52 夜の闇
カラーンと軽快な音を鳴らして、店内に足を踏み入れる。
女性店員が言う。
「いらっしゃいませ!空いてる席へどうぞ…」
文末が消える。
ぼーっと赤い顔で俺を見ている女性店員を横目に、目的のカウンター席に向かう。
窓に黒いパーカーを着た俺が映る。
椅子に座る。
人の少ないバーの中で白い髪が揺れる。
横に座っている明里が髪をかきあげて言う。
「さすが容姿端麗、文武両道の隊長様だね。」
さっきの女性店員のことをいっているのだろうと、ため息を付く。
明里はウイスキーの注がれたコップを揺らして聞く。
「何か飲むかい?」
「…カクテル。」
「へぇー。君、カクテルなんて飲むんだね。そもそもお酒を飲むかどうかも知らなかったけど。」
「……」
わかってないで誘ったのか。この人。
「何の用ですか。」
「結論を急がない。バーとかあまり行かないだろうし、せっかくなら楽しんだほうが—」
「何の用ですか。」
「…せっかちだねぇ。人生そんなに忙しく生きなくてもいいと思うけどね。」
「……」
じっと睨んでいると、明里は肩をすくめて言う。
「言ったら怒るかもだけど、用件はないよ。」
「は?」
「怖い怖い。たまには息抜きも必要って話。倒れたら元も子もない。結局は君も人間なんだからね?」
「……」
カクテルがカタリと置かれる。
明里が思いついたように言う。
「そうだ!飲み比べしない?」
「別でやって下さい。」
この白髪の酒呑童子に飲み比べで勝てないのはわかりきっている。
漆黒に染め上げられた空の下で色とりどりの光が地面を照らしている。
白い地面の上で見上げたあの空は見えない。
ウイスキーをおかわりした明里が言う。
「働いてばっかりなんだし、ちょっとは遊んだほうがいいと思うけどねぇ。」
「そんな暇ありません。」
「まぁ…確かにそうだねぇ。」
淡い金色の目が俺を見つめる。
この人はどこまで知っているのだろうか。
調べようと思えば簡単なことだ。
「せめて睡眠はちゃんととりなよ?隈できてる。」
「分かってます。」
「どうだか。」
この人と話していると苛立ちが募る。
カクテルを飲み干す。
「あれ?帰る気?」
「はい。」
「えぇ〜。」
「なんで不満そうなんですか。」
「だってせっかく誘ったんだからもう少し話したいじゃないか。」
「俺はもう帰りたいです。」
「そんな事言わない。」
「レインたちに狙われてるかもしれないのに、悠長にできません。」
「大丈夫大丈夫。」
その自信はどこから出てくるんだ。
お代を置くと立ち上がる。
「帰ります。」
「残念。気をつけて帰ってね〜。」
ドアベルを鳴らして外に出る。
秋風が吹く。
フードを被る。
夜の闇に溶けていく。
予防接種痛い




