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異世界なのだから最強の剣を求めるのは普通だろ  作者: 雪兎
1章 始まりと学園と青年紀
42/49

第40話 奇跡と間違えと報告書と

「……終わらない……」


 俺は途方もない数の剣や槍、果は杖に到る有りと有らゆる武器という武器に埋もれながら渾身の力で一言を溢した。


 本当に作業をするのがやっとという空間を除いて工房内はギッシリと武器が並び、作業以外の身動きをとる事が困難なうえ、作業を終えた武器を並べておく隙間すらない。

 なぜこんな状況に陥っているのかと言うと、ドラゴンの素材が倉庫を圧迫しているといのも一つの要因なのだが……なのだが……


「すまん!この武器も我々では対処できないほどに損傷していて使い物に成らない。次の出撃までにどうか修繕を――」


「うるさぁぁぁい!! 見てわからんか!? 話なんぞしてる暇なぞないわ!! 武器だけ置いて、そこに並んでいる剣を持ってとっと帰れ!! 


 まただ…… 今日もこれで10組目……


 俺が帰って来てから3日間こんな調子で取っ替え引っ替えと、修理された武器の変りに壊れた武器が持ち込まれている。

 その原因は、俺達が【皇偽餓蟲種(ナスィコーマイ・バシレウス)】との戦闘を終え、帝都へと帰るまでに期間までに遡る。

 



 そう俺達が後処理と修行を行なっている頃、帝都でも異変に見舞われていたようだ……?


 その異変は、温かな日差しと鳥一匹鳴かない静かな昼間に、


「ふあぁぁ、今日は静かで…… っ!! 南方の森より魔物多数!! 種族は……なっ……に…… 」

 

 監視塔の上で欠伸混じりに警戒していた歩哨に付く衛士だっが、何の前触れもなく現れた魔物の一団に警鐘の声を上げ続く言葉を発しようとするが、目の前に映る光景に自信の目を疑い言葉を失う。

 

 その様子に防衛の衛士の一人が、

 

「おい歩哨!! どの魔物が現れたってんだよ!?。中途半端な仕事をすんな、命を張るのは俺達なんだ! さっさと報告しろ!!」


 怒号を上げる。


 その怒号に歩哨の衛士は狼狽えた様子で監視塔から下を除き込むと、

 

「ま……魔物の……魔物の種類は……」


 口をパクパクと震えた唇を震わせて、精一杯といった具合の言葉を発する。


 そんな様子と下から見ても判るほどの歩哨衛士の顔色の悪さに怒号を上げた衛士は、壁一枚隔てた向こうで起こっている得体の知れない最悪に恐怖を覚えた。


 その感情と同時に、


「もっ……森に住む保々全ての種族が一斉に帝都へ向けて進行!!」


響き渡ったその言葉に、その場に居た衛士全員は凍てついた空気を吸い込んだ様に言葉を失い、時が氷付いたような静けさと、重たい空気が彼を包みこんだ。

 

 しかし、


「伝令を走らせろ、急げ!! 貴様等!!何をぼさっとしてやがる!! 今が、俺達衛士がただ飯喰らいじゃない所を見せる時だろ!! 武器を持て、隊列を組み愚かな魔物共に帝都へと観光しに来た事を後悔させてやれ!! それにな、今ここで動けない愚か者は、この俺が魔物以上の後悔をくれてやる。感謝しやがれ!!」

 

 詰所よりマントを翻し現れた一人の衛士の声が響き渡ると、その場にいた全衛士達はハッとした表情を浮かべたのち、


 「「「「「「「「「「「「ウォォォォ」」」」」」」」」」」」」


 雄叫びを一つ上げると慌しく、しかし的確に行動を開始する。


 ある者達は弓を手に城壁を駆け上がり、ある者達は剣と盾を担ぎ門の前へと駆け集まり、足の速い者達は伝令と救援のために駆け抜けて行った。 

  

 その様子に、


「ふっ、やりゃあ出来るじゃねぇか…… 城門開け!! 前衛は小隊を組め、最小単位は4機1(シュヴァルム)!!陣は衡軛(ダブルライン)!! 弓、法術は城壁上部で方陣(チェンジバトン)で待機。前衛が先頭接敵と同時に後方の一団へ全力でぶち込んでやれ!!味方に当てるなよ!! オラァァ全隊出撃だぁぁ!!」


 一瞬の感傷を口にしたのち、すぐさま気持ちを切り替えて声を張り上げ指揮を飛ばすと、誰よりも早く戦場へと飛び出していくのだった。


「衛士長に続けェェ」


「「「「「「「「オォォォォ」」」」」」」」 


 そんな彼の後ろ姿に勇気を取り戻した衛士の一団は、彼に続けて城門から飛び出していく。

 



 


 戦場を誰よりも強く、勇ましく戦い、部下を鼓舞する衛士長の姿に誰一人として勝利を疑わず、剣を振るい、槍を突き、弓を引き、法術を放ち、眼前の魔物の群れを蹴散らしていく。

 

 しかし……


 人の心とは、人の身体とは、決して強くなく…… 折れやすい……

 

 最初こそ士気も高く勇ましく戦う衛士だったが、心だけでは、身体の強さだけでは、数の謀略と種の存続をかけて一匹でも生き残ろうとする自然の意志の前には余りにもチッポケな存在で、吹けば飛んでしまうような軽い物でしかなかった。

 

 幾ら数を減らそうとも、後続を断とうとしても、一向に減る気配を見せず、押し寄せる黒い波の一団の前に、後方では魔力も矢も底を尽き支援を行なえず、前衛は疲弊と無尽蔵の恐怖に一人また一人と膝を着き黒い波に飲み込まる。


 【絶望】


 その一言が、生き残りまだ抵抗する衛士達を侵食するには時間は要らないだろう。


 しかし、それでもと抗い続け、飲み込まれる部下を一人でも救おうと奔走し、剣を振るい、魔力の限界を、気力の限界を、命という炎と引き換えに燃やし続けて戦う一人の男。

 

 そんな男が、


「お前等…… 逃げろ……」


 弱々しく言葉を溢した。

 

 そして何かを決意すると、歯を一度食いしばり、


「貴様等は生き……生きて城門の守りを固めるんだ!! 撤退までの時間は俺か稼ぐ。急げェェェ!!」


 声を張り上げて、生き残った部下へと命令を飛ばした


 責任? 義務? それとも…… どの言葉を当てはめても正解は無いだろう。  


 そんな彼の感情が篭った言葉に、膝を着き項垂れて唯込まれ死を待つだけだった者達は顔を上げて、男の背中を目にする。 

 

 言葉も出ずに、その男の背中に涙が流れ、言葉の意味を知り、ほんの少しでも意志を継ごうとズタボロの身体を引きずる。 

 そんな仲間を、男を守ろうと、無い魔力を燃やし再び立ち上がり法を放つ魔法師。

 そして矢も尽き、ただ絶望していた弓兵も城壁から飛び降り、素手を振り、ボロボロの仲間を守り始める。

 

 そんな彼等の奮闘で生き残った数名の前衛は城門内へとたどり着けた。


そして、


「衛士長!!」


城門から一人の衛士が男に向かって叫び、何かを伝える。


しかし、そんな叫びは虚しく……声は届かぬまま黒き波は男を呑み込んでいく…… 




 かに思えたが、


 【奇跡】


 その言葉はただ待っていても、ただ願ったとしても決して起きない。

 その言葉は、努力し、行動し、種を蒔いた時にこそ舞い降りる、一瞬の出来事なのだから。


 その言葉を誰が言ったのか、誰が残したのかは知らないが、その言葉が今芽吹く。


 全員が男の死を覚悟し顔を伏せるが、一瞬の閃光が輝き、轟音を上げて爆ぜる。


 その場で絶望していた衛士達だったが、目の前で起きた奇跡に目を疑い、巻き上がった砂煙で揺れる影に、


 「……なっ何が……起きたんだ?」


 動揺の言葉が漏れるが、


「間に合ったようですわね。さぁ今は、あの方にお任せして貴方達は此方へ。治癒魔法を掛けますので」


 一人の女性が登場した事で、


「貴女は……ヘレネー・ニーヴ・バートリー様!! と、いう事は!!」


 へレネーだと理解し、嬉々とした表情で砂煙立つ戦場へと顔を向ける。


 その声が風を呼んだのか風が流れ、徐々に砂煙が晴れていくと、はっきりと見える姿。 

 そして、魔物の波に呑まれ絶望的と思われた男の無事な姿に、


「ブレイ……勇者(ブレイバー)様!! あぁぁ奇跡だ……」


 そう感嘆の言葉を上げ安堵から、その場にへたり込んだ。


 ―――著 ニル・ゼスト・ネグローリ  魔物の異常襲来事件1章 報告書より―――



 はぁぁぁ…… 何回読んでも馬鹿げた話だよな…… そもそも報告書なんだよなこれ?何で語部調なんだよ?いやむしろ1章って、何章まで書くつもりだよ。 はぁぁぁ…… それに、この国に衛士長なんて呼ばれる立場の人間は、お前と爺さんと帝王直属の近衛長だけだろが。誰だよこのイケメンはよう。


 俺は溜息混じりに、持ち込まれた箱に貼付されてあった封書を読み終えると、またか、という気持ちで封書をポイ捨てし、自分の作業スペースへと剣やら武器が詰まった箱を運んだ。


 因みにこの封書は衛士隊からの箱全てに貼付されてある。 


 まぁ国から修理依頼だから書類上必要なのだろうが……ぶっちゃけシツコイ……



 だがこの書類?報告書?に書かれている事は強ち間違いという訳ではなく、誇張表現や意味不明な部分を除けば事実であり、帝都近郊の森から数種類の魔物の群れが出現、数もかなりの規模だったらしく爺さん直属の隊が対応、対処したが、城壁直前まで追い込まれる程に苦戦したらしい。

 そして、増援にニル・ゼスト・ネグローリの隊が駆けつけるも無意味……むしろ邪魔になり被害が拡大。

 結果的に、国からの依頼で駆けつけた冒険者ギルドの面々の方が優秀だったらしく、なんとか均衡状態まで押し返したらしい。

  

 それに、ノエルについてだが、事実は半々という所だろうが、なんとも良いタイミングで駆けつけ、お得意の魔法で魔物を一掃したらしい。

 

 まぁこんな感じの事が2日ほど続いたようだが、どうにか魔物の群れは退けたらしいし。


 これだけの戦闘が起きた後に、俺達、鍛冶職人が忙しいのは仕方のない事だし、修理依頼が多いという事は、今回の件では死者が少なかったということだ。

 

 なぜなら、死者が多ければ武具は個人所有の事が大半のため、遺体と共に埋葬されるか、遺族の元に届けられるから、修理という名目で鍛冶師の下へ届く事が無いからだ。

 

 その事だけを思えば、こんな忙しさは小さな事だ。






 事のはずなんだけど……ね…… 


「いつになったらノエル様の剣は完成するのよ!!」


 工房の扉が突然開くと同時に甲高い馬鹿の声が響き渡る。

 

 そして、それに続くように、


「へレネー、ヒルト君はごらんの通り忙しいんだよ。僕の武器の完成が遅れるのは仕方ないんだから、そんなに怒るような事じゃないよ。それに、君には笑顔の方が似合うんだから、笑っていて欲しいな」


 ゆっくりと、落ち着いた雰囲気で声を掛けながら工房へと入ってくるノエル。


 だが、言葉とは裏腹にコイツの目線は注文の武器を探すように、工房内を舐め回すように探っていた。


 俺はそんな二人に呆れたという感情を抱きつつも、


「あぁぁ悪いな、今日も未だ取り掛かれていないんだよ。早く作ってやりたいのは山々なんだけどな、ノエルの言う通り、ごらんの有様でな。国からの修理依頼が後を絶たなくてさ、いつになるか分からんのよ。だから待ってもらうしかないんだよな。あっもし急ぎなら良い鍛冶師を紹介するけど……」


 俺は営業スマイルで、ウザイ、面倒、様々な感情を隠しながら、定型文を口から述べる。


 しかし、そんな俺の言葉に、


「ノエル様はお優しすぎます!! 一介の衛士の武器よりも、勇者(ブレイバー)であるノエル様の武器を優先すべきなのですよ! それなのに、ノエル様がお優しすぎるから胡坐緒かいてるんですわ。それに、この男は武器の性能だけでノエル様に……優位だから、もしも同じ性能の武器を持ったノエル様に負けるのが怖くて、このように他の鍛冶師をなどと言いながら、のらりくらりと言い訳をして、作る気すら無いのです。それなのに、どうしてノエル様はこの様な惰鍛冶師に拘るのですか?」


 噛み付くように俺を指差し、キーキーと喚き始める。


 まぁ毎度毎度ここへ来る度に聞いている言葉なので何とも思わないが、何故という部分には同意する。こいつの武器制作は基本的に、師匠と双璧をなすと言われるほどの鍛冶師が製作していた物のはずだ、確実に俺が造る物よりは技術的には上だし、師匠と違い、大勢の弟子を取っているので人数も多く、こういった国からの修理依頼なんかはそいつらが行なうから、その人自体は手が空いていて着手も早いはずなのに何故かコイツは俺に依頼して、こうして5日間、毎日ようす伺いに来やがる。 心底ひまなのかと言いたいし、どういった了見なのかと問いたいが、


「君が僕の事を思って心配してくれるのは凄く嬉しいよ。でもね、ヒルト君は君が言うみたいに、優位とか勝ち負けで手を抜くような職人でも剣士でもないよ。それにね僕の武器を作ってくださった、ハディード様、彼の師でハディード様と並び立つ職人のエイズル様、彼等とヒルト君は肩を並べるほどに卓越した職人だと言われているんだ。だから僕が彼に製作を頼むことは何にも不思議な事ではないよ」


 キーキーと喚くへレネーを宥めるように饒舌に語りながらも、俺に「だよね?」と言いた気な雰囲気をぶつけてくる。

 

 これも毎回の事だが、疑問にまったく答える気が無いというか、核心を言う気は無いような言い回しで、褒め殺しで有耶無耶にしようとしているのが見え見えなのだ。


 かと言って直接、何でだと言うのも、俺の鍛冶師としてのプライドが許さないというか、聞いてもどうせ的もには答えないだろうし、それに、


「いやいや、師匠やハディード様と俺が肩を並べるなんて事はねぇよ。技術、経験、魔法加工、どれをとっても二人には敵うはずないだろ。それに、俺の武器が評価されているのは物珍しさからだからな」


 こう答えると、


「そうかな? 僕はそう思わないし、それ以外なら、君は二人に勝ってるって思ってるでしょ?」


 こんな風に変な深読みをした回答が帰って来る。


 いい加減こんな押し問答と、ウザイ事からは、おさらばしたいのだが……良い断り方はない物か……


 そんな風に頭痛が痛いと言いたくなるような状態に悩んでいたら、再び扉が開く大きな音と、武器類が倒れた金属音が響き、


「うわぁ!! なんでこんなに散らかってんだよ。鍛冶場は鍛冶師の聖域じゃなかったのか?って、そんな事言ってる場合じゃなかった…… 悪いヒルト!壊れた」


 グランが、なんの悪びれる様子も無く、ボロボロの剣を片手に差し出しながら状況も考えずに登場した。


 俺はそんな耐え切れない状況に、


「……どいつもコイツも……いい加減に……しやがれぇぇぇぇ!!」


 切れた。


 このクソ忙しい時に次から次へとって……


「ふぇぇ、ごめんなさいヒルト君。僕のも壊れちゃって…… うぅぅ」


 グランの後ろで小さくなって呟いたフランに気がついて、俺の怒りは向ける方向を失ったことで、


 フラン……お前もか…… なぁぁぁ!! どうしろってんだよぉぉぉ


 嘆きへと変化し、俺はその場に膝から崩れて土下座状態で突っ伏した。




 しかし、そんな俺の嘆きに、


「騒がしいぞ! 遊んでいる暇が有るならのう……っ? はぁ……御主も忙しいということかのう。こればかりは仕方ないのう……」


 希望の言葉が頭の上から降注ぎ、肩から温かな温もりが伝わり、振り向くと其処には師匠の優しそうな笑顔があった。

 俺はその温かな笑顔から安堵の、


「師匠……」


 と言葉を溢した。


 


 が、


「修理依頼はワシの方でやっておくからのう。御主はノエル殿とグラン君の新たな武器の制作とフランちゃんの武器の修理をせい。そうじゃ、あと武器の手入れの方法や簡単な修繕方法も教えてやるんじゃぞ」


 その言葉に俺は、


「無理無理無理っムリィィィィ!! 師匠それだけはどうか……どうか御慈悲を……」


 あるトラウマから首をふりながら師匠の脚にしがみ付いた。


 そんな俺の行動に何が?という風に首を傾げて、


「なんじゃ?武器の制作と修繕くらい容易かろうに?何をそんなに嫌がる事があるんじゃ? のう?」


 怪訝そうに俺へ言いながら、最後にその場に居る全員に同意を得るかのように疑問を投げかける。


 すると、


「そうよ。これでノエル様の武器に集中できると言うのに何が嫌だと言うのでしょうか」


「そんなに僕の剣を作るのが嫌なのかい?」


 と、無関係の二人は答えを返したが、  


「「……っ」」


 俺が必死で嫌がる元凶を作った二人が目を逸らした事で、


「なんじゃ?何があったんじゃ?」


 何かに気がついた師匠が、余計に不思議だという感じで何が有ったのかと尋ねてきたが、


「本っ当うぅぅぅにお願いします。修繕指導だけはどうか…… 依頼の修繕はしますから、どうか、どうか指導だけは……」


 取り乱した状態の俺はその言葉を言うのが限界だった。


 俺の取り乱しように、


「ふんーむ。修繕指導も鍛冶師としての仕事なんじゃがのう…… しかし、其処まで嫌がる所をみるとよほど教えるのが嫌なんじゃな。たしかに御主は、口で教えるのが下手じゃから何か有ったんじゃろうな」


 数度首を横に振ると、呆れと諦めを含んだ表情と口調で師匠は何かを理解してくれた。


 しかし、


「まぁしかし、良い機会じゃ。ワシが指導の仕方をみせてやろう。 依頼の修繕は一段落してから急げば良いんじゃからな」


 そう続けて、とんでもない事を口にした。


 俺は、何とか止めようと言葉を言おうとしたが、


「本当ですか? エイズル様に教われるなら何とかなりそうな気がします」


「ふぇ! 良いんでしょうか? 僕達のためにお忙しいのに…… でも、ヒルト君に頼りっきりなのも嫌だし……」


「よいよい。ヒルトに指導の仕方を教えてやる良い機会じゃて。それに、簡易じゃが、手入れや修繕方法を学べば、いざという時に役立つじゃろうて」


「何だか楽しそうだね。それに僕は良く武器を破損させちゃうから、教わっておいても損はなさそうだね」


「べっ別に私は学ぶ必要など無いのですけど、ノエル様の役に立つ知識なら受けても良さそうですわね」


 時既に遅し。


 話は進んでしまい、元凶の二人と、これから被害に遭う事を知らないノエルとへレネー、そして師匠は奥の師匠用作業スペースへと消えて行った。


 はぁ……行きたくない……


 そう心で呟きながらも、行かないという選択肢は俺には存在しない事を理解していたので重たい足を進める覚悟を決めようとしていたが、そこでフとした事に気が付いた。


 それは、この状況というより人数が足りないという違和感を感じたのだ。

 普段なら、この人選ならばあと二人……


 そう首を傾げた時だ、


「アンタは本当に人と話すのが苦手というか、意志を伝えるのが下手よね。 剣術の修行より、会話の修行をした方が良いんじゃない?」


「エイル殿の言うとおりですな。ヒルト殿はもう少し意思疎通について勉学に励まれた方が今後とも良いと思いますな。毎回思うのですが、言葉が抽象的といいますか、大事な事が抜けているのではと思いますね」


 もの足りないと思っていたピースが埋まる声が届き、


「エイル!! それに――」


 二人の名前を呼ぼうとした時だ。


 師匠の作業スペースの方からエゲツナイ爆発音と金属が潰れたような何とも言えない音が鳴り響き、


「ぬわぁぁぁぁぁぁ」


 師匠の悲鳴にも似た断末魔が聞こえて来た。


 その惨音に、


「やっぱり師匠でも無理だったか……」


 そう俺は呟いていた。


 そんな俺の呟きを聞いてか、惨音を聞いてなのか、


「えっ? なに? 今凄く大変な音が聞こえたんだけど? それにエイズル様の悲鳴?みたいなのも聞こえたんだけど。 アンタ……何かしたの?」


「お二人とも、何をしておられるんですか!? 急ぎ状況の確認と救出を!! ノエル様!!!」


 エイルは何故か俺が原因だと言いたげに、目を丸くしながらも俺を見、ハルトは慌てたように音のした作業スペースの方へと走って行った。


 正直俺は師匠や巻き込まれた二人の心配よりも、この後の片付けの事の方が気がかりで仕方なかった。

 

 まぁそれでも行かない訳にもいかないというか、エイルが居てくれて助かるというか……

 そんな複雑な気分で、


「悪いなエイル。治癒魔法と後片付けを手伝ってくれないか? だから俺は嫌だったんだよな……」


 エイルに声をかけてから、作業スペースへと肩を落として歩みを進めた。


 そんな俺の回答になってない回答に、


「ちょっと! ちゃんと答えなさいよ」


 少し怒ったような感情と、理解できない俺の行動に驚きながら俺を追いかけて作業スペースへと来た。



「あー……酷いな……」


 俺は作業スペースへと入るなり、目の前の惨状に言葉をこぼした。


 そして、


「何なのよこれ!? って! エイズル様、大丈夫ですか?」


 続けて入って来たエイルは、この惨状に驚きながらも、吹き飛ばされ壁にめり込んだのであろう師匠に即座に駆け寄り、治療を施し始めた。


 正直俺も、どうやればこんな事に成るのかと言いたい、小一時間、問いただしたい所だが、


「被害者は師匠だけか? 他の皆は……」


「ノエル様ぁぁぁぁ!!」


「そんな訳ないか……」


 現状確認を優先して声をだはしたが、ハルトの叫び声に、やっぱりそんな事は無かったかと頭痛がした。


 そんな頭痛のなか辺りを見渡すと、案の定最悪な状態だ。


 被害者はノエルに師匠が大惨事、作業スペースに置いてあった依頼品やら機材、道具類も大損害といった状況で、なぜか無傷だが髪の毛がボンバヘ状態のへレネーが呆然とヘタリ込んでいるのも確認できる。

 そして、元凶の二人は……


「やっぱり……修理とかはお前に任せるよ……ヒルト」


「はわわわわ。ごめんさない!! ごめんなさいぃぃぃ」


 反省の色は……有るのかな一応…… 的な感じで、グランは引き攣った様子で俺を見つけると声をかけてき、フランはどうして良いのか判らずに泣きながら謝っていた。


 俺はそんな中、眉間を押さえながら過去に起きた事を振り返る。


 それはエイルと出会う少し前、一度だけ二人に修繕や手入れの仕方を教えた事があったんだ。


 その時も理由はわからないが、グランが弄ると武器は灼火し、内部から破裂してしまうわ、フランに弄らせると武器は拉げ、圧力から爆発と、今回のような大惨事を引き起こして、宿の一部を損壊させている。 

  

 それ以来、本来持ち主が行なう手入れも簡易な修繕に到るまで全て俺が行なうようにしていた。

 

 だが俺の中にも、教え方が悪かったなとか、一気に教えすぎてたのか、手順が悪かったのかな、という反省していた時期もあったが、今回の件でハッキリした。

 二度と、この二人に手入れや修繕を行なわせては成らないということだ。それでけは確実に正解だったという事実がな。


 俺は、そんな事を考えながら気持ちを落ち着かせて、この後の事を考えていたら、


「すまぬヒルト。あの二人には、このワシでも指導をする事はできんかったようじゃ…… 今後二度と同じ過ちを繰り返してはならん……お前が面倒を……ガク……」


 治療で意識を取り戻したのか、師匠が声を振り絞るように言葉を伝えて来るが、精神的なショックからなのか、肉体的なダメージの限界だったのか……最後に項垂れた。


 そんな師匠の姿に、


「エイズル様!? ヒルト、エイズル様が、どうしよう!?」

 

 エイルが慌てて俺に助けを求めてきたが、


「師匠なら大丈夫じゃね? きっと過労で寝てるだけだろうから、そのまま寝かせといてくれ。 それより、エイル片付けを手伝ってくれ……このままじゃ作業も何にもできないからさ。 ってグラン!!お前も手伝え!!原因なんだから。それとハルトも悪いけど、ノエルとへレネーを連れて帰ってやってくれないか?わりかし邪魔なんだよ」


 俺は先に、この現状を片付ける事の方が優先とばかりにお願いやら、逃げようとしているグランを捕まえ、ハルトに指示をする。




 そうして、てんやわんやと色々在ったが、何とか片付けと事態の収拾が終わり、


「はぁ……悪いなエイル。こんなに手伝ってもらって」


 頼んでおいてなんだが、俺はエイルに感謝を述べる。


 すると、


「別にアンタのために手伝ったわけじゃないわよ。あのまま帰るのも悪いと思ったし、それに……」


 そっぽ向いて何だか歯切れの悪い回答が帰ってきた。


 そんな歯切れの悪い回答に、


「あはは。それより、お前も何か頼みたい事が有って、ここに来たんじゃないのか? 今回のお礼じゃないけど、俺で良いなら聞いてやるけど?」


 深追いして、ど壷にはまる事だけは避けたかったので、話を変える事にした。


 すると、


「あっ!! そうよ! これなんだけど、今までも自分で綺麗にしたり、手入れはしていたんだけど、流石に蟲の体液で遣れちゃって……それで自分ではもう治せなくて」


 思い出したようにエイルは、背中に担いで大事そうに包装されていた物を手渡してきた。


 中身を確認すると、【トリアイナ】だった。

 俺は渡された【トリアイナ】をエイルの話を聞きながらマジマジと確認して、


 コイツをエイルに渡してから一度も修繕や手入れを直接してなかったが、状態がすこぶる良いというか本当に綺麗な状態だ。 話の通り、刃の一部に酸遣れが見受けられるけど、他に関しては俺が渡した時と変らない、いや渡した時よりも綺麗な状態だ。 


 本当にエイルが【トリアイナ】を大事に扱っていてくれているのが判るし、手入れが行き届いている。

 この酸遣れも自分でどうにかしようとした後も見える位だと、製作者としての歓心と感謝を覚えて、黙って見ていると、


「どう?私なりに大事にしてきたんだけど……治りそうかな?」


 と、心配と不安そうに尋ねてきた。


 そんなエイルの言葉で、


「ああ、悪い悪い。本当に大事にしてくれてるみたいで嬉しくてついな」


 我に返りつつ、口から本心が零れ出た。


 そんな俺の零れ出た本心を聞いたエイルは、


「……っ!」


 顔を赤面させて驚き、俺と目が合うと俯いてしまった。


 そんなエイルの様子に俺は、


「なに照れてんだよ? もしかして本職の俺に褒めらた事がそんなに嬉しかったのか?」


 すこし嬉かった事もあって、冗談交じりの言葉を言った。


 すると、


「べっ別に褒められて嬉しいわけ無いでしょ!! それより治るの?治らないの?どっち?」


 バッと顔を上げたと思ったら、早口に言葉を返してきた。

 

 しかし、エイルの顔は真っ赤なままなので俺は、


「はいはい、そういう事にしといてやるよ。 あと、治るか治らないかだけど、これくらいなら朝飯前だ。ちょちょいと治しといてやるよ」


 手をパタパタと振りながら、ビンゴなどと思いながら返事をした。


 そんな俺の反応に、


「もー違うってば!!」


 エイルは何故か必要以上に恥ずかしそうに否定して怒った素振りをみせてきた。


 そんなエイルの反応に俺は、

 

 コイツにも可愛らしい部分が有るんだな。はぁ……いつもこれ位の可愛げが有れば良いんだけどな。


 なんて思いつつ、


「判ったって。 それより……はぁ。 其処の二人にも見習って欲しいもんだよ。毎回毎回、人の作った物をぶっ壊して持ってきやがって。少しは反省してもらいたいよ」


 そう言いながら俺は、目線を一点にむけた。


 その目線の標的にした二人は、反省という看板を首から吊り下げた状態で正座しており、俺の目線が自分達に向いていると判ると、ビクっと体を震わせ、


「いや……悪いと思ってるよ……」


「ふえぇぇぇ、ごめんなさい」


 互いに弱々しく言葉を発する。


 しかし俺は、


「聞く耳もたんよ。暫くそこで反省してろ」


 反省を促した。


 そんな俺の言葉に若干シュンとした様子を見せている二人に俺は、

 

 まぁ、少しはこれに懲りて武器を大切に扱うだろう。


 なんて思いながら【トリアイナ】を、綺麗にした木台の上に一旦おいて、修理の準備に取り掛かりはじめていると、


「ほう、これはエイルさんが自分で手入れしてたのかのう?」

 

 後ろから声が聞こえたので、


「師匠、もう起きても大丈夫なんですか? エイルが治癒魔法で治療してくれてたとは言え、あまり無理はしないでくださいよ」

 

 師匠が起きてきたんだと判ったので、心配もあったが、


「ほうそうか、エイルさん色々と迷惑をかけてしまったようじゃな、すまんかった」


 俺の話で何があったのか大方理解したのか、師匠がエイルへと向きなおり頭を下げてお礼を言うと、


「いえいえ! 頭を上げてください。 私は別に大したことはしていないですし、治療だって私の専門で当たり前の事ですから」


 あたふたと早口で照れるエイルだか、どこか嬉しそうにみえる。


 前々から思っていたが、枯れ専のエイルへのお礼に、アシストになるだろうと思って話を振ってみたが正解だったみたいだ。


 それに、


「本当にエイルさんは良う人が出来ているのう。うちの弟子とは大違いじゃな」


「うぅ、そんなに誉めないでください……恥ずかしいですよエイズル様……」


 何か傷付く言葉が混じっていたが、上手く話が盛り上がってくてれているようで良かった。


 そしてしばらくの間、他愛のない談笑が続いていだが、


「ところでじゃが、この槍は自分で手入れをしていたのかのう?」


「は、はい! でもまだまだ未熟な所ばっかりで、今回も自分では修理ができなくてヒルトに治して貰いに来たんです……」


 エイルが師匠から聞かれた事以外に、何故か落ち込んだ様子で答え始めたて、


「ふむ!エイルさん。 ワシの弟子にならんか? もしかしたらヒルトよりも逸材の予感がするのう」

 

 この一言から事態は在らぬ方向へ進み始めてしまっいうが、


 っ!!………あぁぁ、また師匠の悪い癖か。

 

 と、この言葉を聞いた最初こそ驚きはしたが、また師匠の女性には異常に優しいという、これに何人の女性が泣かされたと言われた悪い癖が出たかという気持ちと、エイルの反応が面白そうだと思って、この話を傍観する事にした。


 そう、後に俺は、この選択肢は間違えだったて気付く事になるとは知らずに。

 

 




 

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