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異世界なのだから最強の剣を求めるのは普通だろ  作者: 雪兎
1章 始まりと学園と青年紀
46/49

第44話 継ぐと想いと命と

一章の終了です。

次回より二章に入り、二学期編になります。

思っていたより長い一学期でした。

 工房内には甲高く金属同士がブツカリ合う音が響き渡る。

 しかし通常の音とは違い、反発しあうような異音が混じり合い、


「うぇぇ…… エイルもう少し早く……反せ。……俺の、タイミングからズレてる……」


 鎚が触れる度に吐き気を感じる程に強い違和感が俺の体へと跳ね返ってくる。

 そんな不快な中、俺はエイルへと吐き気を我慢しながら指示を飛ばす。


 そんな俺に眉を顰め、


「ちょっと休憩しなさい。これ以上は体が持たないわよ。それに……自分の口元と下を見なさいよ。とてもじゃないけど見ていられる状態じゃないわ」


 心配そうに苦言を呈すエイル。


 そんなエイルの言葉の意味は自分自身が一番理解している。

 吐き気に耐え切れず、今までに数度の嘔吐を繰り返し、俺の足元には胃液が撒き散らかされ、口元からも胃液なのか涎なのか判らない液体が垂れている。

 

 それでも俺は皆の協力によって完成した、この紅色の素材の加工を止めるわけにはいかない。

 そんな思いから、肩で息をしながらもエイルへと意思を込めて睨みつける。


 そんな俺に、


「いい加減に――」


 エイルは怒りにも似た感情を込めて言いかけるが、


「ワシが変ろう。今のコヤツに何を言って同じじゃよ。それなら本人が納得がいくまでヤラせる他あるまいて」


 エイルの言葉を静止させ、師匠がそっとエイルの手から素材を奪い取る。


 一瞬、エイルと師匠の間に沈黙が走るが、


「はぁ……判りました……」


 エイルは溜息を吐き出すと背を向けて作業部屋から出て行った。


「……」


 それを無言で師匠は見送ると、


「素材が冷えてしまったのう。ワシが火の守りをしておいてやるから御主は少し休め。そんな状態では満足に鎚は振るえまい」


 そう言い残して素材を炉へと焼べると、無言でその守を始める。


 そんな師匠の後ろ姿に俺は安心して目を閉じ、コレまでの事を思い返した。




 遡ること数時間前、師匠が俺へ、目じりにシワを寄せて柔らかな笑みを見せて呆れた表情を浮かべたてから翌朝。


 俺は、とある人物を朝ぱらから呼びつけていた。

 その人物が付属品を引っ付けて工房の扉を開くなり、


「僕の剣が完成したんだって!!」


 上機嫌そうに声をあげ、


「全く非常識ですは。完成した物を持って来ないうえに、こんな朝早くにノエル様を呼びつけるなんて。ええ、全くもって非常識で無礼で腹立たしいですわ」


 付属品は何やら鼻息を荒げた様子に小言を溢しながら登場し、俺へ背を向ける。


 そんな二人に俺は、


「悪いなノエル。わざわざ取りに来てもらって。本来なら持って行くのが筋なんだろうが、今はそんな余裕が無くてな」


 あっけらかんとした振る舞いで言葉をかえした。


 すると付属品が俺へ振り返り、般若のような形相を向けて何か言おう口を開きかけるが、


「ヘレネー、そんな顔をしないでおくれ。それじゃ、君の美貌が台無しだよ。それにヒルト君は凄く忙しい中、僕のために作ってくれたんだよ。足を運ぶくらい、なんの問題もない事なんだよ」


 ノエルとへレネーは相変わらずのやり取りを始める。


 そんな如何でも良いやり取りを俺は面倒くさいという心地で眺め、くそ如何でも良いやり取りが終わるのを待ち、


「それで、これがお前の剣なんだけどな」


 俺は作業台の上にから一つ武器を手にし、ノエルの前へと差し出す。


 その武器を見ると、二人は目を丸くさせたあと、互いの顔を見合わせてから俺へ向き、


「「ふざけているのか(ますわ)!!」」


 怒鳴り声を上げた。


 まぁこの反応が想定済みな俺は、


「ふざけてなんていないけど? これがお前の為だけの武器だけど」


 いたって冷静にワザとらしく首をかしげて反す。


 そんな俺の、さも当たり前だという態度に二人は、先ほどまでの怒った表情が嘘のように消え、戸惑いからなのか真顔へと変り言葉を失う。


 まぁそうだろう。二人に差し出した武器は、中央に中型の魔石が嵌め込まれ、下部にも小さめの魔石が二つ嵌め込まており、その魔石を囲うようにモールド状の繋ぎ目が有る以外は、持ちも無い縦長の菱型状の薄型立体物でしかなく、とてもじゃないけど剣と呼べない形で、刃も外延部に形上付いているくらいでしかない、盾のような物なのだから。


 そんな単なる菱型の盾のような金属の固まりに魔石が嵌め込まれただけの物を目の前に出され、その上それが自分専用の武器等と言われれば当然反応で、それも当然だと言われればフリーズもするだろう。


 そんな風に俺が冷静に分析しながら見つめていると、フリーズからノエルは再起動したのか、見る見る内に表情が戻り、ワナワナと振るえ始める。


 流石にこのまま放置していては、魔法をブッパされかねないので、


「悪い悪い。この状態は待機状態でな。本来の姿は……こうだ!!」


 俺は謝罪の口上を述べながら、一拍を空けて、掛け声と共にネタバラシを行なう。


 俺が声と共に下部に有る魔石の一つへと指を近付け軽く魔力を流すと、モールド状の継ぎ目の通りに菱型状の塊は音を立てて形が変形し、下部パーツが下へと伸びると持ち手が現れ、左右のパーツは外へとスライドし、中央の魔石を残して平行に広がる。 


 そうして菱型から変形して現した姿は刀身の無い剣……柄部分が出来上がった。


 こうして大仰な変形をしたにも関わらず、刀身が無く、柄部分だけだったのだから当然、


「こんな矮小なカラクリで誤魔化そうなんて……悪ふざけが過ぎますわ!! ノエル様も……何……か……ノエル……様?」


 付属品でロマンや真実を理解できないであろうへレネーが怒り出すのは当たり前だが、


「カッコイイ……」


 俺の予想通り、重度の厨二病を患っているであろうノエルは目を輝かせていた。


 そんなノエルの反応に、俺をキッという擬音が鳴りそうな勢いで睨むへレネーが、俺の視界の端っこに見えたのと、


「まぁ、論より証拠のほうが手っ取り早し、ちょっとそれを持って裏に出て来いよ」


 予想以上に重度の厨二病患者だったようで、変形のカッコ良さ?にウットリして形容し難い独特の悦に浸り、変な所へ行って帰ってこなさそうなノエルの反応に、これ以上の要らない時間をくいたくないと思い、裏の空きスペースへと二人を誘った。


 そんな俺の提案に、渋々といった様子のへレネー、それとは対象的に未だに変な悦に浸りウキウキ気分で変形した武器片手のノエルは、俺の誘導で裏戸から外に出る。


 そして、


「コレの使い方を早く教えてもらえないかい!!」


 外へと出るなり待ちきれないのか、ノエルがキラキラと目を輝かせて変形した菱型を天高らかに振り上げてテンションMAXな状態で騒ぎ始める。


 そんな様子を痛々しい気持ちで俺は一瞥し、


「あぁ……えっと、お前の技……エコソガンバリだっけ?」


 どうも思い出せない、ノエルの必殺技らしい名前を思い出しながら口にすると、


「【光子(フォトン)勝者(イクス)(キャリバー)】!!」


 と、若干切れ気味に技名を呼称するノエル。


 そんなノエルの如何でもいい拘りに俺は興味は無く、


「あぁぁそれそれ。 そのナンチャラキャリバーを使う感じで魔力を流してみろよ。そしたら大体判るはずだから」


 次の段階に手早くいきたいので、大雑把に説明する。


 そんな俺の態度に、再びヘレネーがキツイ視線を飛ばし、本当になんの拘りかは知らないが、技名を適当に言われて切れ気味に何かブツクサとノエルが言っているが、無視。


 俺がノエルの言葉を聞き流していると、


「これ以上言うのも大人気無いですね…… はぁ、今回はコレぐらいにしておきますが、次からは気を付けてください」


 勝手に納得してくれたようなので、


「ああ、わかった」


 ととっと始めろという気持ちで空返事をすると、ノエルは一度頷いてから、


「それではいきますよ。ふぅぅ……【光子(フォトン)勝者(イクス)(キャリバー)】!!」


 良くわからない格好だけの構えを取ると、一呼吸と一拍のタメを作り、技名を叫んだ。


 ノエルの言葉に呼応するように、音を上げて魔石が輝き、開いた先端から光の剣が伸びていく。

 形状はロングソードといった感じで、開いた先端と同等の刃幅の長めの剣といった感じだった。


 俺はその実験内容に、


 まぁこんなもんか。 でもまぁ、やっぱりというか、仕方ないというか、[安定していない]。


 それが俺の感想だった。


 現状でも完成と言って問題ないが、収束率が7~8割り程といった感じで、根元のほうで扇状に広がり光魔法が拡散してしまっている。


  それでも、


「とりあえず、コイツを試しに斬ってみろよ」


 毎度の試し切り用の金属板を設置すると。


「ちょっ!! ……っぶねぇぇ」


 まだ俺が離れていないというのに、ノエルは横薙ぎに光の剣を振りぬいたのだ。

 咄嗟に身を屈めて回避したが、あまりの出来事に驚きすぎて言葉を失い、目を丸くして元凶へと目線をむけると、あからさまに本気だったのが判る眼光を輝かせるノエルの姿が有った。


 直後、


「ッチ……」


 俺の姿を確認すると舌打ちをするのが判った。


 そして俺が文句を言おう立ち上がると、


「いやぁごめん。 いつもの癖でつい振りぬいてしまったよ。 でも、本当に凄い剣だね!! あの鋼鉄の板が真っ二つだなんて!! それに刀身の破損も気にしなくて良いし、なにより全然魔力の消費を感がしないのが良いよ!!」


 謝罪の直後に、真っ二つにした金属板を指差しながら、テンション高く、はしゃぎ始めた。


 その様子に、


 狸が。俺が避けるか避けないかで試しやがったな。 


 と思い、苦笑するが、


「まぁ、お前から受け取った代金なら、それが限界って感じだったよ」


 意趣反しの意味と、これからのサプライズ計画の布石の意思を込めての言葉を返した。


 すると、ノエルの頬が微かに動き、


「うん? えっと僕の聞き間違いじゃないなら、なにか微妙な言い回しのように聞こえたんだけどな。例えば代金不足で、[未完成]って言いたいみたいな」


 掛かった。


 そうノエルの言う通り、あの剣は未だ未完成で、目玉の部分の製作をしていないのだ。


 俺はノエルが俺の想像通りに掛かってくれた事に上機嫌になり、


「いやー、材料費はお前が用意してくれたから無料なんだけどな、その材料の加工が思ってたよりも人手が必要でな……それで加工費がな……師匠とエイルにと、別に俺の人件費はオマケが出来るんだがな、二人の分は如何せんそういった訳にいかないだろ」


 遠まわしに遠まわしに言葉を選びながら話していると、


「本当になんなんですの!! 聞いていればまるで自分達の都合ではないですか!! それに、渡した金額もハディード様にお渡ししているよりも倍以上を支払った筈ですわよ!! それで足りないなんて――」


 我慢が出来ないへレネーが怒鳴るが、


「わかったよ、幾ら足りないんだい? [未完成]でこの威力なんだし[完成]すれば、それはそれは[凄い]物になんるんだろうしね。 それに、こんな[空想的な武器]は君にしか作れない物だろうからね!」


 へレネーの言葉を右手を出して遮り、今まで以上に胡散臭い笑顔を作って、言葉の端々に何か言いたげなモノを込めた喋り方をし始めた。


 今までもそうだが、何か気になる点は多いが、今はそれを気にしていられないので、


「わるいんだが正直、俺は金には全く困っていなくてな」


 本題の方向へと話を切り替える一手を打ち込む。


 そんな俺の言葉にムッとした表情を見せて、何かをノエルとへレネーが口にしようとしたが、俺は指を立てて遮り、続けて、


「お前の体で払って貰おうかぁぁぁ」


 最大限の笑顔を作り、最大限のオーラを放出しながら迫ると、


「「うぁぁぁ!!(いやぁぁぁ!!)」」


 悲壮にも似た叫び声を上げて了承してくれた。



 

 そうして、


「本当にコレだけなんだ……よね?」


 悍ましく、卑猥な物を見るかの様な表情を俺に向けながら、引き攣ったように言葉を出すノエル。


 そんなノエルの様子に、


「ああ、魔力という労働力が必要なだけだからな。それ以外に何かあるか?」


 首をかしげながら返答をするが、俺の態度が気に入らないのか、俺の背後から何やら変な視線を感じるので、再び最大限の笑顔で振り向くと、


「ひっ!」


 蛙が潰されたような鳴き声を上げて尻餅を付くへレネーの姿を確認できた。


 そうやって俺が他愛のないやり取りをしていると、


「全くのう……もう少しは素直に物事を頼めんもんかのう。そのような詐欺師のような事をせずとも、[勇者(ブレイバー)]殿なら、快く快諾してくれたのではないのかのう」


 呆れたように首を振り、溜息を付く師匠が首を傾げていたので、


「そうは言いますが師匠。 俺は面倒事にならないようにしただけですよ」


 もしも普通に頼んで、ノエルの事だから色々と面倒な事を言いかねないと思うから、それを取り除く最善策を講じただけだと返事をするが、師匠は再び溜息を吐き出し俯いて呆れた素振りを見せる。


 そんな師匠に、


「まぁヒルトの言う通り、[勇者(ブレイバー)]様に唯働きをさせた等という事がニルの耳に入れば何を言ってくるか判らんのだからな、そう考えれば良いではないか、エイズルよ」


 若干俺の思っている事とは相違があるが、俺の意見に賛成の様で、慰めるように師匠へと話しかける爺さん。

 

 爺さんの説得?に、


「御主は孫に甘すぎるのではないか? 確かにニルの小僧の耳に入れば面倒なのは理解しておるが、もう少し上手いやり方が有ると思うぞ……」


 肩を落とし、再び大きな溜息を吐く勢いで落胆の色を見せて返事を返す師匠だった。



 そんな師匠とノエルの気苦労を他所に作業が始まる。


 師匠、エイル、フラン、爺さん、ノエルは、坩堝を囲むように並び、手を翳した。

 最初は、俺の事例も有るので、安全を確認をするために少量の魔力を素材へと流し込む。

 そして、全員に異常や違和感が無いかを師匠が確認を取ると、全員何の問題も無いと頷く。


 この結果から、俺の魔力以外には反応せず無害である事もわかった。


 そして安全だと判ると、ノエル、フランの某大な魔力を爺さんの魔力でまとめ、師匠とエイルがその魔力を制御しながら坩堝内の素材へと流し込むという、荒業な作業方式で工程が進み始める。


 しかし、余りにも強大で出力の高い二人の魔力を爺さん一人では抑え切れない様子でエイルが急遽、爺さんのサポートへと周り、師匠一人で魔力制御を行うことになった。


 そして、押さえ込まれた魔力をまるで糸を紡ぐかのように軽やかに操り、押さえ込んでいる爺さんとエイルの魔力までも、いとも簡単に制御し、その全ての魔力を素材へと流し込んで行く。


 [神業] 


 その一言に尽きる師匠の魔力制御技術に息を呑んでしまう。


 そして時が訪れる。


 素材からは、淡く優しい魔力の光を輝かせ、工房内へと、生まれ変わった喜びの産声にもにた甲高いが、優しく柔らかい音を響き渡らせる。

 そうして、魔力の光が収束し、響き渡る音も吸収され、その中から、赤く、紅く、夕焼けにも似たその真紅の輝きを宿した素材が姿を現し始める。

 即座に型へと流し込まれ、インゴトとして形成されるその合金は固まっても尚、その真紅の輝を宿していた。


 そうして、


「ふぅ、何とか成るもんじゃな。 しかし、老体にはちと堪えたぞ。まぁ本来なら魔物合金の製作はこう在るべきなんじゃがな。ワシも弟子に毒され過ぎておるのかの」


 完成と同時に、言葉は軽かったが、師匠はその場に座って天を仰ぎ、


「むぅぅ……もう、なにも出ないよぉぉ。あうぅぅ」


「本当に割りに……遭い……ませんよ…… 僕の、魔力を全て……消費するなん……て」


 フランとノエルは魔力枯渇(マジックフロー)……むしろ、桁外れの魔力量を誇る二人の魔力はスッカラカンで、眠りに落ちるようにその場に倒れ込んだ。


 そして、それだけ桁外れの魔力を抑え込んでいた、


「私も、もう限界……立ってらんないわ」


 エイルは、フラフラとした足取りで木台まで歩き膝を付くと、木台を抱きかかえるようにして突っ伏し、


「俺も限界だな。さすがに歳を取ったと思い知らされたな、エイズルよ」

 

 爺さんも、疲れたようにユックリとした動作で床へと腰を落ち着けて天を仰いだ。


 正直、エイルとフラン、ノエルの反応は理解できる。

 魔力を限界まで酷使してたのだから倒れるのが普通なんだ。


 しかし、師匠と爺さんは異常だろ。

 この二人も魔力を酷使しているはずなのに、なんか大仕事をしただけみたに、ああ疲れたと言った雰囲気で済んでいるなんて。


 そんな風に俺は、この二人の異常性と、師匠の神業な魔力制御技術に驚きと感嘆を覚えていた。


 

 そして、完成したインゴットを俺が加工するのだが、当然、


「やはりワシがおこなう。今ので理解したが、この素材は御主のことを憎悪をしておる。合金化したことで多少の変化は在るじゃろうが、それでもヒルト御主に触れさせるわけにはいかん」


 師匠は反対だと、俺を止めに入るが、


「わかっています。 でも、これは俺の仕事です。 それに、信じてるって言ったでしょ。それに、せっかく皆の魔力を込めて完成したんです。それにもし……少しでも黒炎龍(フレアドラゴン)の怨念みたいなのが残っているのなら尚のこと、俺にしか消し去る事は出来ないでしょ」


 なんだか今まで以上に、義務感や宿命みたいなものを感じ、そして、それ以上に皆に対する感謝や信頼に答えたいという思いが湧いていた。


 それでも心配そうに俺を制止さようと宥める師匠だったが、俺はそれを振り切って強引に作業を始めた。


 結果的に師匠の言っていた事は当っていたようで、作業を始め、魔力を流し、鎚を振るう度に、憎悪の感情が込められた何かが俺へと跳ね返ってきたのだ。 


 それでも皆の魔力のおかげなのか、魔力融解の時のような強い憎悪の力は、もう存在しなかった。


 そして、俺がそんな憎悪の何かに耐えて鎚を振るっていくと、その何かは徐々に弱くなっていくのがわかった。

 しかし、弱くなると言っても依然として強く揺さぶるような憎悪の波動に、最初こそ耐えて一人で鎚を振るい続けたが、精神的にも肉体的にもその波動に耐えれずに嘔吐し、それでも鎚を振るう俺を心配してなのか、鍛造音に眼が覚めたエイルが素材に魔力を流し合いの手役を買って出てきて手伝い始めてくれた。


  そして、冒頭の状態に成るという事だ。



 

 そうやって眼を閉じ、半分寝たような状態で回想していると、


「ヒルトや、始めるかのう」


 そう声が聞こえ、眼を開けると、優しく、でも辛そうな表情で俺を起してくれる師匠の姿が有った。


 

 それからは、憎悪する何かが消えるまで鎚を振り続けた。


 一筋縄でいかなかったけど、数度の嘔吐と、数千、数万の鍛造を繰り返し漸く、


「出来た…… あとは……意思を継がす……だけ」


 目の前には透き通った真紅の輝きを宿したモノが完成していた。


 

 当然、俺の意識は深い闇の中へと沈んでいく。


 しかし、そんな俺をフワフワとした温もりが暖かく、そして優しく包み込んでいく感覚と、


「本当に貴様は頑固者だ。しかし、貴様のその頑固な優しさは気に入った」


 何者かの声が聞こえ、その声に何故か安堵して俺は眠りへとついた。






 そして、体を包み込む、また違う温かな光を感じ、


「うぅぅ、暖かい…… あれ?俺は……頭いてぇぇ」」


 視界が開けていき、薄っすらとした明るさを感じるが、急激な頭痛を感じ再び強く瞼を閉ざすと、


「起きたのね。本当にアンタは強情なんだから…… 少しは心配する私の身にもなりなさいよ」


 安心したような声色をしたエイルの声が聞こえ、


「エイルか? 悪いな、お前も未だ完全には魔力が回復してないのに治癒魔法を使わしちまって。あと、毎回毎回、起きる度にお前の膝枕だな俺」


 頭痛が少しだけ治まり、薄っすらと明けた視界の先にあるエイルのを確認した俺は、照れ隠しの意味と共に、毎回気絶する度に膝枕をしてくれているエイルへの感謝を込めて話しながら、ゆっくりと上半身を起き上がらせた。


 そして回りを見渡すと、相変わらずノエルとフランは魔力切れの疲労からか、眠っている。

 まぁエイルか師匠か爺さんが二人を介抱したんだろけど、ちゃんと木台を集めた即席のベットの上に寝ている。


 そして師匠も、俺に付きっ切りでサポートをしていた影響なのか、木台に座って寝ている。


 こうして俺が周囲を確認して安堵していると、


「悪いと思ってるなら無茶ばかりしないでよね。 それに、アンタだから――」


 背後からエイルが少し怒ったような言葉を発し、なにか恥ずかしそうに小声で言いかけたが、


「おお!! 丁度良い頃合だったようだな。ほら淹れたてだ、熱いからゆっくり飲むといい」


 爺さんが人数分の湯のみを乗せたお盆片手に工房へと降りてき、俺へとお茶を差し出した。


 そして、爺さんはお盆を机へと置くと、順番に皆を起こし始めた。


 その間、なにやらエイルは不機嫌そうで、俺が爺さんの登場で聞き取れなかった言葉を聞き返しても、知らないと一蹴して、なにか「良い頃合よ、もー」と、小言を言い続けていた。


 そして全員が起きると、全員で爺さんの淹れたお茶を飲みながら少しだけ話し、未だに魔力が疲弊していたノエルとフランは爺さんが家へと送る流れとなり、三人は帰って行った。



 そして、俺達は再びグランの剣の加工を始めた。


 もう憎悪の様な何かを発する事の無くなった素材は、ゆっくりと形を変えていき、二枚の厚板状へと加工され、割り込みの段階に入る。


 そう、あの日の約束である、グランの父、ヴェードさんの剣を芯金として新たな命を吹き込む作業だ。


 本来なら、剣その物を芯金として使うという事はしない。

 

 芯金の役割は撓りの強い素材を中心に挟み込む事で、強固で硬い皮金が折れず、曲がらず、弾性を持たせる為に挟み込むからだ。

 所謂、バネと緩衝材のような物だ。


 しかし今回は、既に完成された剣であり、芯金と皮金が既に合わさった状態の物を芯金として使う。


 だから、


 先ずは、紅の素材の厚板に掘り込みを入れていく。

 完全にヴェードさんの剣と同じ形で密着できるように成るように彫っていく。

 コンマ数ミリという誤差すら許されない。


 そして、そんな精神力と気力の両方を磨り減らす作業を経て、ヴェードさんの剣を紅の素材で挟み、固定した後、加熱していく。

 加熱された二つの素材は灼赤していき、融解一歩手前まで温度が上がる。

 

 こうして熱間鍛造作業により圧着され、引き伸ばしを経て、二本分の長さまで叩き延べていくことになる。


 しかし、此の作業でも神経をすり減らす。 それは芯金として挟み込まれている剣の厚みだ。

 ただでさえ、完成した状態の剣は芯金素材としては薄いのに、考え無しに二倍の長さまで延ばしてしまうと芯金としての役目を果たさなくなってしまうからだ。


 この見えない状態で、芯金の剣の厚みが最小限の変化に留まるよう抑えながら、延ばされた素材は、エイルの手によって2分割され、余分な部分を切り落とし、再び俺の手によって剣の形へと加工されていく。


 こうして出来上がった刀身は再び色を変え、朝焼けのような本当に透き通った真紅の輝きを放ち始めた。


 そして、


「完成!! 本当にグランの為の剣って感じだな」


「圧巻じゃな」


 全ての工程を終え、組み付けられた剣を見て、師匠と俺は其々の感想を口にした。


 完成された、グランのための剣。

 その姿は、紅色に染まった反りの無い(カタナ)

 鎬には、師匠の手によって掘り込まれた梵字(ヒエログリフ)が並び、そして柄は、


「てかエイル。お前の作った柄な……もう少し色気を出せよな。まったく、体に似合わず実直というか、真面目すぎるというか、質素すぎんだろ」


「五月蝿いわね!! アンタみたいに変な事をするよりはマシじゃないのよ」


 エイルが作り上げた、サーベルの様に、柄とガードが一体化されたグリップが取り付けられている。

 エイルのグリップは、飾り気は無いものの、グランの剣術の型に合わせ、逆手持ちで使い易いように工夫された、謹厳実直という言葉がピッタリな出来栄えだった。


 ほんとうに、エイルの作る物は本人とは正反対だ。


「ぶぅぅ。僕も手伝ってエイルちゃんが一生懸命作ったのに…… そんな事を言うなんて、ヒルト君、酷いよぉ」


 そうそう、フランもエイルを手伝ってたな。 

 

「「ねぇぇ。酷いよね」」


 こうして、皆の手によって完成した双子剣。


 刀身に、TMZ合金*にタングステンを添加した特別製の耐火合金と黒炎龍(フレアドラゴン)の素材による最強の強度と耐火性を誇る、魔物合金。

 そして、ヴェードさんの剣の命を引き継いだ、俺達がグランのためだけに完成させた最強の剣。


 名付けるなら、


 【グラン・アルヴートロ】

 

 だろうか。


 そう思い完成後に、皆の了承を得て二つの言葉を(なかご)へ、


 『the bond of friendship/Blacksmith』『Take over the will of Vade's』

 

 印した。



 一時はどうなるかと思われたが、無事にグランの手に渡ったアイツだけの最強の剣。

 二振りの剣を握り締めたグランの表情は、何か暖かく、でも何所か寂しそうな、そんな、温かな表情をしていた。


 

 そして俺達は、長く、短かった、怒涛の一学期を終え。


 再び始まる、二学期へと突入していくのだった。


 


 

 …… うん? 何か忘れてるって?


 それについては次回……














※TZM合金  チタン-ジルコニウム-モリブデン合金を略してTZMと呼ばれるもので、耐火金属としてロケットノズル、炉構造部品として用いられている合金となります。

 まぁ今回はタングステンも加えていますが、現実世界では焼結合金または粉末合金とかに分類される合金素材となるので、TZM合金と表記しています。

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