…!あいつは……鳴朝は。」
「普通に…生きてるんですか!」
静寂。
風の音だけが聞こえる。
千景が口を開きかけたとき、聞き覚えのある声が響く。
「じゃあ、死んでほしかったのか?」
黒いパーカーの男性が隣に立っていることに気づく。
いつの間に……というか、この人…烏兎の見舞いに勝手に行ったとき……助けてくれた…
千景が男性を睨みつける。
男性は淡々と聞く。
「睨んでないで答えたらどうだ。」
「…それは……」
千景は言葉に詰まってうつむく。
男性が冷たく言う。
「何も考えていないのに無責任なことを喋るな。騒いでないで帰るぞ。どっちにしろ本人はいない。」
「帰るかどうかは俺が決めることで……!」
「じゃあ、お前のとこの隊長がお呼びだ。とっとと帰れ。」
千景は黙っていたがポツンと言う。
「また来ます。」
千景の背中が遠ざかる。
パドが疲れたように息を吐き出す。
男性がさり気なく帰ろうとしたとき、九条が言う。
「おい。」
「……」
「久しぶりだな…会ってそうそう挨拶もなしか……」
九条が拳を握って言う。
「今度こそお前をぶっ殺す……」
なんだ…九条のこの待ちに待ったみたいな……雰囲気…
男性は淡々と返す。
「殺人罪で牢に放り込まれたいなら好きにしろ。」
「…!あのな…俺は……」
パドが言う。
「あいつ、聞いてないぞ。」
「!おい!帰ろうとするな!待ちやがれ!!」
九条が走り去っていく。
風が走り去る。
俺はためらいがちに聞く。
「あの…パドさん。」
「詳しいことは言えない。もう日が暮れる。早く帰れ。」
「…わかりました。」
俺は歩き出す。
散歩は…もういっか。明日仕事休みだし。
黒いパーカーの人…一体誰なんだろ。九条ともあの副隊長とも知り合いみたいだけどな……
副隊長が言ってた…さっきのあれは何だったんだ?
橙色に染まった空を静かに見上げる。
「明日何しよっかな……」




