第5話 剣と異世界と俺 と 後編
序章終了
次話より一章です
「ヒルト、馬鹿野郎が逃げろって言っただろう。なんで無茶な事を……」
そう言いながら、タングが斬撃で体勢を崩した俺を片手で支えながら体を入れ替えて、ソーンスコルとの間に入りグレートソードで陰を作って、その陰に自分と俺の体を入れた。
ソーンスコルは、右目を潰された痛みと視野の悪さから体勢を崩して着地をして、怒り任せの咆哮と電撃を撒き散らしていた。
「怪我は? 体は動くか?」
俺は体を動かそうとする。
身体中に力が入りにくいがまだ動くな、でも正直一撃出来れば御の字だろう。それに、動いたとして……。
「動く……よ。でも剣は……刀身が死んでてもう使えないと思う」
俺の剣は、さっきの一撃とソーンスコルの毛で完全に刃が潰れ、切っ先は砕けて無くなっていた。
俺の今出来る技と武器の最強は、完全に破れ去り武器まで無くなった。
そう剣を見つめながら思っていた。
「ヒルト、さっきの一撃はまだ振るえるのか? それに剣ならここに有る、それにこれはお前と俺の刃でお前が越えるべき刃だ、だからお前の物だ」
そう不意に言って、腰に掛けてあるあのチタンと鋼の刃を俺に渡してきた。
意味は瞳が語っていた。
直ぐに剣を受け取り、タングの陰に隠れながら背後の木の陰へと雷撃を避けながら滑りこみ、様子を確認する。
暫くしてからソーンスコルの雷撃は収まり、残された視野でソーンスコルはタングを見つけ、体の帯電が怒りを表した様に大きく変化していく。
タングは、その姿に怯む事なく剣を構え、対峙して。
「来いよワンコロ、俺を執れるもんなら執ってみろ」
先にタングが仕掛けた。
初めての剣の稽古の時の様に消える、ソーンスコルの右側、死角に移動して剣を振るうが、ソーンスコルの毛皮で剣は通らない。
だが、グレートソードの質量とタングの腕力、そして自身の帯電による反発力で、ソーンスコルは弾き飛ばされたが、ダメージ自体はそれほどではないようですぐさま反撃を開始する。
咆哮と怒りで増幅された雷撃を放出して、タングを追い詰めていく。
「なんてヤロウだよ全く……ハァハァ……本気で割に合わねぇな」
タングは、木を背にして耐え切ってはいたが、かなり限界が近いという様子だった。
声をかけたい……今すぐに飛び込んで行きたい。でも、今じゃない……。
俺は、歯を食いしばりながら、我慢し、体中の魔力を掻き集めて、今の放てる最大の技の準備をする。その時が来るのを逃さぬ為に。
そうしてる間もタングは、防戦をこなすが、雷撃による細かい傷を受け続けていく。
「くっ……はぁはぁ……」
タングが限界で木に体重を預けた。
そうするとソーンスコルが動き始める。
また帯電を強め、足に電流を集中させる。そして神速と言える速度で姿を消すが直ぐに攻撃を加えないで周囲の木を足場にして飛び回り、あまつさえ散る木の葉も足場に変えて、撹乱してくる。
木や地面を蹴る度に、電気が弾ける音が響き閃光が散っていく。
突然、先ほどまでの音や閃光が止み、一瞬の静寂が周囲を包み込んだ。
突然の轟音。
今までとは、比べ物にならない雷撃が弾ける音が響き、一筋の閃光がタング目掛けて走る。
「がっはぁ……」
タングは、その一撃を剣で受けていたが、衝撃で木に叩き付けられ口から血を吐く、そしてソーンスコルは、受けた剣を更に蹴り砕いて更に衝撃をタングに加えた。
完全に意識を刈るような衝撃で、タングの体は再び木に叩き付けられて跳ね、前に倒れていく。
反動で空中に飛び上がったソーンスコルは、まるで人間のように笑っているかのように見下げていた。
そんな空気を切り裂くように俺の体に電気が走り始め、全ての魔力が電撃へと変化されていく。
全身に電撃を纏い、その電撃は足元へと流れていく。
「そこだぁぁぁぁぁぁ」
電撃の反動とブーストされた身体に、加速された反射神経での跳躍。
一人の少年が、雷光の一筋となり放たれる。
空中で身動きの取れないソーンスコルは、回避の為に体を捩ろうするが遅く、またそれが仇となり潰された右目を切っ先の前へと無様にもさらけ出していた。
その閃光は、ソーンスコルが絶命の咆哮を上げる音よりも速く、雷光の切っ先が潰された右目から脳天へ向けて突き進んでき、脳と頭蓋骨を焼き貫き静寂が支配していく。
ソーンスコルは自身の技と一人の少年と父親の一振りにより、絶命した。
地面へと落下した音がする
「あははは……やった……ぞ……クソ野郎……ぐぶっは……」
血を吐き、全身から血が噴き出る。剣が手から離れて行くと同時に、意識も手放していった。
視界に光があふれて行く。
「「ひる……ると……ヒルト」」
三人の人影が俺の名前をよんでいる。
とても心配そうだな、そんなに叫ばなくても……聞こえてるよ。
そんな風に思考しながら、目が開いていき視界が戻っていく。
そして三人を確認すると……
「よかった、体は大丈夫? 本当に生きてるわよね? ……こんな事になるんて……本当にごめんね……」
「ふへ??? ……ぶふっ」
そう言いながら母さんが抱きついてきてから、ファラも同じように言いながら俺の顔に胸を押し付けるように抱きしめてきた。
状況が把握できない、でもこの肉感は、幸せかもしれないでもそろそろ、、、
「いぎ……が、い……が……ぶっは」
俺の状況に気付いてファラが離れてくれて息が出来るように解放された。
「本当にいきなりなんだよ? 寝起きそうそう、俺に何かあった……の」
自分で言いながら思い出した。
俺は、ソーンスコルを貫いてから、魔力の枯渇と電流で体中が焼けて……記憶がそこで途切れて
漠然と状況が解ってくると、恐怖や壊れた剣の事が甦ってきて身体が強張っていく。
「ヒルト、お前が倒したんだ……しかしこんな原因を作ったのは、俺達なんだ……すまない」
強張った俺に、タングが話しかけて来た。そしてこの原因になった経緯について説明された。
経緯はこうだった。
本格的な剣技や魔法、そして魔物討伐の訓練や稽古に入る前に実力を測るために、一芝居を打って一人でどれ程の対処が出来るかを見極めるつもりで、タングが丁度無茶をして倒れたのを口実にカーバンクルを狩らせる予定だったが、ソーンスコルというイレギュラーが発生したという事らしい。
「親父……ソーンスコルの死骸はどうなってるの? あと……剣は……?」
最初の返答を聞いて、三人共困惑した表情を浮かべ。
「責めないのか? 俺達が騙して試すようなことをしなければ起きなかったんだぞ?」
正直責める云々の事ではなく、イレギュラーで起きた事だ、それにソーンスコルという材料と技を習得出来たんだから問題は無いだろうし。
それに生きてるんだ、死んでいれば怨んだだろうけど、それよりも今の俺は、使い物にならなくなった剣の修復と、最後の一撃であの剣がどうなったかしか眼中になくなっている。
「うーん、騙されたのは気分は良くないけど、もしも一人の時に、俺の剣だけだったら死んでいただろうし。ソーンスコルのあの技を模倣すら出来なかったと思うから、それより死骸とあの剣だよ、どうなってる?」
俺の発言に少し引きつった顔をされた。
そして
「ソーンスコルの死骸は解体の為に持ち帰ってる、剣は、ほら二本ともここにある……それよりも」
二本……俺の剣とあの剣を渡した後何故か、目を逸らしながら鏡を渡された。
「へ? ……なんじゃこりゃぁぁぁぁ」
俺は、鏡を見て叫んだ。
だって髪の毛の、右前四分の一が白化しているんだからな……まぁ厨二時代なら喜んだだろうけど、これは痛い、本当に痛々しい、黒歴史が抉られる。
「そういう事なの……」
クリスは、目を逸らして泣いているのか笑っているのかよくわからない。
「えっとね……それはね、ぶ……君が無理やりソーンスコルの魔法を使用したからなんだよ……ぶふっ……それにソーンスコルは生まれた頃は黒色の毛並みでね、雷撃で加速する度に白い毛並みに変化していくんだけど……それが君の身体で起きたんだろうね……ふっふ……」
ファラにいたっては、会話の端々に笑が混じっている。
……正直自分でも似合ってないのは解るけど、酷くない? いっそのこと全部白髪ならましだったのに……
「笑い事じゃないよね? これは、怒るよ流石に」
二人に訴えると少し固まったけど……問題は、
「俺は、カッコイイと思うぞ。箔がついて最高じゃないか」
親指を立て、グッって擬音が聞こえんばかりで、さらに満面の笑みコイツ厨二病を患ってやがる……手遅れだ。
「「えっ?」」
「え?」
微妙な空気が生まれた。
でも
「あはははははは」
笑がでた。何でかは解らないが、なんだか笑ってしまった。
でもそれで全部解決した気がする。
しかし、タングが使い込んだ100銀貨については許されなかったらしく、単独カーバンクル討伐は続行、ソーンスコルの素材は俺の物となった。
【色々終わって一人になった】
「はぁ……髪の毛どうすっかな……」
白くなった髪の毛をいじりながら考えていると、ふと二本の剣が目に入って、手にして鞘から抜き並べた。
「やっぱり純チタンじゃ……割れてしまうんだな」
俺の剣は、欠けにヒビ、そして刃が完全に死んでいた。
対してクラッド鋼※形状の、この剣は、少し切っ先が磨り減ってるけど、それ以外の問題は出ていない。
「やっぱり、単一金属での刃物は弱いな……これなら心材に鋼、側材は、チタン系の合金にしないとな、刃材は、……」
ベッドから出て、そう考えながらとりあえず工房に向かう。
途中クリスとファラに注意を受けたけど、とりあえず無茶はしないと約束して工房に着いた。
「親父……居るよな? 質問が……うぇぇぇ」
扉を開けると、工房内でソーンスコルとカーバンクルが解体されていて、その解体の中央に血まみれのタングがナイフ片手で立って振り返ってきた。
さながらギニーピッグのワンシーンを見た気分だ。
「おう何だ青い顔をして、体調がまだ万全じゃないなら寝てろ」
いやお前が原因だよ、何で工房内で解体作業なんぞしてやがんだ。
それに腕に巻きついてる腸の様なものをどうにかして欲しい、スプラッタすぎる……
「体調は、大丈夫なんだけど……グロすぎて……」
ケロっとした表情で
「お前こんな事がダメなのか? 生きる為に肉を解体するし、素材の為にはしないといけない事だ。感謝しながら余す所無く遣ってやらないと、逆に無礼だ。それよりなんだ?」
そういいながら黙々と作業しながらチラっと見てきた。
「親父、この剣の製法と素材、あとアインさんの店に売っている金属の性質を全部教えて欲しい」
親父が作ったあの剣を前にだし言い放つと、はぁ? と言いながら振り向いて口をあけているタングだったが。
「今回の芝居の事は、それで全部チャラにするから」
その一言で撃沈させた。
解体作業をしながらだったが、製法と素材について全て話してくれた。解体が終わってからは、アインの店に売られている素材の全ての名称と素材特性を現物を工房に有る現物と照らし合わせながら説明してもらい。魔物素材の加工方法をレクチャーしてもらった。
終了した時は既に日が暮れていた。
「ヒルト、帰る前にこれを渡しておくぞ」
タングは、片手より大きい蒼い魔石と50cmほどの犬歯2本を俺に手渡してきた。
「これは……あいつの素材?」
その素材を見つめながら呟くと
「そうだ、お前が勝ち取った物だ……魔石に関しては俺は、使った事が無いからなファラリカに聞いてくれ。そういった類については、専門家よりも使い方を知っているからな」
そう言いながら素材を抱えた俺を、担ぎ上げて連れ帰ろうとされた。
抵抗をするも空しく家までお持ち帰りで、その姿に笑われた。
けどなんだろう、ムカつくのに嬉しい。
その夜ファラに魔石の鑑定と使用法を聞いた。
「本当に珍しい魔石だねこれは。通常魔石っていうのは魔物が魔力を効率よく使うために発達させた器官でね、魔法士が使う杖なんかには、効率化のために必ずはめ込むものなんだけど、この魔石に関しては、それが全くないんだよ……むしろ魔力の貯蔵やブーストに特化した物のようだね。加工も出来るけど……特殊すぎて直ぐにはできないね」
その回答から俺は、
「ファラお願いが有る……魔石の半分をファラに上げるから残りを何個かの玉に加工してほしいんだ」
ファラが驚いていた。
「本当に良いのかい? かなり珍しい物だから、私としても喉から手が出るほど欲しい位価値が有るものなんだよ?」
真剣に聞いているのが解る。
「加工の対価にはそれが一番だと思ったんだ……足りないですか?」
ファラは呆れたという感じで手をヒラヒラとしてから、
「貰いすぎだよ、4分の1で十分お釣りが来るよ。任せて、直ぐには無理だけどね。あと研磨時の粉を素材に混ぜると良いよ。魔力の通りも良くなるし、この素材ならブースト効果も期待できるからね」
そう言ってから俺を加工と詳しい鑑定の邪魔になるからと部屋から追い出しながらもう寝なさいといわれた。
それからの日々は、本確的な対人剣と対魔物の修練と魔法、それに加えて冶金と鍛造を繰り返した。
数枚の金属を重ねてのクラッド鋼は、素材の都合上失敗の連続で未だにあの剣には届いていないが、この数年の成果で皮金、芯金、刃金、峰金、というクラッド鋼の試作剣が仕上がった。
魔法による溶接。これが一番良かった。
しかし正直言おう。
地味であると。
そして何より人間溶接機とか冗談ではなくダサい事この上ない、指先から電流を出し左手でアース。本当に電気鰻の気分だ。
試作剣までの資金? そんなもんソーンスコルの毛皮を売って金貨を数枚手にしたんだ。
それを投げ打って素材を買いましたよ。散財分を考えると一級品の武器と武具が揃うレベルらしい。
現代知識の冶金にこの世界の精錬技術が組み合わさってようやく第一歩だ。
それでも超えられないこの剣には脱帽した。
そうそう[この剣]て言うのも敬意が無いので名前をつけた。
[ティールイング]
それがこの剣の名前だ。
そういえば俺の決意だったな、壊れはしたが俺の剣と刻まれた名『Hilt・Laeva/Blacksmith』に誓おう。
「俺は、最強を超える剣と最強を目指す」
クラッド鋼※異種金属のサンドイッチして溶着もしくは、高温下で圧着した金属素材、日本刀等は此れに分類されるが根本的に技術違い、ダマスカス鋼、一部例外を除いた和包丁、ナイフ類、工業用油圧切断機の刃に良く使われる。




