第45話 変ると変らないと真実と
空にはもう積乱雲のよな高く聳える雲は一つもなく、うろこ状の雲が点在する。
未だ暑く、茹だるような残暑が続いているが、確実に季節は夏から秋へと変ろうとしていた。
しかし、季節は変ろうとも変らないモノが、
「キッツ……流石に今の二人を同時に相手をするのは無茶だったか。 って、クソ!」
「もう限界か? あれだけ大口叩いといてさ」
「うっせえぇグラン。お前こそ、そいつを使ってっ、っ! どわっつっ!!」
「僕を忘れて余所見とは、偉く余裕そうですね」
グランから繰り出される二刀の連撃を、流清法や迅雷と持てる技の全てを尽くして防いでいると、いきなり魔力の波が大きく乱れたのが分かった。
その魔力乱れは、巨大な光の剣によるノエルの横槍で、感知できた魔力の流れを読み、ギリギリの所でノエルの横槍を避する。
正直、最初から攻勢に移る事もできずに防戦一方。
原因としては、少しでもグランから目を離すと背後を取られ兼ねないし、だからと言ってグランに集中し過ぎるとノエルからの魔法や光の剣による横槍に対応できなくなるからだ。
結局、攻勢に移行できずに目視と感知による防御に徹するしかない。
まぁ、言葉で言うのは簡単だけど、そんな馬鹿みたいな緊張が長続きがするはずもなく、
「あっ! クソ何処に行き……」
「俺の勝ちだな」
ノエルの横槍に一瞬気を取られていた間に俺は、グランを見失ってしまい、その一瞬の隙を付かれた結果、
「参った。 流石にお前等相手だと無理だっての」
俺は両手を上げ負けを認めた。
そして俺がそんなポーズを取ると、背中に突き刺さった威圧が消え背後から溜息が聞こえ、
「正直さ、こっちが自信無くすぜ全く」
なんだか落ち込んだように言葉を吐き捨てるグラン。
そんなグランに、
「はぁ? なに落ち込んでんだよ。 俺なんてお前等に一撃も入れれずに防戦一方だったんぞ。それに、たった10分程度で終了だしな。落ち込みたいのは俺の方なんだけど」
負けた事は悔しいのは悔しいが、それよりも手も足も出せずに負けた事の方が悔しくかたった。
それなのに、目の前で落ち込む表情を向けてくるグラン。
その行動が理解できずに首を傾げた時だった、
「危ない!!」
突然ノエルの叫ぶ声が聞こえ、
「なっ馬鹿!! っどっせい!!」
「フザケロ!! ふっん」
目の前まで迫る光の刃が視界に飛び込んでいた。
咄嗟の出来事に、怒りの声と受け止めた反動の声を互いに上げていた。
光の剣は俺とグランの剣で何とか受け止める事に成功はしたが、
「っチ…… 本当に自信を無くしてしまいそうですね。 龍の体でも真っ二つに出来る僕の【光子の勝者の剣】まで、こうも簡単に受け止められてしまうとね」
舌打ちを鳴らし、何の悪びれる様子も見せないノエルが俺達へて歩いてくる。
そんなコイツに、
「たく!!お前は毎度毎度、ふざけんな!!」
俺は怒りの感情で抗議するが、
「ヒルト…… そろそろノエルを真っ二つに斬って良いか?」
グランは毎回繰り広げられるノエルの奇襲に堪忍袋の尾が切れたようで、怒気を放ちながら収めたはずの二刀を引き抜き、戦闘態勢に入る。
そんなグランの行動に、
「へー、君程度が僕をどうするんですかね? なにやら出来もしない事を言っていたようにも聞こえましたけど」
挑発するような発言と共にノエルも臨戦態勢を取り、光の剣を最大状態で発生させた。
そんな二人のやり取りに、
「へいへい。 毎度飽きないのは良いけど怪我しない程度にな」
俺は呆れて匙を投げて、背を向ける。
そして、そん俺達を、
「なんだか楽しそうだね…… 僕、あの三人をみていると自信が無くなっちゃいそうだよ」
「そうね。 私もアイツ等を見てると自信無くすわ。 特に最近のヒルトを見てると、戦闘でも鍛冶でも才能が無いのかって思いたく成るほどにね」
「僕もそれは分かるかも。最近のヒルト君には近接戦だけじゃなくて魔法戦でも負けちゃって、なんだか置いていかれちゃったなって感じるから」
「「ねぇぇぇ」」
フランとエイルが落ち込んだように眺めていた。
が、
「……何を……仰っていられ…… 魔法騎士課……次席の私が、魔法師課と、医療、魔道課に、ここまでしておいて……ガク」
槍を杖代わりに足を引きずる男。
しかし言葉を言い終えると、その場に倒れた。
その姿に、
「あっ」「ふぇ?」
気がついた二人は、急ぎ足で駆けつけて、
「あはは、ごめんねハルト君」
「はわわ!! ハルト君大丈夫ですかぁ?」
気絶しかけのハルトに近寄り治療を開始。
エイルとフランの治療技術は最近の鍛練の成果もあってか、かなりの上達を見せていて、
「治療感謝いたします。それにしてもお二人は何を落胆される事があるのでしょうか? 格闘戦、魔術戦を魔法騎士課次席の私を凌ぐ強さに、その類稀なる医療術と、規格外三人は除外するにしても十分に感じるのですが……」
あっと言う間に回復を果たし、二人に対して眉を顰めるハルト。
そんなハルトの言葉に二人は何かを悩む素振りをみせ、エイルが、
「うーん。ノエル君はどうでも良いんだけどね。ヒルトとグランとは長いからさ、どうしてもあの二人は比べて――」
想いを口にし始めたが、
「まぁ! 何てことでしょう、殿方をそこまで痛めつけるなんて。 そですわね差し詰めトロル*の様ですわね。あぁぁ怖い怖い。 そして痛めつけた殿方を自分で介抱するとか、奇人の類なのかしらね」
横からそれを邪魔するかのような言葉が飛び込み、
「……今、何か聞こえた気がしたんだけど……気のせい、よね」
必死に我慢をするかのように、誰とも目標を持たない同意の質問を投げかけるエイルだっが、
「あら、トロルの癖に耳は良いようですわね。それに少しは知性も持ち合わせているなんて、希少種なのかしらね」
そんなエイルを煽るように再び意地悪そうな声が発せられると、大きく水が弾けるよう音が響き渡り、
「…… あら、ごめんなさい。へレネー貴女がそんな所に居るなんて気が付かなかったわ」
ワザとらしいエイルの声と、
「……いえいえ。あら?なんぜこんな所にトロルが…… あぁ申し訳ありません、見間違えましたわ」
なにか不穏な喋り方のへレネーの声が上がると、再び粘度質な液体が弾ける音が響き、謝る気も無い謝罪の言葉が飛んだ。
そうして、
「やったわね!!」
「ええ!! その薄汚い姿がお似合いよ」
泥まみれのエイルと、ずぶ濡れへレネーの口喧嘩は、魔法合戦へと変っていく。
そんな二人をオロオロとした様子で止めようとするフランと、その狭間で犠牲になるハルト。
そんな様子を、
「はぁ……平和だな。 全くいつの間にこうも賑やかに成ったもんやら。 それもコレもお前のせいなんだろうけどさ。何時もお前は俺に問題ばっかり持ってきやがるよな。本当、なんでこうなるかな」
そう俺は一人言を呟き、一方ではノエルとグランが激しい剣術と魔法の応酬、その反対側では、魔法と言葉の応酬と、毎度の事のように繰り返される出来事を傍観し、右に浮かんだ紋章へと視線を延ばした。
いつ間にか変っていた日常へと思いを馳せ、原因を思い返す。
そう、なぜこうなったのかというと、
「へーそれで私の元に来たと……この忙しい時期にね」
新学期前日に俺は、とある場所へと爺さんと師匠と共に訪れると、目の前の人物から辛辣な表情と強い怒りを含んだ言葉を浴びせられていた。
そんな人物に、
「本当にすまん。ルーズが忙しいのは理解しているのだが、俺達にはどうする事出来ない問題なんだ。力を貸して欲しい」
「ワシも時期を考えずに、ルーズ、御主へこの様な頼みを持ってきてしまった事、大変悪いとは思っておる。しかし、ワシ等の知識ではどうすることも出来んのじゃ。分かってはくれまいか?」
二人は頭を下げて頼み込む。
そんな二人の姿勢に、
「師匠方は此の子に甘すぎです!! いえ、あの馬鹿の時も思っていましたが、なんで御二人はそうも弟子に甘いんですか!? そうやって御二人が弟子を甘やかすから――」
長い長いスルーズ理事による小言が始まった。
最初こそ師匠達や俺に対する文句だったが、終盤ではスルーズ理事の悲痛にも似た思い出話やら、現状に対する嫌味やらと本題から逸脱したような内容へと変っていく。
そして、そんな彼女の愚痴にも近い小言を、ずっと相槌を打って宥めるように対応する師匠達。
そんな光景に俺は、何を見せられているんだと困惑していた。
そして暫く喋り続けたスルーズ理事は、
「すみません取り乱してしまいました」
一通りの愚痴を撒き散らかしてスッキリしたようで、コレまで付き合っていた師匠達へと謝罪の言葉を述べた。
そして、
「御主も大変じゃったな」
「確かに、俺達も少し甘かったのかもな」
長い長いスルーズ理事の愚痴に、疲れたような素振りをみせながら、言葉を溢す師匠達だった。
そんな三人のやり取りに俺は終始置いてけぼりで、
一体俺は何のために此処にいて、俺はなぜこんなコントを見せられているんだ?
等と感想を想い浮かべ、呆然としていたが、
「ふぅ。 それで、本題の彼方だけど…… 早くその問題の右手を見せなさい」
唐突に俺へと視線を変えると、話し早々に本題へと話題を切り替えたスルーズ。
俺はそんな彼女の行動に、
自由か!!
と、突っ込みたい衝動に駆られたが、
「ほら早くなさい」
そんな俺の思いは無視するかのように、手招き付きの催促の意を口にして来た。
そんなスルーズ事、雌狐へと文句の一言でも言いたかったが俺へと向ける彼女の表情を見て、ここで俺が何か言ってしまうと、この雌狐の思惑に嵌る気がすると直感的に感じて、
「っ…… はぁ、はい」
言葉を飲み込み、観念した、というよりは仕方ないという気持ちで右手をさしだした。
すると、
「あら、素直ね。 文句の一言でも言うのかと思っていたけど、その辺の礼儀は判っているのね」
俺の感情でも分かっているのか、少し意地悪そうな口調と歓心したような表情を見せてきた。
そんな彼女の言動に、やっぱり先生とは似てない、やっぱり嫌いだ、という思いが湧いてくるが、俺は到って冷静に勤めて黙秘を貫く。
そんな俺へと視線を落とし、急に優しく微笑んだ笑みを浮かべて、
「ふっ、そういった所もアノ人に似てるのね。あの子が彼方に思いを寄せるのも理解できてしまうわね」
一人言のように呟いた。
その姿にファラ先生の姿が重なり、不意に心臓が強く脈打ち俺の顔が熱く成るのを感じた。
そんな現象に俺は戸惑いはしたが、
俺は何を考えてるんだよ。全然先生とは似てないじゃないか。
と、思考を切り替えるように首を振って抱いた得体の知れない気持ちを振り払った。
そんな様子に、
「あら? 残念だけど、私は彼方みたいに青臭い餓鬼には興味無いからね」
唇に指をあて、妖艶な雰囲気を醸しだす雌狐が視界に飛び込んできた。
気持ちを振り払った直前の事だった為に再び心臓が脈を打つが、それは違った意味の動悸な気がする。
しかしまぁ年頃の俺にとっては、同年代の女性や身近な女性達からは感じられず向けれる事もないような、年上からの感じた事も無い色香に再び赤面するような動悸も自然な流れでして。
って何を誰に言い訳をしているのかという、訳の分からない思考へと墜ちて行くが、
「これルーズ!! ワシの可愛い弟子を玩具にするでない」
師匠が叱るように声を上げた。
その声に、
「そうでしたねエイズル師。つい、可愛かったものですから」
おどける様子で返事をすると、再び俺へと視線を落とし右手を遣せと手招きして来た。
俺は若干の苛立ちを感じていたが、再び遊ばれる事を警戒して素直に右手を雌狐へと差し出した。
その差し出した俺の手をスルーズは真面目な表情で手に取ると、俺の手の甲に合わせるように右手を重ねる。
そして眼を閉じると小さな言葉で何かを詠唱し始めると、魔力の流れが暖かさに似た感触を右手へと伝え始める。
スルーズの数分間の詠唱と魔力の温もりが終わると思考をするように沈黙し始めるが、
「ふぅ。 彼方は何を怖がっているのかしらね? まぁ強い力に恐怖することは自然な感情だとは理解して上げるけどね」
ゆっくりと眼を開けたと思えば俺の目を見つめながら、唐突に意味の分からない事を口にされた。
その言葉に俺は、
「はぁ? 俺を茶化したと思えば黙ったりして、そして口を開けば俺が怖がってるだ?! いったい如何言った了見だよ!!」
なぜか感情的に言葉を荒げてしまった。
そんな俺の言葉に、
「何も恥ずかしがる必要は無いと思うけど、そうやって感情的に成っている事が図星だってわからないのかしらね?」
冷静に、そして冷たい視線を向けながら俺へと雌狐が言葉を重ねてきた。
その言葉に俺は押し黙ってしまい、
「ルーズ…… お前の気持ちも想いも理解しているが、俺達やヒルトにも判るように説明をしてくれないか?」
それを見兼ねたのか、爺さんがゆっくりとした口調で割って入ってきた。
その行動に、
「はぁ…… どうもこうも無いですよ。師匠達にも私にも、この子が言う紋章が見えない理由は、この子自信が[その魔力]で隠しているからなだけなんですから」
溜息と共に、呆れたように両手を広げる行動を見せて、
「まぁ、あの子がこの程度の事を見逃すとはは思えないから、伝えなかったんでしょうけどね。 まったく、未だに甘さと優しさを履き違えているか、それとも彼が拒絶して言いそびれたのか…… どちらにせよ、本人の問題に私達が口を出すのは野暮だとは思いますね」
続けて、誰かの事を指すかのような言葉を吐き捨てると、それでも?と言いたいように、大げさに俺を指差し、師匠達へと向き直るスルーズ。
彼女の言葉に、
「本当なのか?」
爺さんが驚いたように俺へと視線を送るが、
「本人に聞いても無駄じゃよ。何となくルーズの言葉を聞いて理解したが、無意識での事じゃろうからな。 それよりスランよ、御主はコヤツと一緒に帰っておったんじゃろうが、その時にファラリカ嬢の様子で気付けんかったのか?」
師匠が眉間にシワを寄せながら爺さんへと歩み寄り、肩へと手を置くと首を横に振っていた。
そして俺へと全員の視線が向けられるが誰一人として口を開かずに、どう言葉を掛けたものかという沈黙が起きる。
俺自身も、この状況に戸惑いもあって何を言えば良いのか、それとも発言された内容道理、図星なのが情けなくてなのか、どちらなのかも理解できずにいた。
すると、俺の表情を確認するように、
「まぁ、私はどっちでも良いんだけどね。なんだかファラに任されたような気もしないでもないし、本人がどうしてもと言うのなら力位は貸してあげてもいいわ。 それに……ふっ、これ以上は本当に野暮かしらね」
腰を下ろすと、仕方ないとでも言いた気な言葉を投げかけてきた。
その言葉の最後には、何かを言いかけたが【止めた】と、言葉を切り替えるスルーズ。
彼女の言葉と動作は、
なんだよ、それじゃまるで俺が先生の気持ちに気が付けない鈍感みたいじゃんか
そう伝えているきがして、
「なら……力を貸してよ」
言葉を口にしていた。
すると、
「えぇ?聞こえねいなぁ? なんていったのかしら。お姉さん耳が遠くなったかしらね」
意地悪なのか、それともワザとなか知らないが、おどけた様に聞き返してくる。
そんなルーズの行動に、師匠と爺さんは何か注意するように言葉を言い始めるが、そんな言葉は俺には聞こえず、
「だから……力を貸せって言ってんだよ!! 俺は別に怖くと何とも無いし、先生の気持ちも理解くらいできてるっての」
直情的に感情が口から出ていた。
自分で吐き出しておいてなんだが、吐き出した自分の言葉に驚いてしまい、あっ、と言葉を溢して自分の口を押さえていた。
そして俺はバツが悪い気持ちで目線を師匠達へと向けると、
「その辺は男の子って事なのかしらね。まぁそういった部分もアノ人に似ていて気に入らないけど、当人達がそれで良いのなら干渉はしないけど」
「ふむ…… ワシも違う意味で心配に成るのう。まぁ、確かにその辺は当人同士の問題じゃから口出しはせんが、それが今の流行というもんなのか、それとも……」
「うん? 俺の顔に何か付いているかエイズル? それに如何した二人揃って?何を心配する事が有るんだ? 当人同士とは、ヒルトとフェンリルという魔物の話だろ?」
「はぁ……遺伝ですね」
「ふむ、遺伝じゃな」
等と謎の掛け合いが挟まったが、
「という事で本人の了承もとれたようだから……始めるわ」
不真面目そうな口調が一気に本気の言葉へと変るスルーズ。
その豹変のしかたと、その時の表情に強い威圧を感じて俺は、うろにたじろいだが、
「……ほら、彼方と同じ同属の魔力よ。 好きなだけ呉れて上げるから出て来なさい」
言葉共に魔力を纏い、一気に雷電のへと変化させると電撃を迸らせ始めた。
その俺よりも強い電撃魔法にも驚くが、
≪ほう、強制的に我を呼び出すか面白い。その蛮行に敬意を評して姿を見せてやろう。この雷帝フェンリル姿をな≫
突然直接脳内に届く駄犬の声。
そして、
「なんと!」
「っ!! 雷の狼……だと」
スルーズの発した雷撃は、その声と共に形を狼の姿へと変貌し、体を振るい、電撃音を響かせた。
俺は、こうして現れた駄犬に、
「はぁ? お前……どうやって……」
驚きの声を溢したが、ガタンという物音が起き、
「へぇ……また豪いモノが飛び出て来たものね…… 驚いて……しまったわ」
肩膝を付き、肩で息をするスルーズが目に入っり、
「おい!! 大丈夫かよ」
俺は心配の声を掛け、スルーズへと近寄ったが、
「当たり前で在ろう。我を強引に貴様の体から呼び出したのだ。魔力を使い果たし命を落とさないだけ幸運……いや、それだけの実力者と褒めるべきか」
駄犬が嬉々とした様子に饒舌に言葉発し、
「あら……雷帝に褒められるなんて……光栄ね…… それとも……【神域獣】の【狼王】と、呼んだ方が良いかしら?」
駆け寄った俺を杖代わり身を起しながら、どこか意味深気に言葉を返すスルーズと、理解の速度が全く追い着かない流れへと発展していった。
しかし、そんな事は御構い無しで、
「ほう、その名を知るとは博識な雌で在るな。 そんな貴様が生きて居て助かる。もし貴様が死んでいれば、そこの三匹では話にも成らんで在ったろう」
「そうれはどうかしらね。 私以外にも……」
「今なんと申した? 【神域獣】の【狼王】と言ったか? あの新話の聖獣にして、神の子の名だぞ」
「ほらね。 私以外にも……彼方の存在を知る人も居るのよ」
話が進んで行く。
そして、
「ふん、天界一層族末裔の血を引く者か。道理でコヤツの居心地が良い訳だな。まぁしかし、その様な粗末事を聞きたくて呼び出した訳では在るまい?」
「流石、神の時代から生きているだけあるわね…… そうね、そんな事を聞きたくて呼び出していないわ。私が呼び出した理由は、この馬鹿に、真実と力の使い方を聞くために呼び出したのだから」
「酔狂な者だな……良かろう。 我も此の侭では無駄に時間を浪費し兼ねないからな」
語り始めた真実へと変ってく。
こうしてフェンリルの口から語り始めた真実は、俺が考えていた物よりも絶望的な物だった。
そんな真実の最初に語られた物はフェンリル以外の同一存在についてだ。
それは爺さん曰く神の子や神域獣と呼ばれる存在で、この世に四体の存在しているようで。
その内の二体が、この駄犬こと狼王の雷帝フェンリルと、俺達が討伐し悩み種である魔石の持ち主であった、龍王の黒炎龍である。
そしてその他に、鳳王、玄王、の二体が存在しているらしい。
唯でさえ、この二匹の事で此処まで問題になっているというのに、同じ様な存在が更に二匹が存在し、同じように全員が敵対関係と、本当に手に負えないと思いたくなるような話だった。
しかし、これだけならまだ良かった。
この話には続きが存在し、その内容が神という存在の話だ。
この神と呼ばれる存在は二対がいるようで、フェンリルが話す母と呼ばれる女神と、それに敵対する父と呼ばれる男神の存在だ。
この神は、母に属する狼王と玄王、父に属する龍王と鳳王と、分かれて子を産み争った結果、互いの子に封印されているようなのだが、
もしも、王と呼ばれる子が何らかの原因でバランスを崩し復活すれば世界を巻き込んだ神同士の争いへと発展してしまうという地雷のような存在で、俺を転生させた自称神もだけど、この世界の神はどいつもコイツも碌な物では無いようだった。
そんな頭痛で頭が痛いなんて言葉を言いたくなるような話を終え、次に口にするのは俺と駄犬についてだ。
どうも俺とフェンリルは魔力が同化しているようで、それに伴ってなのか魂までもが繋がっているようなんだ。
そういや、魔力の根源が繋がっているとか言っていたが、この事だったらしい。
そして、繋がった根源と呼ばれる物は切り離す事は出来ないようで、もし俺が死ねばフェンリルに統合され、依代になる別の肉体へと受け継がれるらしいが、万が一にフェンリルが死んでしまうと俺も死に、受け継がれる事もなく魂自体が消滅し、封印のバランスが崩れ父と呼ばれる神が復活するとかいう、俺に何の利益もない状態だった。
しかし更に話を聞くと、現状は俺が主として意識が在るのだが、俺がもしフェンリルの意思に支配されたり、精神が負ければ主導権はフェンリルに移るとか言っている始末で、利益が無いどころか不利益の固まりのとしか言えない、もっと最悪な状態だった。
加えて唯一の利益であるフェンリルの力についてだけど……こいつもまた微妙な話のようで、一時的な魔力の譲渡や貸し借りはフェンリルの意志で如何とでも成るようだが、本当の意味での魔力の行使や解放、更に俺が自由に使うには、俺の精神的な部分やフェンリルとの強い繋がりが必要とかいう有様のようだった。
まぁ例外的に、フェンリルが精神を支配すれば関係は無いとか言うバカな話だそうで、本当に良い事は何にも存在しないような話だ。
そうして話終わったフェンリルは、
「久しき事で話過ぎてしまった。我は再び此の者へと還るとするぞ、呼び出された魔力も当に使い果たしたからな」
その言葉言い終えると、構成していた体を雷撃へと戻し、球状の魔力の固まりに変化した。
そんなフェンリルに、
「待ちなさい!! 最後に一つ。 魔力さえ確保できれば何時でも呼び出す事は可能なんでしょうね?」
スルーズは声を張り上げると、睨むように質問を投げた
そんな高圧的とも言える語気に、
「貴様も、過保護と呼ぶのか……? ふっ、しかし我はそなたも気に入った故、特別にその質問に是と答え、そして付け加えるぞ、もし此の者が真の意味で我と繋がれたのなら、その意に従い何時如何なる時でも姿を現し仕えるとな」
どこか暖かさのような物を感じた言葉を残して、魔力の球体は俺の右手へと吸い込まれるようにして消えた。
それを見届けると、
「そうね、私も過保護なのかもね……」
と小さく囁き、
「さて!! 唯でさえ厄介事を持ち込んでおいて、師匠達はいつまで呆けておられるのですか?」
スルーズは手を打ち鳴らした。
打ち鳴らされて音に、
「おぉすまん…… 想像していた事を遥かに越えた話で……」
「うむ…… しかも神話が事実じゃとはな……」
返事は返すものの、何かを考えたように固まってしまう師匠と爺さんだっが、
「はぁ…… 弟子が可愛いのは理解しますが、本人の問題は本人に任せて、今は我々がやらなければいけない事をするのが優先でしょ」
スルーズのその言葉に、
「確かにそうだな。俺達は俺達にしか出来ない事をするしかないな」
「そうじゃな、あの言葉が真実なら、黒炎龍としての肉体では討伐したが、龍王の魂は再び依代を見つけて生きておるじゃろうし、ここは弟子を信じるしかないのう」
決意を固めるように言葉を出すと、今回の事への対策へと話が進みはじめた。
そんな中、
「あっ丁度良い事を思いついたわ。 本当に困りの種だったけど之で一石二鳥だわ」
スルーズが俺へと悪餓鬼の笑みを向け、
「彼方とその愉快な仲間達は処遇が決まるまで、スラン師の訓練を受けて貰いましょう!!」
意味不明の言葉を思い付きのように口にした。
その意見に師匠達も、
「そうじゃな。それじゃと安心かもしれんな」
「おう! 任せておけ」
と乗り気だが、
「ちょっ、ちょっと待ってくれよ。 いったい何の話をして、何が関係してるんだよ」
俺は話しに全く付いていけずにいたが、
「貴方達さ、夏休み中にガルドで発生した【スヒァーデゥ・ファラエナ】の群れと、その[近縁種]を討伐したでしょ。どこぞの勇者様と言い、天災級の事象を学生が解決したなんていう報告書が来れば馬鹿でも判るでしょ?」
スルーズに、嫌味でも言う様なぶっきら棒な口調で、質問に質問で答える、それを地でするように返された。
俺はそんな彼女質問に、
「はぁ?何で其処にノエルの名前が出てくんの? それに、倒したからって何が問題なんだ? あっそれと天災級って何?」
同じように、質問を質問で返した。
之がいけなかった、
「あぁぁもう!! 問題しかないでしょ!! 彼方達の様に規格外れを普通の子達と一緒の授業に組み込めるはずがないわよね!!」
完全に切れたようで、早口の感情の言葉が跳ね返り、
「これこれ、少しは落ち着きなさいルーズ。 あと御主も、その直ぐに喧嘩越しになるのを如何にかせんか」
それに耐えかねた師匠が注意いすると、
「はぁ…… もう面倒だわ。 ヒルト・レーヴァ!! 貴方は私が直接、座学を含めた魔法学の面倒をみてあげるわ。 他の教員からも苦情が来ていたから丁度良いわ」
溜息を吐き出し、意味不明な事を継げてきた。
俺は後に、自信の短気と、
「あぁぁ? 見れるもんなら見て見やがれ!! それに、魔法も座学も、ファラ先生から既に教わってんだ。今更授業なんて聞いてられるか」
発した言葉に後悔する事になる。
そんな事を思い出して後悔してると、
≪ふん。自業自得という言葉を知っているか? なんでも、自分が行なった事への竹箆返しと言う意味らしいぞ≫
嘲笑うように牙を見せる駄犬の姿と声が脳裏へと写り、
「うるへぇ。俺自信が今それに後悔してるんだっての」
自然に返事を返すと、
≪ほう、知っているならば我の原因では無いで有ろう。しかし何故貴様はアノ女を嫌う? 我はアノ人の子は好意に価すると考えるが? 博識な上に見栄えも悪くわない。 今、我に肉体が有れば番いとして娶っても良いと言うのに≫
とんでも発言がフェンリルの口から帰って来た。
そうそう、あれ以来何故か知らないが駄犬と話せるように成っている。
理由を本人へと聞いてみたが、知らないとの事で意味がわからない。
しかし、キャラが変りすぎじゃないか?てか駄犬ってこんなに喋るかのかよとか、色々思う事も在るが、
「うへぇ……お前の性癖とか女の趣味とか聞きたく無かったよ……」
コイツの発言の方が今の俺にとっては重要だった。
そんな俺の気持ちに、
≪そうか貴様には既に三人もの番いが居たな。しかし、据え膳食わぬはと何とやらで……一度も手を出さぬ所を見るに、気が付いて居らぬか……≫
なにやら訳の判らない事を呟き、トボトボとした様子で俺の深くへと消えていった。
毎回の事だが、人の返事を聞かずに消えるのはどうなのかと、小一時間問い詰めたくなる。
そんな思いで空を見上げ、
「はぁ……変らないモノなんて存在しないか……」
そう、元の世界で誰かに言われた言葉を思い出し、溜息をついた。




