32 ゴブリンの調理?
『今日は、シカを皆で食べるぞ』
久しぶりの大物に、皆、上機嫌の様子だ。
「どのようにして食べるのじゃ?」
『どのようにって、どういう意味だ?』
「そのままの意味なのじゃ。
ゴブリンの料理を妾は知らないのじゃ」
『料理か……料理というか、調理なんてしないぞ』
「そうなのじゃ?」
『あぁ、調理する必要がないからな』
調理する必要がないとはどういう意味なのだろうか? ヴィーヴルの頭の中は疑問だらけになっていた。
サーシャと一緒にいた時は、調理と言うにはほど遠いかもしれないが、焼いて食べた。
少なくともそのまま食べるようなことはせず、「焼く」という一手間を加えた。
ゴブリン達はそれすらもしないと言うことなのだろうか?
「焼いたりせぬのじゃ?」
『どうやって火を出すんだ? 我達では、ヴィーヴルのように魔法で火を出すことが出来ない。
火を起こす方法がない。
それに、火で炙らなくても身体を壊すことはない』
「火で炙るのは、身体を壊さないようにする為にするのじゃ?」
『そうだぞ。
ヴィーヴルは違うのか?』
人間であるサーシャにとって、動物の生肉を食べたり川魚をそのまま食べるということは、自殺行為に等しい。
人間にとっては害となる細菌や寄生虫が、その体内に含まれている。
寄生虫の存在は知らないが、昔からの経験則として生の魚や生肉を食べないようになっていた。
その細菌や寄生虫も、ゴブリンにとっては何ら害を及ぼさない。
だから、生のまま食べることができる。
それならば、態々、手間を掛けて火を起こす必要がない。
火を起こせなかったから、身体が細菌や寄生虫を受け付けないようにしたのかもしれない。
今となってはどちらが元となったのかは分からないが、ゴブリンにとっては害がないと言う事実だけが残されている。
ヴィーヴルも生のままで食べても問題はないのだが、サーシャと一緒に生活しているうちに、焼いて食べるようになっていた。
「焼いて食べた方が、香ばしくて美味しいのじゃ」
『ヴィーヴルが居る内は、それでも良いだろう。
だが、ヴィーヴルが居なくなった後はどうなる? 火を起こすことが出来ないのだぞ? そうなったら、元のように生のまま食べることになるんだ。
焼いて食べる事が美味しいとなったら、元のように生で食べることができなくなるかもしれない。
そうなったら、村が崩壊してしまうかもしれない。
安易に何でもやるのではなく、そういう先まで考えないといけないんだ』
「分かったのじゃ……妾も久しぶりに、生のまま食べてみるのじゃ」
その日、久々に食べた生の肉は、やはりあまり美味しく感じなかった。
そのことにより、香ばしいという香りが美味しさに一役買っていることを実感した。




