33 伝統
『ヴィーヴル、シカの骨はここに集めておくんだ』
「骨を集めてどうするのじゃ?」
『骨からだって、色んなものを作ることが出来る。
村の入口に飾っておくだけじゃないぞ』
そう言われて、村の入口にシカやイノシシの頭の骨が並べられている事に改めて気が付いた。
「あれは、何の意味があるのじゃ?」
『あれは威嚇だ。
『我達の村では、これだけの大物を仕留めることが出来るんだ。
下手に手を出すなよ。
それでも来ると言うのなら、覚悟するんだな』と言うな』
「あまり効果は無いと思うのじゃ」
『どうしてだ?』
「頭の骨が並べられていても、『何か住んでいる者が居る』程度にしか思わんのじゃ。
それに、今、妾がお主に聞いたように、殆ど気にせぬのじゃ」
『まぁ、先ほどのはゴブリンの伝統としての言い分だ。
我もその様な事は思わん。
却って、人間に居場所を知らせているようなもので、止めたい。
それでも、止められないものが伝統として残されているんだ。
例え、それが悪しきものであったとしてもだ』
「伝統とは厄介なものなのじゃ。
先ほどの事を言って、止めさせないのじゃ?」
『無理だな。
そう簡単に止められるものならば、とうに止めている。
それに、伝統と言っても悪しきものばかりではない。
良いものが伝わり、伝統となって行くものだってあるんだ』
「例えば何なのじゃ?」
『我達が住んでいる家だって、伝統と言えば伝統だ。
いくら粗末なものでも、雨風を凌げると言うのは気の持ちようからも違う。
皆で纏まって暮らすと言うのも、冒険者に少しでも対抗するために伝えられた伝統みたいなものだ』
ヴィーヴルは、リーダーの言葉を黙って聞いている。
『皆で集まると言うことだって、良い事ばかりじゃない。
それだけ食料が必要になるし、その場を襲われたら全滅することだって考えられる。
さっきの頭の骨だって、ヴィーヴルは何も感じなかった様だが、シカには効果があるかも知れない。
シカでも村の中で暴れられたら、甚大な被害を被る。
我達ではシカを抑え込むのも一苦労するんだ』
「成程なのじゃ」
ヴィーヴル目線で考えれば、シカが来たとしても魔法ですぐに大人しくできるだろう。
食料とすることだって造作ない話だ。
ただ、ゴブリン達にとっては脅威となってしまう。
それを未然に防げるのならば、何もしないよりは良い事なのだろう。




