50 ウィンターメモリー
「そんでさ〜。そいつがね?私がゲームでイカサマやってるって言うの。うっさいから、わざわざゲーム機交換してボコボコにしてやったわ。」
耳に銀色のピアスをつけ、首にヘッドホンをかけた、髪の短い女性がしかめっ面で言う。
隣で黒髪の真面目そうな男性がウンウンと頷きながら聞いている。
女性がイライラしたふうに言う。
「ちょっと!アザミ!さっきから頷いてばっかでちゃんと聞いてんの!!」
「き、聞いてる。」
男性が慌てたように言う。
「パドも聞いてた?」
女性に聞かれて俺は淡々と答える。
「聞いてない。」
「はぁ!?」
「俺は運転中だ。」
「……。アザミ!本当に聞いてた?」
アザミはこくこくと頷く。
「あんたねぇ……喋んないからよくわかんないんだけど!一言ぐらい…」
「ナギ。あんまアザミをいじめんなよ、コミュ障なんだから。」
ナギの後ろの席からにやにやしている男が現れる。
センター分けの象牙色の髪で意地の悪そうな表情を浮かべている。
アザミは座席の隅に縮こまっている。
ナギが容赦なく言う。
「うっさいチビ。」
「はぁ!?てめぇなぁ!」
突如勃発したケンカを止める勇気はアザミにはないらしく、カバンの中からチョコを取り出して食べてい
る。
俺は思わずため息をつく。
どうやって止めるか……
いつもなら。
あいつらが止めてたんだがな……
そのとき、助手席からゴンッ!という音が響く。
「いったぁぁ!窓に頭ぶつけた……」
俺はハンドルを回しながら返す。
「その体勢で寝るからだ。」
「えぇ〜。だって眠いじゃん。」
車窓に白銀の髪が映る。
紫電があくびをしながら起き上がる。
「あ!二人またケンカしてんの?」
「うっせぇ黙れ!」
怒鳴った男に驚いたのか、ビクッとアザミが肩を震わせる。
紫電が言う。
「鳴朝ぁ〜。ケンカ止めてよ〜。」
アザミの後ろの席に座っている鳴朝は、反応を示さずに雪の積もった景色をぼんやりと見つめている。
「無視かぁ……」
紫電が残念そうに言う。
鳴朝の青灰色の瞳には光も何もない。
象牙色の髪の男が突然、鳴朝の頭を殴る。
「いっ!」
「お前なぁ…初スキーなんだからもうちょい楽しめよ。」
鳴朝がギロリと男を睨む。
アザミが弱々しい声で言う。
「レイル…殴るのはやめておいたほうが。」
「無駄でしょ〜。バカチビにそんなこと言ってもさ。」
女性が言ったと同時にレイルが言う。
「誰がバカでチビだ!」
「あんた。」
「お前!」
「はいはい!ストップー。」
紫電が笑顔で言う。
「そんなことより、しりとりしよ〜。」
何でしりとりなんだ……
紫電が続ける。
「じゃあ、全員強制参加!」
「俺は運転中だ。」
「えー。いいじゃん。」
「よくない。」
「分かったよ〜。」
アザミの食べているチョコを勝手にとって、紫電が言う。
「りんご。」
チョコを取られたアザミは「あ…」と呟いている。
静かになった車内で紫電が大声で言う。
「ねぇ!誰か続き言ってよ!」
「めんどくさい。」
ナギにバッサリ言われて、紫電が残念そうにする。
俺はため息をついてブレーキを踏んだ。




