第22話 光明を見抜く
塔に帰り着き、2階の食堂にスタッフ全員で集まって、状況を報告し合った。
エミラさんが食堂の奥のテーブルに座る旅人たちに目をやりつつ、状況を説明した。
「お客様は、現在2組、計3名が留まっています。交易都市に向かおうとしていた人たちに、出発を待ってもらっています」
「僕たちの方は、機械亜竜の足止めにひとまず成功した。
けれど、いつまでも食い止められるわけじゃない。クモの糸は丈夫だけれど、くくりつけた木が先にダメになりそうだ。ハンスさんが言うには、もって数時間というところらしい。
そして今のところ、僕には機械亜竜を倒す手段が思い浮かばない」
僕は機械亜竜を『降撃』して、大きくゆがんでしまった鉄球をテーブルの上に置いた。
「装甲の弱そうな関節部分を狙ったけれども、このとおり鉄球が負けてしまった。
真正面から固いものや重いものをぶつけても倒すことはできなさそうだ」
ガーシュさんが鉄球をそっと手に取って、じっくりと観察する。
「そいつは大変な化け物だなぁ。どうしたものか……」
レンネが思いついたことを口にする。
「落とし穴はどうでしょう。
高いところから落とせば、どんな生き物もひとたまりもないかもしれません」
ハンスさんが腕組みをして苦い表情をする。
「悪い考えではない。だが、致命傷を与えるほどの穴を掘るなら、数日は必要だ。今から用意するのは間に合わない。
それに、奴は飛行できるようだ。落とし穴だけでは仕留められないだろう」
エミラさんがハンスさんに語りかけた。
「ハンス、穴だけなら私たちが引っ越してきたときの通り道に昔の沢がありました。
谷のような地形におびきよせれば、軽い落とし穴にはなりそうです」
マリッサが厨房を見やりながら提案する。
「じゃあ、さらに火を付ければどうだい?
身体が埋まる程度の穴さえ用意できれば、食用油もランプ用の油も上から全部ぶっかけて、火を投げ込めば、たちまち燃やしきれるんじゃないかね」
リーゼがポーチから焦げてしまった糸くずを差し出しながら答える。
「実は、これは機械亜竜の足元からひろったスパイダーシルクの糸くずです。
ハンスさんがお話したとおり、機械亜竜は空を飛ぼうとしました。
そのときに青い光を強く放ったのですが、同時にかなり発熱していたようなんです。
この糸くずは、そのときの熱でスパイダーシルクの端っこが焦げ落ちたものですわ。
細糸を焦がすほどに発熱できるのですから、燃やしても耐えられる可能性があります」
ガーシュさんが糸くずを見て、何かを思いついたようだった。
「大きく動く前に、青く光って熱を発するのか。つまり、強い力を出すとき、熱が発生する造りなのか……?
機械亜竜が飛ぼうとしたときの様子を、もう少し詳しく話してくれやせんか?」
「はい。背中の装甲が開いて、後ろから鉄の羽を取り出しました。
そして光ったとき、背中から強い熱気を放出しているように見えました」
「ああ、それだ。つまり、機械亜竜は強い力を出すとき、内部が熱くなる。そのときに放熱する必要がありそうだ。でなければ、飛ぶときに背中をわざわざ大きく開ける必要がない」
マリッサさんが首をひねる。
「じゃあ、熱に強いってわけでもないのかい? 熱に耐えきれなくなれば、装甲の一部を開けて、熱を逃がそうとするってことかい?」
「恐らくはそうです。だから、燃やすのは有効です。外の装甲は立派でも、装甲が開いてしまえば中身は弱いかもしれない。中が壊れやすいからこそ、装甲を丈夫にしているのでしょう。
燃やして火から逃げて、熱を放出しようとしたときに開いた部分から中を狙えば、固い体表よりも攻撃が通るかもしれません」
「装甲を突破できないなら、自分から開かせればいい。そして、内部を狙うのか、なるほど」
僕はタワースパイダーを倒したときを思い出した。あのときも口の中に鉄球を放り込んでやっつけた。同じように弱点を狙うのは、きっと有効だろう。
「なら、この中から使えそうなものはあるか」
ガーシュさんが工具箱を取り出して、テーブルの上に広げた。
ハンマー、釘、ネジ、レンチなどが整理されて詰め込まれている。
装甲のすき間を狙うとなると、細くて丈夫なものが良い。
それも鉄を砕けるくらいに丈夫であれば良いのだけれど……。
「あ、これなら……」
僕が手に取ったのは、鏨だ。鉱山で僕も使っていた覚えがある。
これは鉱石をくだくときに使う工具だ。ノミに近い形状をしているが、全体が鋼鉄製になっている。岩にタガネを当てて、ハンマーで後端を叩いて打ち込んで使うものだ。
「タガネですか。それなら元々岩をくだくために使うものだし、細長い。
機械亜竜の放熱口やら羽を広げたときのすき間も通せるやもしれませんね」
突破口が少しだけ見えてきた。
飛ばせるか燃やすか、あるいはその両方により、機械亜竜に装甲の一部を開かせる。
その一瞬にそこを狙って、タガネをはじめとした丈夫な工具を『降撃』して打ち込む。
そうすれば、機械亜竜の丈夫な装甲の内側にダメージを与えられるかもしれない。
「でも、放熱口が開くのは一時的かもしれない。うまく狙えるかどうか……」
「それならば、この石板が役に立つかもしれません」
リーゼは薄青い石板をテーブルの上に置いた。
「よく観察していると、機械亜竜が青く光る直前に、この石板が光るようなのです。
この石板が光った瞬間に投げ込めば、放熱口が開く瞬間とちょうど一致するかもしれません」
大体の方法が見えてきた。
「でも、まだ可能性があるというだけだ。中身も外装甲のように丈夫なら、この作戦は失敗だ。
そのときはすぐに逃げて帰ろう。じゃあ、準備を開始しよう!」
僕とガーシュさんは、使えそうな工具をかき集めることにした。
リーゼ、レンネ、マリッサさんは塔にある油という油をかき集めてもらう。
そして、ギャレッドとハンスさんは出発に向けて支度する。
エミラさんには、ニックくんと塔にいるお客さんに付いていてもらった。
おおよその準備を終えて、全員で1階に集合した。
今度は塔に残るのは、エミラさんとレンネだけ。あとのスタッフは、全員で機械亜竜の迎撃に向かう。沢を利用して穴を仕上げるにも、機械亜竜をおびき寄せるにも、手数と速さが必要になるからだ。
「デルム様、お嬢様、お気をつけて。
必ずしもお二人が化け物を倒す必要もないのです。
失敗しても、辺境伯領や冒険者ギルドに頼ることもできます。
無事に帰ることを第一に考えてくださいませ」
心配そうなレンネに、リーゼはうなずいて答えた。
「はい。必ず帰ってきます。レンネも、お客様たちのことをよろしくお願いします」
馬車に乗り込むと、わずかに油の臭いが立ち込めていた。
荷物も多いし、乗る人数もほぼ限界そのものだ。
狭い車内でゆられながら、油のタルが倒れないように抑えていた。
――そのときだった。
「石板が、強く光って――」
そして、ゆれる馬車の中でも分かるほどに、地ひびきが鳴り出した。
ゆれの元の方角は当然――。
「機械亜竜が拘束から逃れて動き出したんだ!
間に合うか! ギャレッド、急いで!!」
機械亜竜との決戦のときは、確実に近づいている。
「こうなれば、手分けをして挑むしかない。
まずは落とし穴を仕掛ける沢に、リーゼ、ハンスさん、マリッサさん、ガーシュさんを降ろす。
みんなが落とし穴を仕上げている間に、僕とギャレッドが機械亜竜を誘導する」
「デルム様……。いえ、危険ですが、それしかありませんものね。
どうか、よろしくお願いします」
リーゼは僕に心配そうに声をかけた。
「うん。僕たちの塔と街道を守るために、全力を尽くそう」
せっかく形になった、僕たちの居場所なんだ。
正体不明の化け物なんかに壊させるわけにはいかないのだ。




