38 彼
「!?」
人が雪崩のように一斉に走り出す。
人に流されそうになりながら、一瞬の隙間にそれを見る。
「緑人……」
なんで…ここに。
パトロールのときに起きたあの光景を思い出す。
緑人が…原因がないのに……緑人化した…
子どもの叫び声が頭に響く。
あのとき…何もできなかった……
俺は奥歯を噛みしめる。
「パドさん!大丈夫ですか!」
「大丈夫だ。」
パドが辺りを見渡しながら言う。
人の減り始めた空間に、一人の男性が後退りしている。
「?」
男性の前に一人の男性が立っている。
サングラスをかけていて身長が低い。そして。なぜかゲームの銃のようなものを持っている。
男性が怯えた声で言う
「やめてくれ…緑人になりたくない!」
「!?」
篠雨が走り出す。
だが、笑顔でサングラスの男性が言う。
「バン!」
銃声が鳴る。
男性がうめき声を上げる。
花びらが落ちる。
雷の音とともに烏兎が男性の隣に立つ。
サングラスの男性の銃を篠雨が蹴り上げる。
「やべ。」
サングラスの男性は銃を落として床を転がる。
人は周りにほとんどいない。
烏兎が男性に注射をしている。
「それ…」
「抑制薬。これで緑人化を抑えられる。緑人になるんが100%やったら、10%までの緑人化なら治療できん
ねん。」
「!」
「今の進行度はだいたい2%。時間掛けられへんで。」
「わかった。」
俺たちは薬を飲み込む。
あの銃…なんなんだ。
サングラスの男性は俺たちをじっと見つめていたが、ニカッと笑う。
「チームプレイできてるし仲良さそうっすね〜。俺、ハルって名前っす。よろしくっす。」
篠雨が冷たい視線を向ける。
ハルが正反対の明るい笑顔で続ける。
「今日は…パドさんに用があって来たんっす。」
「!?」
こいつ…パドさんのことを知ってる……!
「その…スマホに入ってる情報。欲しいんっすけど。」
情報…!
パドは琥珀色の目でハルを見つめる。
ハルが残念そうに言う。
「絶対いやって感じっすね〜。でも…好都合といえば好都合っす。」
なんだ……!?
篠雨が刀を掴む。
斗花が緊張した面持ちで身構える。
ハルがニコニコと言う。
「パドさん。もうすぐ誕生日らしいっすね。」
「?」
突然始まった意味のわからない話に俺たちは戸惑う。
なんだいきなり……
「ちょっと早めの誕生日プレゼントっす。」
ふと気づく。
天窓の下に緑人が群れている。
だが、ハルの一言を合図にしたかの様に、緑人がフラフラと離れていく。
天窓から降り立つ陽光がスポットライトのように「彼」を照らしている。
パドが目を見開く。
白銀の髪。薄灰色の上着に濃いグレーのズボンを履いている。腰の左右に刀と脇差を一本ずつ差している。
耳飾りが太陽光を反射している。
「彼」は静かに目を開ける。
パドが一言もらす。
「し…でん……」




